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グレート・ギャツビーが好きという話(後編)

 つづきです。

 さて、デイジーの「綺麗で馬鹿な女の子(a beautiful little fool)になってほしい、それが一番いい」のところについて、自分自身の決断とそれが招いた結果に対する無責任さには自覚がないのでは、ということ。なのだけれど、だからといって彼女が悪女と称されるのはちょっと違うと思う。その無自覚さについて彼女を責めることができるのは、マートル&キャサリン姉妹くらいか。少なくともニックではない。この時代の地方系お嬢さま育ち(ガチもんのブキャナン家とは比べ物にならない)にしては、ぎりぎりのところで折り合いを付けながら生きてきたのであって、その葛藤を抱えた芯の強さゆえに、ジョーダンは年上の彼女を放っておけず、あのトムがモノ扱いせず、Jギャツビーが執着する。デイジーはいうてJとの未来はないとうすうす思っていたはず。だんだんJの一人相撲状態になっていくからこそ、真夏のプラザホテルの、あのジェットコースターの頂上を登り切ったような緊張感がたまらない。

 というデイジーの見方もあり、ジョーダンに一番親近感を持っています。あと初見は特にニックに感情移入し過ぎるのでジョーダン最高、というか私やわ、となったわけです。ニックとの別れのシーンが本当に可愛くてよく読み返してしまう。そんなジョーダンは、プロゴルファーとして自立して生きる憧れのレディ、を実はチートで維持している。都会で生きるためには手段を選んでられないメインキャラクター達の一員。マートル・キャサリン姉妹のこともよく知っているようで、彼女たちとそう変わらないことをどこか自覚しつつも、外面だけ都会人を装って生きていられているのはデイジーがいるからだろうなとも。

 最後にニックについて。YouTubeの解説動画でもあったけれど、彼が友達にしたい人#1に見えていたらちょっと注意した方がいい、という一人称マジック。彼は、神様でも何でもないあの眼鏡屋の看板の目と同じ、傍観者でしかない。Jギャツビーの顛末を見届け、Jギャツビーに「グレート」とつけて残し、ずるずるしないでジョーダンを振ったのはポイントが高い。とはいえ、ニックがJを全力で説得して現実に目を覚まさせる、というのもファンタジーの世界ならあり得たはず。それもなく、ああもう何もかも嫌になったと、ニューヨークに失望して去っていくのがリアルであり、身につまされるようなところがある。

 グレート・ギャツビーが好きだという話だったはずが、書き出したらどうにも面白さが伝わらない内容になってしまいました。もっとマートルやウィルソンも深堀りしたいけれどとりあえずここまでで。ニューヨークといえば、ニックの目を通して描かれた、誰ともまともに関わらない見栄だけの孤独な冷たい都会、な空気感を感じられるものと勝手に期待していたものの、今のマンハッタンはだいぶ違うような感じがする。

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