創傷治癒と栄養~特に褥瘡について~
はじめに
最近、講義した内容を文章化してみました。
YouTube動画もあります(内容は一緒です)
チャンネル登録もよろしくお願いします。
自分は全く関わっていませんが、最新の知見をお求めの方はこちら特集もすごく勉強になります。
1. 創傷とは~定義と分類~
創傷とは、広義には全ての損傷を意味します。狭義には、「創にきずあり、傷にきずなし」ともいうそうなのですが、「創」とは皮膚の連続性が断たれた状態の開放性損傷を意味し、「傷」とは皮膚の連続性が維持された状態の非開放性損傷を意味します。
受傷原因による分類として、擦過創、挫創、挫滅創、挫傷、割創、裂創、刺創、切創、皮膚剥脱創などの分類があります。その他、熱傷や電撃症などがあります。
また、創傷は受傷時期からの経過時間によって急性と慢性の創傷に区別されます。これらは厳密な時間的区別をしているわけではありません。
急性創傷はおおむね1 週間程度までのもので、創傷治癒機転が正常に働くものを指します。例として、新鮮な外傷や手術創などが挙げられます。
慢性創傷は正常な創傷治癒機転が働かない慢性の経過をたどる創で、概ね4-6週間以上続くものを指します。その要因には基礎疾患など全身的な要因と局所的な要因が挙げられます。
慢性創傷では創傷治癒が遅延するわけですが、創傷治癒を遅延させる代表的な因子を以下の表にまとめました。
2. 創傷治癒の過程
創傷を治そうと思ったら、まず創傷がどう治るかを知らなくてはいけません。ここからは創傷がいかにして治るか(創傷治癒といいます)を解説します。
創傷治癒過程は、止血期、炎症期、増殖期、成熟期の4つのステージがあります。正常な創傷は受傷から治癒まで、このステージを経て治ります。つまり、なかなか治らない慢性創傷はこの経過のどこかでつまずいちゃっているワケです。これから、この4つのステージを詳しく見ていきますが、この後出てくる図の左側にある細胞はとても重要ですので、そこだけは何となくおさえておいてください。後半戦でも大活躍します。
止血期は出血凝固期とも言います。出血による凝血塊が欠損をふさいで止血する、受傷後5~6時間くらいの時期です。一次止血として血小板が凝集し血小板血栓を作ります。二次止血としてフィブリノゲンがフィブリンに変化しネットを形成してこの血栓を固めます。血小板からは「炎症細胞あーつまれ!」と号令がかかる(血小板からのシグナル伝達)ので、好中球やマクロファージといった炎症細胞が創内に誘導されます。
炎症期は受傷後3,4日目までの時期です。毛細血管やリンパ管の透過性が亢進します(なので滲出液が増えます)。血小板からのシグナルで好中球やマクロファージのといった炎症細胞の遊走が起こり、細菌や壊死物質が貪食除去され創が清浄化されます。
増殖期はおおよそ2週目くらいまでの時期です。炎症期のマクロファージなどから分泌された種々の細胞増殖因子の刺激により毛細血管の新生が起こります。また、線維芽細胞の増殖が始まり、そこからコラーゲンが生成され、肉芽組織が形成されます。
成熟期は2週間から数ヶ月にわたる時期です。再構築期、リモデリング期とも言います。アポトーシスにより不要となった線維芽細胞や毛細血管が消失します。コラーゲン繊維が変化(コラーゲンの架橋化)して肉芽組織が瘢痕組織に変化します。また表皮細胞が遊走して創が収縮・閉鎖され、上皮化が完成します。
この章のまとめ
創傷治癒には4つのステージがありそれぞれ主役となる細胞があります。
・止血期の血小板
・炎症期の好中球やマクロファージなどの白血球
・増殖期の血管内皮細胞や線維芽細胞、コラーゲン合成(細胞じゃないですが・・・)
・成熟期の表皮細胞とコラーゲンの架橋化
3. 褥瘡の発生要因
この章では褥瘡発生の機序とそのリスク因子について解説します。
褥瘡とは、外圧による不可逆的な阻血性障害で、いわゆる「床ずれ」と呼ばれるものです。寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、キズができてしまいます
皮膚組織が持続的に圧迫されると、血流が悪くなり虚血に陥ります。虚血に陥った組織が壊死し、褥瘡が発生します。
