お土産と株主総会 ~総会は、株主による経営監視に資するか~

 3月決算の株主総会の季節が到来し、招集通知が届き始めた。

私は、15年以上にわたりほぼ毎年ソニーの株主総会に出席している。最初に出席したのは、出井氏がトップの頃。その後ストリンガー氏、平井氏、そして今年は吉田氏である。

総会に出席して思うことは、この場に経営監視機能を期待するのは望み薄、の一言である。「ウォークマンが壊れてサービスセンターに駆け込んだら対応が悪かった。」「最近のCMのクオリティーが気に入らない。」等々の質問、何を聞きたいのかわからず、単に自分の思いを延々と演説する株主。総会においては、経営の中核に迫る質問の割合は僅かだった。

そのソニーの株主総会の景色が一変するのは、2014年、前年までホテルの大宴会場を3つ使ってテレビ中継までしていた総会が、1つ目の会場ですら一杯にならなかった。理由は簡単、お土産の廃止である。それまでソニーの総会は、ソニー製品(主に乾電池、年によってはポータブルラジオ)と出資先のマキシムドパリのケーキが配付されていた。しかし、その年は紙パックのお茶のみ。これが出席者激減の理由だった。確かにそれまでの総会の受付を見ていると、お土産をもらった途端会場を去る個人株主も相当数いたように記憶する。同日に開催される複数の株主総会会場を次々にはしごする、「お土産コレクター」もいると聞く。

お土産を廃止し、会場が1つに減った後も、総会で議論の質が上がったかというと、そうでもない。結局のところ、本気で経営に意見をしたいプロの投資家は、総会の場ではなく直接経営陣と会い、意見を交すエンゲージメントを行うのが通常となっているのである。株主総会はどちらかというと経営監視には縁のない個人株主へのIR活動の場であり、経営陣の「顔見世興行」の場なのだろう。

それでも、稀に株主総会は経営への牽制機能を果たす。ストリンガー体制下で、赤字決算を続けた後、2012年に彼が代表執行役を降りて取締役議長に就任した年の総会。指名委員会委員長の社外取締役は、「なぜ彼が議長に残るのか」という複数の質問に、「余人を持って代えがたい」などと、苦しい弁明を続けた。総会でのやりとりだけが原因だったとは思わないが、翌年ストリンガー氏は退任した。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31148170Q8A530C1DTA000/

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