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走り続ける

2023年の秋は、予想もしなかったことが起こった季節として長く記憶されることになるかもしれません。

まずThe Rolling Stonesがニューアルバム“Hackney Diamonds”を発表しました。そのニュースを聞いたとき、「何か昔の未発表音源とかをかき集めたアルバムなのだろうな」と思ったのですよね。

だって、それはそうです。ローリング・ストーンズと言えば結成60年以上の超ベテランバンド。ボーカルのミック・ジャガーは80歳、ギターのキース・リチャーズが79歳、一番若いロン・ウッドで76歳。2021年には長くドラムを務めたチャーリー・ワッツも亡くなってしまいましたし、もうこのまま終わるのだろうな、と思っていました。

ところが。“Hackney Diamonds”は完全な新譜でした。そして、アルバム1曲目の“Angry”のミュージックビデオが公開されました。

この曲だけでなく、アルバム全曲を通して聴いてもそうなのですが、もう全然普通に最高な出来栄えでした。発表以来、ずっとヘビーローテーションになっています。が、このミュージックビデオからは一抹の寂しさを感じました。

サムネイルの若い女性がオープンカーで身体をくねらせる映像に挟まれるのは若い頃の演奏シーンばかり。最後に現在のローリング・ストーンズと思しき映像が出てきますが、3人は穏やかに微笑んでいるだけ。「ああ、もう演奏するローリング・ストーンズを見ることはできないのだな」と思ったのです。

ところが。ほどなくして「ローリング・ストーンズが650人だけのシークレットライブをやった」というニュースが飛び込んできました。ネットには短い演奏シーンも流れてきて驚愕しました。「まだ演奏できるのか!」と驚いたのは言うまでもありません。

更に数日経つと、ストーンズのオフィシャルYouTubeチャンネルにこのライブのムービーがアップされました。“Sweet Sounds Of Heaven”1曲だけですが、十分です。そこにはレディー・ガガをゲストに迎えて演奏するストーンズの姿が収められていました。

これが凄いのなんのって。ミック・ジャガー80才が跳ねながらシャウトするんですよ。レディー・ガガと真っ向から勝負できているそのエネルギッシュな感じは、人間の尽きない可能性を感じさせるものでした。

いや、凄いもの見たな、と思っていたら今度はこれが出ました。

2023年にビートルズの新曲が出るってどういうことなのか。その辺りの解説はあちこちにあるのでここには書きませんが。

この曲を聴いた時に感じたのは“Hackney Diamonds”を聴いた時に感じたこととは全く違うものでした。"Now and Then"のPVの中で、ストリングスの録音を聴くポールが映るシーンがあります。とても幸せそうな顔をしているのですが、それはやはり過去を向いているように思えてなりません。

違いは何なのか。メンバーが亡くなっているとかいないとかではないように思います。ローリング・ストーンズにとってもチャーリー・ワッツの死は大きかったわけですし。

そうではなくてバンドとして「走り続けてきたかどうか」なのではないかな、と思うのです。確かにポールもずっとプレイし続けてきた人ではありますが、ビートルズはとうにストップしたバンドです。それに対してストーンズは未だ走り続けている。その違いは大きいと言わざるを得ません。

走り続ける。言葉にするのは簡単ですが、実際の行動にするのはとても難しいです。だいたい、年寄りに変に行動されたら普通は迷惑ですからね。行動することが周囲から歓迎されるようでなければならない。それだけの実力を身につけて走り続ける。そんなことが可能なのでしょうか?

普通は無理でしょうし、後進に道を譲るべきです。とは言え、これだけ先生不足が叫ばれていますから、もしかしたら自分がそういう歳になったときにも、まだまだ走り続ける場所があるのかもしれません。

うーん。

“Hackney Diamonds”聴いてもう少し考えますかね。

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