この局所の圧迫に関する要因としては、活動性や可動性が低下し体位を変えることができなかったり、痛みを感じなかったりすることが原因になります。また、骨が出っ張っているというのも原因の一つです。
皮膚が弱くなってしまうと褥瘡ができやすくなります。その外的要因としては、尿や便などによる過度の湿潤で皮膚がふやけた状態や、摩擦、ズレなどが挙げられます。内的要因としては、栄養不良、血流低下、酸素飽和度の低下などが挙げられます。
壊死した組織は細菌感染などでさらに悪化し褥瘡になりやすくなります。
これらから褥瘡を予防するためのケアで重要なのが、
除圧、スキンケア、栄養
になります。
※栄養に関連する項目はこちらの濃くした部分になります。
在宅患者さんにおける褥瘡発生のリスク因子ですが、最もリスクが高いのが低栄養になります。次いでベッド上で動かない、皮膚が湿っている、骨が出っ張っている、むくみ、糖尿病、椅子の上で動かない、関節の拘縮などがリスク因子です。
4. 褥瘡の分類
※NSTメンバーとしては(つまり褥瘡チームやWOCナースでなければ)、これらの分類は共通言語として、「こういうのがあるんだな」ってくらいに覚えておけばよろしいかと。ただし看護師国家試験に出たりなど試験的には重要なものもあります。
DESIGNツールは日本褥瘡学会が開発したアセスメントツールです。スコア、つまり点数で評価します。重症度分類用のDESIGNと経過評価用のDESIGN-Rがあり、重症度分類では重症かどうかで各項目を大文字または小文字のみで表現します。経過評価用では各項目をさらに細分化してスコア化し、重症度が高ければ高スコアとなります。
簡単に説明すると、小文字が軽症で、大文字が重症を表しています。点数を付与せず文字だけで表現するのが重症用のDESIGNで下の表記例の様に点数(=数字)を付与するのが経過用のDESIGN-Rになります。点数はDの項目を除いた点数を合計して表します。
※詳細は日本褥瘡学会のサイトをご覧ください。
NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)のステージ分類も有名です。これは深さによる分類で褥瘡の重症度を表しています。
※看護師国家試験で問われたこともあるので知っておいて損はないと思います。
色調分類は治癒過程による分類です。治癒過程は褥瘡の創面の色を反映しています。すなわち、黒は壊死組織の塊、黄色は壊死した脂肪組織など、滲出液多い状態です。これらの時期は炎症期に相当します。赤は血管に富む肉芽組織で増殖期に、白は周囲皮膚からの上皮化で成熟期に相当します。写真で見ると創傷治癒過程が何となく想像できますね。
以上がよく用いられる褥瘡の分類でした。このほかにもブレーデンスケール(Braden Scale)という褥瘡発生の危険度を評価する方法もあり国試で名前くらいは問われるかもしれません。
5. 創傷治癒に必要な栄養素
ここからは最後のパートです。いよいよ栄養の話になります。褥瘡発生最大のリスクは低栄養でした。この項目ではどのような栄養が良いのかを解説していきます。最初のころに「創傷治癒のステージによって創傷治癒の主役が異なる」、と説明したのを覚えていますか?ステージにあった創傷治癒環境を整えることが創傷治癒には重要です。という訳で、創傷治癒過程を見返してみます。炎症期、増殖期、成熟期の順に創傷は治癒します。次の図で各ステージにおいて重要な細胞をもう一度復習しましょう!
・炎症期では好中球やマクロファージなどの白血球が活躍します。
・増殖期では肉芽が形成されますが、毛細血管の新生に重要な血管内皮細胞や線維芽細胞とそこから産生されるコラーゲンの合成が重要です。
・成熟期では創の収縮・上皮化がおこり、表皮細胞やコラーゲン繊維間の安定維持に重要な架橋化が主役となります。
慢性創傷ではこうした治癒過程のどこかに障害が起きているワケです。褥瘡も創傷ですからこのステップを確実に踏んで治癒する必要があります。そのような観点から、創傷治癒に必要な栄養素をステージごとに見ていきましょう!
