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辻村 深月〈著〉『琥珀の夏』を読む

 辻村深月さんの最新作『琥珀の夏』を一気読みしてしまいました。次はどうなる。さらにその次は・・・。とのめり込んで読み進めてしまった。18年に本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』も、おもしろかったが、ここまでのめり込むことはなかった。最近の辻村さんは筆が乗っているというか、その問題意識も含めて、絶好調のようだ。

朝日新聞 2021年7月17日 書評より引用します。
子どもを翻弄した大人の価値観

 不登校の子どもたちを描いた『かがみの孤城』、親子の逃亡生活を綴った『青空と逃げる』ー辻村深月は子どもの物語が実に巧みだ。だがいずれも子どもを描いているようでいて、実は子どもを取り巻く社会の方に物語の核がある。新刊の『琥珀の夏』も同様だ。
 親元を離れ、自然の中で子どもたちが共同生活を送る〈ミライの学校〉。自立心と思考力を養うという触れ込みだったが、ある事件を機にカルトと糾弾されるようになった。その〈ミライの学校〉跡地から白骨死体が発見される。約30年前の、子どもの骨だ。
 それが自分の孫かもしれないので確かめて欲しいという依頼を受けた弁護士の法子(のりこ)が主人公である。
 実は法子にとってもこの一件は特別なものだった。なぜなら法子も、小学生のときに〈ミライの学校〉のサマースクールに参加したことがあったから。その時に知り合ったミカは今どうしているのか。まさか白骨がミカなのでは・・・・・?
 物語は小学生時代の法子とミカ、そして40代になった現在の法子の視点を行き来しながら進む。
 白骨死体の正体、ミカの行方、〈ミライの学校〉の秘密が徐々に明らかになる過程は驚きに満ち、先が気になってぐいぐい読まされてしまう。そこに浮かび上がるのは、親に翻弄される子どもたちの姿だ。
 カルトと批判される団体に子どもを入れたのは大人だ。その大人が誤りを認め考えを変えても、奪われた子ども時代は戻らない。渦中の子どもの思いと外の大人の価値観の両方を知り、自らも親となった法子の心の揺れが読みどころ。
 子どもは大人なしでは生きていけない。だが周囲を見渡せば、その大人が子どもを利用することがある。はからずも苦しみを強いてしまうことすらある。であれば、そこから救い出すのもまた大人の役目ではないか。子どもを通して社会や大人の役割を問う、辻村深月の真骨頂である。

評・大矢 博子    書評家

つじむら・みづき 80年生まれ。 12年に『鍵のない夢を見る』で直木賞。 18年に『かがみの孤城』で本屋大賞。


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