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子どもの権利を誰が守るのか ~子どもの権利侵害・政治のネグレクト~

 法制審議会家族法制部会が8月30日に予定していた中間試案の取り纏めが9月以降にずれ込む見通しになりました。法案成立には未だ時間がかかりそうな様相です。
 さて、審議が長期に渡っていることから、既にお忘れの方もいらっしゃるかもしれませんが、法制審は審議開始当初に数名の参考人を招致し、意見聴取をしています。果たして、参考人の意見はどこまで中間試案に活かされていて、どこまで中間試案に活かされるのでしょうか。
 本記事は、昨年5月25日に開催された第3回法制部会で、参考人として意見を述べられた泉房穂・明石市長(弁護士・社会福祉士)の発言を議事録からそのまま抜き出し、泉市長が提出した説明資料を発言に沿う形で文章内に配置したものです。
 泉市長の「法制審議会へのお願い」がどこまで中間試案に反映されているのか、是非とも確認してみて下さい。

子どもの権利を誰が守るのか
~子どもの権利侵害・政治のネグレクト~
明石市長 泉房穂(弁護士・社会福祉士)
法制審議会家族法制部会第3回会議 

 明石市長の泉です。よろしくお願いします。まずはこういった機会を頂き本当にありがとうございます。感無量であります。限られた時間ですので,資料として提出しております今回のレジュメ以外に,明石市の小冊子「明石市こども養育支援ネットワーク の奇跡」をお配りしていますので,後ほど該当部分を御覧いただきたく,お願いします。 また,もう一つ,明石市の広報紙の中でもこのテーマを取り上げておりますので,ページ にしますと10ページ,11ページ辺りですけれども,後ほど御覧いただきたく,よろしくお願いします。
 それでは,基本的にレジュメに沿って御説明申し上げたいと思います。まず,それに先立ちまして,強い思いをお伝え申し上げたいと思います。離婚によって泣いている子どもがいないわけではありません。全員泣いているとは言いませんが,泣いている子どもは現にいると私は思っています。子どもが泣いているのに,それを見て見ぬふりするような社会ではなく,泣いていますよと指摘するだけの社会でもなく,泣いている子どもが泣き止むように,そして,そもそも泣かなくてもいいような制度を作るのが私ども大人の責任だと,私はそういった認識を持ってこのテーマに対応しています。

1.はじめに(発想の転換)

 まず冒頭,「はじめに」として,やはりこのテーマを考える際に重要なのは発想の転換だと思えてなりません。大きく三つ。まず第1は,子どもは子どもであって,親の持ち物ではありません。離婚のときに片方の親が荷物のように子どもの手を引いて立ち去るような離婚が望ましいと私は考えておりません。飽くまでも子どもは子どもであり,離婚に際しても子どもの意思,子どもの利益というものを最大限尊重するのが社会の責任だと思います。
 そして,二つ目は,かねてから言われているような「法は家庭に入らず」では子どもは守り切れません。大きな時代状況も変わってきておりますので,積極的な公的関与が必要だと思えてなりません。 そして,三つ目でありますが,子どもの貧困といわれますが,子ども自身がお金を稼いでいない以上,貧困なのは当たり前であって,すなわちそれは親の貧困であり,社会の貧困であります。言い換えると法制度の貧困で,このテーマについて法律を作ってこなかった関係者の正に怠慢だと思えてなりません。繰り返しになりますが,今回の議論が,きちんと子どもたちが泣かなくて済むような制度を作ることを強く期待したいと思います。
 明石市の取組でありますが,このテーマは私自身も大変思い入れが強うございまして, 市長に就任した10年前,その前から準備しておりましたが,3年ほどの準備期間を経て, 2014年,今から7年前にスタートを切りました。今回の委員の方々にも多くお力添えを賜っております。

2.明石市の取り組み 相談・情報提供

 具体的には,まず第1,情報・相談提供を対応しました。特にポイントとなり,最初にやったのは,やはり寄り添う相談であります。必要なのは専門性です。素人の一般行政職だけでは足りません。このテーマにお詳しい,FPICの方々や,弁護士が必要です。明石市では私以外に弁護士資格のある職員が現在12名おります。常に男女1名ずつ以上はこの窓口に配置をしている状況で,できる限り寄り添うような対応と考えております。あわせて,子どもの立場に立ったパンフレットや,親に対する離婚前講座なども実施してまいりましたし,また,毎年,児童扶養手当の現況届の提出月間である8月に合わせて個別の相談会なども実施し,このテーマについても可能な限りの対応をとっているのが特徴であります。

