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【前編】AIが将来の車両の価値を予測する!?「AI残価予測モデル」製作者インタビュー

車両の残価(ローン契約満了時点における車両の残存価値のこと)を、AIが高精度で予測してくれる。

このたび、そんな独自の機能を、株式会社IDOM CaaS Technology(ICT)が実装しました。
 
これまで車両残価は、中古車の相場を参考に、車種や車両の状態(経過年数や走行距離など)を見てローン会社やメーカーが独自に設定しています。

しかし、それには主観的な裁量が入ることも少なくなく、トレンドの変化もあり、相場の正確性に問題がありました。
 
そうしたリスクを解消するべく、IDOM CaaS Technologyが取り組んだのがAIの活用です。

AIの導入は、残価を用いたローン(残価設定ローン)にどのような革新をもたらすのか。製作チームの方々にお話を伺いました。
 

(左)株式会社IDOM CaaS Technology(ICT)で在庫管理・プライシングを担当している増子和希さん
(中)セカンドサイトアナリティカ株式会社の五月女貴平さん
(右)株式会社IDOM CaaS Technology(ICT)でデータ戦略を担当されている中津川賢人さん

最初に話を伺ったのは、IDOM CaaS Technologyで在庫管理・プライシングを担当している増子和希さんです。

株式会社IDOM CaaS Technology(ICT)で在庫管理・プライシングを担当している増子和希さん

◆憧れの高級車も購入できる残価設定ローン
 
――そもそも、「残価設定ローン」とはどういうものなのでしょうか?
 
購入する車両の価値がローン契約満了時点でいくら残っているのかを設定し、その残価を差し引いた金額でローンが組める方法のことです。

 例えば、240万円の車両を10年ローンで購入する場合、金利を無視すると、月々の支払いは2万円になります。しかし、その車両の10年後の残価(下取り価格)が50万円あった場合、190万円でローンを組むことができ、月々の支払いを約1.58万円にできるわけです。 

――それは、どのような方におすすめですか? 

残価を設定するという性質上、ローン契約年数があらかじめ決められているので、車両を寿命まで持ち切るのではなく、期間を決めてどんどん乗り替えていきたいという人におすすめです。

また、高額で手が付けられなかった憧れの高級車を購入したいという人にも有用です。


――残価は、どのようにして算出されるのでしょうか?
 
弊社では、基本的に過去のオークションの落札実績を基に残価を算出しています。しかし、これには大きな問題点がありました。

算出された残価は、あくまでも想定値にすぎないという点です。中古車の相場は、その時々の市況やトレンドに大きく左右されます。

そのため、過去のオークション実績からある程度は予測ができても、将来の価値を完ぺきに読み切ることはどうしても難しい。
 
車両の状態にもよりますが、一例をあげると軽自動車なら数万円単位で、高級車なら数十万円単位での誤差は簡単に生じてしまいます。

差額分は利用者様に清算していただかなければならないため、お得にローンが組めるようになる分、リスクもありました。

弊社としましても、利用者様に安心してローンを組んでいただけるよう、残価の正確な設定は至上命題だったのです。
 
――そこで生まれたのが、AIを活用した残価予測モデルです。
 


 その通りです。前述したように、中古車の相場を形成する要素は多岐に渡ります。

 市況やトレンドだけでなく、景気や為替、新車の販売台数の推移など、およそ人間ではすべてを処理して残価に反映させることは困難です。それを、AIに代わりにやってもらおうではないかという取り組みとなっています。
 
――AIを用いた残価予測モデルの実装は、業界内でも初の試みですよね。
 
はい。弊社が先駆けて実装したことにより、今後は他社様も追随する流れは出てくると思います。

しかし、それは決して悪いことではありません。予測と実体に乖離のない最適化された残価が導き出せれば、提供者側からすれば無駄のないサービス提供に役立ちますし、利用者様側にとっても負担が少なくなります。
 
弊社のAI残価予測モデルによって、業界全体に良い風を吹き込むことができれば嬉しい限りですね。

◆どのようにAI残価予測モデルは作られたか
 
次に、実際にAI残価予測モデルを作成したセカンドサイトアナリティカ株式会社の五月女貴平さんに話を聞きました。

セカンドサイトアナリティカ株式会社の五月女貴平さん


――AIの学習に際して、具体的にどのようなことを覚えさせたのでしょうか?
 
まずは、IDOM CaaS Technologyがこれまで蓄積してきた豊富な車両の査定データを、そして過去の中古車オークションの落札金額のデータを学習させるところから始めました。

それだけでなく、為替や金属価格、新車の販売台数など、中古車の相場形成にかかわるありとあらゆるデータを覚えさせています。
 
その結果として、車両の状態だけでなく、為替などの市況を考慮して残価を予測できるモデル作成に成功しました。
 
――AI学習に際して、苦労された点はありますか?

相場に影響を与える変数はなにか。また、それぞれの変数が相場に与える影響度はどれほどか。まずは、そこから考えました。 とはいえ、変数がわかってもデータがなければ意味をなしません。

為替や金属価格、新車の販売台数などはIDOM CaaS Technologyにもデータがなかったので、ゼロから収集、蓄積しなければならない。これには非常に頭を悩ませました。これは学習以前の問題なので、初動から大きな壁にぶち当たったといえます。
 
――とはいえ、いくらAIといえども、未来の車両価格を予測するのは難しいのではないでしょうか?
 
前述した車両の査定データやオークションデータは、過去数十年分にのぼります。

そうしたデータを基に、過去のある時点から現在までの価格推移をAIに学習させ、将来の残加を予測するという仕組みになっています。
 
もちろん、将来のことなので100%誤差がないとは言い切れませんが、人間がやるよりもはるかに精度が高くなります。

◆AIは人間の査定以上の正確性
 
――実際、どの程度の精度が担保されているのでしょうか?
 


現状のシンクロ率は、人間の査定以上、低くても同等レベルでは出るようになっています。
 
しかし、あくまでも過去のデータに基づく試算なので、例えばオープンカーやクロスカントリー車など、一部の流通量の少ない車種には弱いという今後の改善点もあります。

そうした車種に関しては大衆車よりも予測の精度が劣るという側面があるため、すべてをAIに委ねるのではなく、経験豊富な人間の目も加えることで、トータルとして安心して使っていただける残価予測モデルとなっています。
 
――AIと人間の二刀流によって、より残価が最適化されると。
 
おっしゃる通りです。AIを使うことのメリットはやはりその正確性です。その人の経験や主観によらず、どんな人が判断しても均一的な精度で残価が予測できるということがAIの強みです。

しかし一方で、データが少ない車種に関しては人間の目も活用しながらというのが、現状における最適解だと思います。

後編ではさらに「AI残価予測モデル」製作者の方にサービス誕生の背景について深掘りしていきます!
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