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2021年 共通テスト「化学基礎」過去問解説②第2問(解説動画付き):令和3年度 大学入学共通テスト 本試

第1問、およびプレテスト「化学基礎」の解説は、こちらのページにまとめております。

それでは、第2問の解説をはじめます。

第2問(概略) 陽イオン交換樹脂を用いた実験

「陽イオン交換樹脂」という言葉が、「第2問」という表題のすぐ後ろにきています。第2問を通して、この陽イオン交換樹脂について扱う・・・ということです。そう、心がけておきましょう。

「陽イオン交換樹脂」自体は、「化学」で出てくるので、「化学基礎」だけ履修されている方にとっては、知らない言葉です。

こういう「知らないもの」が出てきて、それについて考察していく・・・というのは、共通テストでは、よくあるパターンだと思っておきましょう。
そうすれば、落ちついて取り組めます。

問1のはじめで、陽イオン交換樹脂についての説明が与えられています。

問題の中には、陽イオン交換樹脂のはたらきを知らなくても(理解できなくても)答えられるものの方が多いですが、そういう問題でも、陽イオン交換樹脂を理解できていた方が、よりスムーズに解答できます。

ここは、少し時間をとって解釈しておきましょう。

もっとも、それほどわかりにくいはたらきをしているわけではなく、

・・・Na⁺ などのような陽イオンを陽イオン交換樹脂に通すと、水素イオンH⁺ に交換されて出てくる、ということです。

それでは、各問いをみていきましょう。

第2問 問1a 正塩、酸性塩、塩基性塩の分類

正塩、酸性塩、塩基性塩は形式的な分類です。

電離(陽イオンと陰イオンに分かれること)して、・・・

水素イオンH⁺を生じるもの:酸性塩
水酸化物イオンOH⁻を生じるもの:塩基性塩
H⁺もOH⁻も生じないもの:正塩・・・と考えるといいでしょう。

選択肢それぞれの電離式を示して検討していきます。

①:CuSO₄ → Cu²⁺ + SO₄²⁻ ・・・正塩

②:Na₂SO₄ → 2Na⁺ + SO₄²⁻ ・・・正塩

③:NaHSO₄ → Na⁺ + H⁺ + SO₄²⁻
・・・水素イオンH⁺が生じます。酸性塩です。正塩ではありません。

④:NH₄Cl → NH₄⁺ + Cl⁻ ・・・正塩

正解:③

第2問 問1b 陽イオンの価数

(こちらの動画の最後で、陽イオン交換樹脂のはたらきについても軽く説明しております。)

必要な情報をとり出しましょう。
「陽イオン交換樹脂」・・・とかいうもののはたらきが、よくわからなくても正解できる問題です。

問われているのは、「水素イオンの物質量が最も大きいもの」です。

また、問1の説明文で、(水素イオン)の物質量は・・・

(陽イオンの価数)×(陽イオンの物質量)

・・・で決まると与えられています。
これだけを頼りに、答えればいいです。

「陽イオン」を確認するために、選択肢それぞれの電離式をつくって、電離のようすを確認しておきましょう。

ア:塩化カリウム KCl → K⁺ + Cl⁻

イ:水酸化ナトリウム NaOH → Na⁺ + OH⁻

ウ:塩化カルシウム MgCl₂ → Mg²⁺ + 2Cl⁻

エ:酢酸ナトリウム CH₃COONa → CH₃COO⁻ + Na⁺

陽イオンというのは、K⁺、Na⁺、Mg²⁺などのことです。
金属イオンのことですね。
どれも、1つずつ生じていることが、わかります。

bの問題文の最初にでは、「同じモル濃度、同じ体積」・・・と与えられています。生じた陽イオンは1つずつなので、どれも物質量は同じ・・・ということになります。

例えば選択肢に硫酸ナトリウムNa₂SO₄ などが入っていたら「Na₂SO₄→2Na⁺+SO₄²⁻」のように電離しますので、陽イオンであるナトリウムイオンNa⁺は2倍生じますが、この問題では、それは考えなくてよいということです。