2.明石市の取り組み 取り決め支援

 二つ目ですが,取決め支援にも取り組んでおります。参考書式をお配りし,それを踏まえた上でアドバイスをし,さらには掛かる費用,公正証書作成費用や調停の申立て費用を全額明石市の税金で負担して対応しております。昨年度だけでも63人の子どもさんに公的助成を行っております。

2.明石市の取り組み 養育費

 続きまして,養育費です。特に特徴的なのは立替えです。明石市では既に3年前に民間保証会社と連携をして,その掛かる最初の保証料を明石市の税金で持つことを前提に立替え制度を実施しましたが,民間保証会社では限界があります。望ましい姿ではありません。 必要なのは公的立替えです。そういった観点から,昨年の夏,明石市独自で公的立替えを 実施いたしました。短い期間ではありましたが,32名のお子さんに対する対応をとりました。具体的に立て替えた方もいますが,立て替えるまでもなく,明石市が関わることによって任意の支払が始まった方もおられます。4人の子どもさんについて,明石市が関わるだけで養育費の支払が再開したということです。また,立て替えた後の回収ですが,関心がお強いかと思います。19人の子どもに立て替え,うち11名に養育費を払うべき方々から明石市に戻していただいている状況でありまして,100%全部回収というのは 難しかろうと思いますが,現状,半分強ぐらいは何とかなるのかなというのが実感です。 また,これもお伝え申し上げたいのですが,こういったテーマに関わることによって,何か大きなトラブルが起こるのではないかというような御意見があろうかと思いますが,特に明石市においてそういったトラブルは発生しておりません。もっとも,大変気を使う個々のケースに応じた丁寧さを必要とするテーマですから,その分,専門性と丁寧さということを心がけている認識であります。

2.明石市の取り組み 親子交流(面会交流)

 4点目はいわゆる親子交流,面会交流です。明石市としてもこのテーマに取り組み続けております。むしろ養育費より先に明石市は面会交流の直接支援を対応しております。面会交流のための場所を提供したり,そのときに利用いただくような交流ノートというようなものを作成し配布もしておりますし,それに加えて,明石市では5年前から明石市の市役所の職員などが立ち会う形で,いわゆるお子さんと面会交流をするときのお手伝い,具体的には片方の同居親からお連れいただいたお子さんを一旦お預かりし,そして別居している親御さんのところで過ごしていただくというようなことを現にしておりますし,また, 場合によってはそのお姿を見守るという形での付添い支援もしております。これまでに34人のお子さんに対して200回以上のいわゆる面会交流支援を実施しております。当然無料です。こんなことでお金を発生させるべきではありません。繰り返し申し上げますが, 養育費や面会交流で金を取るのは間違っています。それが公的機関であれ,また弁護士であれ,法テラスであれ,金を取るのは根本的に間違いであります。面会交流は子どもの権利です。養育費は子どもの権利です。養育費からピンはねするようなことを許してはいけません。このことは強く申し上げたいと思っております。

2.明石市の取り組み 関係機関との連携

 次のページにまいります。5点目です。関係機関との連携であり,明石市は一番初めにこれをスタートさせました。やはりこのテーマは行政だけでできるわけではありません。関係する方々としっかり手を携えて,できることを増やしていく。また,それぞれできることを確認し合って協力し合う,それだけでも大きな前に進むことだと思います。具体的 に,明石市では弁護士会や社会福祉士会や心理士会のほかにも,いわゆる公的な部分を担う法テラスや公証役場,また家庭裁判所にも入っていただいておりまして,裁判所も交えてこういったネットワーク会議を開催しているのが特徴であり,今も現に家庭裁判所の方々がお三方,明石市のこのネットワーク連絡会議に御出席いただいております。このテ ーマは裁判所も大変重要な役割を果たします。当然,裁判所は入るべきで,特に明石市の場合,様々な取組をしておりますので,家庭裁判所で明石市の面会交流支援を使うようにということを勝手に調停調書に書かれますが,それをするのであればきちんと相談いただきたいと,そのように思っておるところであり,家庭裁判所の怠慢は本当に許し難き状況であって,しっかりと対応してほしいと強く願う次第であります。