炎症期には、十分なエネルギー(炭水化物)とタンパク質を補うことが重要です。不足すると白血球機能不全をおこします。糖尿病や腎不全などがある場合には注意が必要です。過剰な糖やタンパク質の投与はこれら基礎疾患に悪影響を及ぼします。免疫能の賦活作用や血管拡張作用のあるアルギニンも重要です。
増殖期は肉芽を作るとても重要な時期です。各種細胞の増殖に必要なタンパク質とそのタンパク質の合成に必要な亜鉛を補充します。亜鉛は味覚にも関与しているので低下すると食欲が落ちてしまいます。亜鉛は牡蠣や牛肉に多く含まれていますね。またコラーゲン生成にも関与するアルギニン、鉄、ビタミンCやAを補充します。鉄はヘモグロビンの原料にもなり組織の酸素運搬にも重要な栄養素です。
成熟期は傷が閉じる時期です。皮膚の上皮化に有効なビタミンAやC、亜鉛が重要です。また、コラーゲンの架橋形成に必要な銅やカルシウムなどが不足しないようにする必要があります。
ここで注意しなくてはならないのは、これらの栄養素はどの時期も過剰に投与しても効果はないどころか過剰症を引き起こしてしまうことです。また、例えば亜鉛なら亜鉛といったように一種類の栄養素のみを摂取していれば良いわけではなく、さまざまな栄養素をバランスよく摂取する必要があります。
6. ガイドラインにおける褥瘡の栄養管理
では実際に褥瘡と栄養に関するガイドラインはどうなっているのかを見ていきましょう。
日本静脈経腸栄養学会の静脈経腸栄養ガイドライン(第3版)では、褥瘡の予防の項目で適切な栄養管理、経腸栄養剤の追加などが、治療の項目で積極的な栄養管理、十分なエネルギーとタンパク質量、アルギニン、ビタミンC、亜鉛などのサプリメントの追加が記載されています。
日本褥瘡学会の褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)では、先ほどの項目とほとんど一緒ですが、褥瘡の発生にかかわる危険因子がいくつか挙げられています。後ほど栄養スクリーニングのところで触れます。ここでも十分なエネルギーとタンパク質の補充が重要とされています。
特定の栄養素としてアルギニン、ビタミンC(=アスコルビン酸)、亜鉛に加えてL-カルノシン、n-3系脂肪酸、 コラーゲン加水分解物が記載されています。
コラーゲン加水分解物はコラーゲンペプチドとも言って個人的には期待している栄養素でもあります。肉離れしていた時に積極的に摂取しました。
日本皮膚科学会の褥瘡診療ガイドラインでも同様の記載があります。
ガイドラインをまとめると大事なものは3つです。
・栄養介入(NST)の重要性:予防にも治療にも、栄養管理は重要です。
・高エネルギー、高タンパク:体重(kg)当たり1日30-35kcal、タンパクは1.2-1.5gとされています。
・特定のビタミンやミネラルなど:亜鉛、ビタミンC、アルギニン、L-カルノシン、n-3系脂肪酸、 コラーゲンペプチドあたりが効果がありそうです。
7. 栄養管理の実際
創傷治癒、褥瘡であっても特に手順は変わりませんが、栄養管理の進め方を解説します。
※近い将来にこの栄養管理の進め方に関する講義をやりますのでお楽しみに・・・
栄養スクリーニングではガイドラインでもあるように、体重減少率や食事接種率、CONUTスコア、SGA、アルブミン、MNAなどを用いるとよいでしょう。当院のNSTではSGAとアルブミン値を入院時にみています。
スクリーニングに引っかかった場合、栄養アセスメントを行います。ODAという身体計測や、血液尿検査などの客観的なデータを測定します。
そのデータや患者さんの状態によって点滴なのか経管なのかなどの投与経路や、投与量を計算します。先ほども言いましたが高エネルギー高タンパクが基本になります。
先ほどのプランを実行します
栄養管理モニタリング項目としてガイドラインでは体重増加が推奨されていますが、多角的に評価することが重要です。
実際効果はあったのか? 問題はなかったのか?と言う観点で振り返り、再評価します。
そして、再度プランニングし栄養管理を行います。
食事だけでは不十分の場合、創傷治癒に重要な栄養素が不足している場合は、アルギニン、ビタミンC、亜鉛、L-カルノシン、n-3系脂肪酸、コラーゲン加水分解物などが配合された栄養剤を使うといいでしょう。
現実的にはこちらに挙げた商品になるかと思います。
※今のところCOIはなく企業案件でもありません。
まとめ
褥瘡発生の最大のリスクは低栄養
創傷治癒の病期にあった治療が重要
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