(陽イオンの物質量)は同じなので、(陽イオンの価数)で決まります。

ウのマグネシウムイオンMg²⁺だけ2価で、後はすべて1価なので、ウの水溶液の(陽イオンの価数)が最も大きく、(水素イオンの物質量)も大きくなります。

正解:③

補足:陽イオンや陰イオンがとりやすい価数も、すべて周期表にのっています。わからない人は、確認しておきましょう。

第2問 問2(概略) 陽イオン交換樹脂の利用

実験の内容を、よく理解しましょう。

ここで時間をとって、ある程度、解釈しておいた方が、後から設問ごとに必要なところだけみようとするより、スムーズにいきます。
上手な時間の使い方を、心がけましょう。

実験の目的は、放置され吸湿した塩化カルシウムCaCl₂ の試料A11.5gに含まれる水の質量を求めることです。

(塩化カルシウムは、家庭用の乾燥材としても利用されています。空気中の水分を取り込んで、二水和物(CaCl₂・H₂O)などの形をとっています。)

水の質量を直接求めるより、11.5gのうち塩化カルシウムCaCl₂ が占める分の質量を求め、それを11.5gよりひいた方が調べやすいだろう・・・ということで、この実験です。

塩化カルシウムCaCl₂ は、水にとかし陽イオン交換樹脂を通すことで、すべて塩酸 HCl(H⁺+Cl⁻)に変換されます。(カルシウムイオンCa²⁺は、陽イオン交換樹脂を詰めたガラス管内に残ります。)

ここで得られた塩酸のモル濃度や物質量は、中和滴定で調べることができます。塩酸の物質量がわかれば、元の塩化カルシウムCaCl₂ の物質量がわかり、質量も求められます。(計算は、c でおこないます。)

第2問 問2a 酸と塩基を混合した水溶液のpH

塩化カルシウムCaCl₂ は、強酸である塩酸HCl と強塩基である水酸化カルシウムCa(OH)₂ からなる正塩です。

よって、塩化カルシウムを水にとかすと、「CaCl₂→Ca²⁺+2Cl⁻」のように完全に電離し、水素イオンH⁺と水酸化物イオンOH⁻の数にまったく影響ないので、水溶液はもちろん中性です。

pHを問われているので、一見むずかしそうですが、実はこの問題は、「中性になるものを選べ」・・・という問題です。

モル濃度と体積も与えられていますが、すべて同じということなので、すべて同じ物質量だということです。

それもふまえ、各選択肢をみていきましょう。

①:希硫酸H₂SO₄ は強酸で、水溶液中で「H₂SO₄→2H⁺+SO₄²⁻」と、完全に電離しています。

水酸化カリウムKOHも強塩基で、水溶液中で「KOH→K⁺+OH⁻」と、完全に電離しています。

希硫酸と水酸化カリウムの物質量が、同じという前提でした。

希硫酸1つから水素イオンH⁺2つ生じ、水酸化カリウム1つから水酸化物イオンOH⁻が1つ生じるので、水素イオンH⁺の方が2倍多く生じることになります。

よって、生じたH⁺のうち、半分はOH⁻と中和反応(「H⁺+OH⁻→H₂O」)し、水となって消えますが、半分のH⁺はそのまま残り、水溶液は酸性を示します。この選択肢は、ちがいます。

なお、上記で説明したような内容は、用語を使って、
「塩酸は2価の強酸」、「水酸化カリウムは1価の強塩基」
・・・という言い方をします。

以下の選択肢では、そのように説明します。

②:塩酸は強酸で、水溶液中で「HCl→H⁺+Cl⁻」と完全に電離します。
塩酸は、「1価の強酸」です。

水酸化カリウムは「1価の強塩基」でした。

塩酸から生じる水素イオンH⁺の数と、水酸化カリウムから生じる水酸化物イオンOH⁻の数は同じです。

「H⁺+OH⁻→H₂O」で、水溶液中にH⁺もOH⁻も残りません。
水溶液は中性になります。この選択肢が正解です。

③:アンモニアは塩基です。水に溶けて・・・

「NH₃+H₂O⇄NH₄⁺+OH⁻」の反応で水酸化物イオンOH⁻を生じますが、すべてのアンモニアがこの反応を起こすわけではなく、一部のアンモニアからしかOH⁻は生じません。(⇄が意味するのは、逆向きの反応も起こって、常に一部のアンモニアしか電離していないことを意味しています。)

塩酸もアンモニアも1価ですが、塩酸がすべて電離しているのに対し、アンモニアは一部しか電離しないので、OH⁻よりもH⁺の数の方が多くなり、水溶液は酸性を示します。(正確には、もっと詳しい説明が必要ですが、「酸と塩基なので、酸性になる」という解釈で、問題ないです。)