2.明石市の取り組み 関連施策

 関連施策といたしましては,そういった離婚を経験した子どもたちに楽しい時を,また, お互いの同じような境遇の子どもたちの会話という意味でのキャンプを開いたり,例えば 関連施策では,戸籍が取りにくい,取れない,そういった無戸籍についての相談窓口や, 戸籍取得支援もしております。さらに加えて,養育費がなくても子どもを育てる社会を作ることが重要でありまして,養育費に全てを期するべきではありません。そういう意味では,児童扶養手当の金額はもっと上げるべきです。また,2か月に1回でなく,1か月ご との家計管理の方が子どもにとって望ましいのは明らかであります。明石市では希望する方全員に毎月支給を実施しております。できることです。単なる国の怠慢です。行政の利便性ではなく子どもの立場で考えれば,毎月支給を早期に実施すべきだと思えます。

2.明石市の取り組み こどもを核としたまちづくり

 さらに,このテーマは繰り返し申し上げますが,全体的に私たちの社会が子どもに余りに冷たすぎるのが最大の原因であります。子どもに掛ける予算は,これもよく言われておりますが,OECD諸国と比べた場合,日本の子ども関係支出はほかの国の半分以下であります。すぐに子ども予算を2倍以上にするのは当然です。なお,明石市は,私が市長に就任した10年前から比べて,子ども関連予算は既に2倍以上,子どもを担当する職員数は3倍以上に増やしております。決して多い数ではありません。ほかの国並みです。日本が余りにも子どもに冷たく,子どもを無視し続けているだけでありまして,さすがにそろそろほかの国並みの予算と,ほかの国並みの人の数と,ほかの国並みの法制度を作るべき時だと思えます。
 なお,明石市ではこういった子育て支援のほかにも,児童相談所も2年前に,全国で9年ぶりとなる形で市独自で立ち上げ,そこの職員数も国基準の2倍以上の職員を配置し, 子どもの危機に対して寄り添っている認識であります。

3.法制審議会へのお願い 子どもの権利の明確化

 最後になります。法制審へのお願いであります。簡潔に5点,お願い申し上げます。まず1点は,子どもの権利です。養育費は同居親の権利ではありません,子どもの権利に決まっています。何を今頃こんな議論をしているのかと,子どもに決まっておるではないかと。面会交流も子どもの権利です,親の権利ではありません。養育費も面会交流も,そして,それ以外のことについても,子どもが意見表明できるのは当然であり,これは国連からも勧告を受けてきていることであります。早急に法制度の見直しを求めます。

3.法制審議会へのお願い 離婚手続きの見直し

 2点目は,離婚手続であります。こんなに子どもにひどい離婚制度はありません。親同士が合意しただけで子どもの状況に関係なく離婚を認める,こんな理不尽な社会がいまだ続いていることが本当に情けないです。早急に,子どものことを考えた上での離婚制度という見直しを強く望む次第でございます。

3.法制審議会へのお願い 取決め支援

取決め支援についても当然必要でありますが,公正証書にお金を掛けるのは間違いです。 早急に無料化すべきです。これに関わる弁護士や司法書士が金を取るのは間違っています。 法テラスも無料化するのは当然であります。子どもの権利である以上,その子どもの権利をしっかりと保障するのは公の責任であり,それは子どもやその親の責任ではありません。

3.法制審議会へのお願い 養育費の履行確保

 続きまして,履行確保であります。これもいろいろ言われておりますが,私としては罰則でも強制徴収でも立替えでも,とにかく絵に描いた餅ではなく,子どものところに食べられる餅が要るのですから,そのためにできることは全部やったらいいと思っております。 これは各国によって様々な対応がありますが,日本においては全部やったらいいと私は考えております。

3.法制審議会へのお願い 面会交流

 最後に,面会交流でありますが,養育費と面会交流はバーターではありません。それぞれ重要な子どもの権利であり,この二つをてんびんに掛けるべきではありません。両方大変重要な権利であり,両方しっかりやっていくべき,そのように思います。その際,特に重要なのは,いわゆるDV事案です。これについては様々な意見があることは重々承知しております。このテーマについて,DVに対するしっかりとした,より積極的な公的な支援を前提とした上で議論を進めていただきたい,そのことを強くお願い申し上げ,時間となりましたので,私からの説明といたします。期待をしております。よろしくお願い申し上げます。

(了)

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