④:水酸化バリウムBa(OH)₂は強塩基で、水溶液中で「Ba(OH)₂→Ba²⁺+OH⁻」と、完全に電離します。

水酸化バリウムは「2価の強塩基」です。
塩酸は「1価の強酸」でした。

これらの水溶液を混合すると、水酸化物イオンOH⁻の数の方が多くなり、水溶液は塩基性を示します。

正解:②

なお、酸や塩基の価数も周期表からわかります。
ここらへんの考え方を解説した動画のまとめページを紹介しておきます。
よろしければ、参考にしてください。

第2問 問2b 精密測定器具

〈実験Ⅰ〉の内容を検討しましょう。

まず50.0mLの水にとかしますが、この「50.0mL」という数字は、特別な意味はありません。試料Aを、十分に溶かしきれる水の量だということです。

この時点で、水の体積に特に意味がないことは、次の「100mLの純粋で十分に洗い流し…」という記述からもわかります。

この実験の過程で大切なことは、試料A11.5gに含まれているカルシウムイオンCa²⁺を、すべて水素イオンH⁺と交換することです。それにより、もとのCaCl₂ の物質量を求めることができます。

〈実験1〉により、およそ150mLの塩酸が得られました。

「およそ」なので、この段階では中和滴定でモル濃度を調べても、このおよそ150mLに含まれる塩酸の物質量は、およそでしかわかりません。

(ましてや、選択肢①や③のように、得られた塩酸の一部をはかりとっても、元の水溶液の体積が不正確なので、まったく意味はありません。)

でも、大丈夫です。
メスフラスコのような精密測定器具を使い、体積を一定(500mL)にすればいいのです。

この体積500mLの水溶液には、元の試料A11.5g由来の塩酸がすべて含まれています。

中和滴定により、そのモル濃度を調べれば、体積500mLに含まれる塩酸の物質量がわかります。正解は、②です。

④のメスシリンダーは、中学の理科の実験でも頻繁につかわれるもので、精密測定器具ではありません。

・・・でも、それを言ってしまうと・・・
①に出てくるビーカーも精密測定器具ではないので、消去法で、あっという間に答えは②と決まりますね。

下線部(b)の塩酸は、中和滴定のために調整するものですから、精密測定器具を使う必要があります。精密測定器具とは、「メスフラスコ」、「ホールピペット」、「ビュレット」などのことです。(どういうものか、わからない人は教科書や図録で確認しておきましょう。)

ですので、「精密測定器具」の知識だけで解けた問題ともいえます。ただし、問2cをすんなり解くためには、ここで説明したことも考えないといけないので、これでいいでしょう。

正解:②

第2問 問2c 中和滴定の計算

情報を整理しましょう。

問われているのは、試料A11.5g:塩化カルシウムCaCl₂ が空気中の水H₂O を吸収したものですが、その水の質量です。

(正確にいえば、塩化カルシウムが水分子を取り込みCaCl₂・nH₂O 〔nは自然数〕の化学式で表される構造をとっています。水和物といいます。)

ただし、水の質量は、直接調べにくいです。

ですので、試料A中の塩化カルシウムCaCl₂ の質量を調べ、それを全体の11.5gからひいて、答えです。
そのために、実験ⅠやⅡのような操作を行いました。

実験Ⅱで調製した塩酸HCl は、すべて試料A中の塩化カルシウムCaCl₂ に由来しています。塩酸の物質量がわかれば、もとの塩化カルシウムの物質量もわかり質量もわかります。

順番に行きましょう。

まず、⑴「〈実験Ⅱ〉で得られた塩酸の物質量」を求めることに集中し、求められたら、次に元の⑵「塩化カルシウムの物質量および質量」を求めましょう。

⑴「塩酸の物質量」

塩酸のモル濃度を求めれば、体積は500mLとわかっているので、物質量がわかります。モル濃度は、実験Ⅲの中和滴定の結果を使って調べます。

中和滴定の公式のようなもの・・・「acV=bc'V'」のようなものがありますね。あまり、こういうものに頼らない方がいいです。意味がとれていないと、使いこなせるものではないです。

具体的な意味をとって考えましょう。中和の条件なので・・・

(水素イオンH⁺の物質量)=(水酸化物イオンOH⁻の物質量

・・・と、なればいいですね。(具体的に「物質量」で考えてみる、という視点が有効です。物質量とは実質的に〔個数〕のことなので、H⁺の数とOH⁻の数を合わせると考えましょう。)

(水素イオンH⁺の物質量)から、みていきましょう。

塩酸のモル濃度が調べたいところなので、これを文字を使ってxmol/Lとしましょう。

モル濃度とは、1Lあたりの物質量のことです。〈実験Ⅲ〉では、10mLの塩酸をとったので、モル濃度に10mLを〔L〕に変換して、かければよいです。

「10mL=10×10⁻³L」として扱いましょう。
m(ミリ)というのは、「1000分の1」という意味なので、「×10⁻³」をつけて処理するのがいいです。

小数を使って、「10mL=0.01L」としてもいいですが、後で等式の計算のとき「×10⁻³」の方が、両辺から消しやすいので、こちらにしましょう。
(なお、物質量を意識すべきなので、ここらへんはごまかさない方がいい・・・というのが、私の考えです。)

ということで・・・

x×10×10⁻³(mol) ・・・これが塩酸の物質量です。

塩酸の電離式は、「HCl→H⁺+Cl⁻」です。
塩酸1molから、水素イオンH⁺は1mol生じます。(塩酸は1価の酸)

よって、この滴定における水素イオンH⁺の物質量は・・・

x×10×10⁻³×1(mol) ・・・となります。
最後の「×1」なんて無視して、「x×10×10⁻³」でいいです。


次に(水酸化物イオンOH⁻の物質量)です。
水酸化ナトリウムNaOHのモル濃度は、0.1mol/Lと与えられています。

中和に達するのに、40mL滴下しました。〔L〕単位に直して、40×10⁻³Lをかければ、水酸化ナトリウムの物質量になります。

0.1×40×10⁻³(mol) ・・・これが水酸化ナトリウムの物質量です。

水酸化ナトリウムの電離式は、「NaOH→Na⁺+OH⁻」です。
水酸化ナトリウム1molから、水酸化物イオンOH⁻は1mol生じます。
(水酸化ナトリウムは1価の塩基)

よって、この滴定における水酸化物イオンOH⁻の物質量は・・・

0.1×40×10⁻³×1(mol) ・・・となります。
これも最後の「×1」なんて無視して、「0.1×40×10⁻³」でいいです。

(水素イオンH⁺の物質量)=(水酸化物イオンOH⁻の物質量

・・・で、等式が立ちます。

x×10×10⁻³=0.1×40×10⁻³

両辺に10³をかけて、10⁻³をけしましょう。

x×10=0.1×40

さらに、両辺÷10

x=0.1×4

よって、x=0.4 ・・・〈実験Ⅱ〉で調製した塩酸のモル濃度は、0.4mol/Lとわかりました。
この溶液には、1Lあたり0.4molの塩化水素HClが含まれています。

今、500mL(1Lの半分)なので、塩化水素の物質量は0.4molの半分で0.2molです。(モル濃度0.4mol/Lに体積0.5L(=500mL)をかけて、0.2molを求めてもよいです。)

この0.2molは、すべて最初の試料A11.5gに由来するものです。


⑵「塩化カルシウムの物質量および質量」

塩化カルシウムCaCl₂ から塩化水素HCl への変化は、塩素原子の数(あるいはカルシウムイオンCa²⁺、水素イオンH⁺の価数)から・・・

CaCl₂ + 2H⁺ → 2HCl + Ca²⁺

・・・となります。

1molのCaCl₂ から、2molのHCl が生じます。
逆にいえば、2molのHCl が生じたとしたら、元になったCaCl₂ は1molだったということです。

この実験では、先ほど考えたように0.2molのHClが生じました。
元になったCaCl₂ の物質量は、0.1molだったということです。

CaCl₂ の式量は「111」と与えられています。
CaCl₂ が1molあれば、111gです。

今、0.1molなので、質量は111gの10分の1で、11.1gです。

試料Aは11.5gあり、そのうち11.1gがCaCl₂ の質量なので、試料Aに含まれている水の質量は、「11.5-11.1=0.4」より、0.4gです。

正解:①

以上です。ありがとうございました。
コメントなどいただけると、とてもうれしいです。
「こういう教材があったらいいな」のようなご意見でも、助かります。

執筆:井出進学塾(富士宮教材開発) 代表 井出真歩


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