プレゼンテーション・レポート 新国立競技場 ザハ・ハディドアーキテクツ 2015.8.27(インポッシブル・アーキテクチャー)

画像1 この説明用資料集は、 私たちザハ・ハディド・ア ーキテクツとアラップ・ スポーツが一般の人々にプロジェクトを正しく理解していただくために、 また新国立競技場の新たなステップの討議のために作成しました。 資料は デザインの基となった様々な要求、 外苑の敷地について、 プロジェクトのコストなどを説明しています。 敷地が複雑で、 調逹や入札方式が限られ、 建設物価が高騰する中、今は現在のデザインを使わずに良い結果を得る可能性の希望的な利点ばかリ誇張されて述べられ、 リスクが軽視されていると感じたからです。
画像2 私たちはスタジアム設計に多くの経験があり、 この外苑の敷地に過去2年以上を費やしてきました。 これらのリ スクを手遅れになる前に説明する最適な立場にいると言えるでしょう。 ここではプロフェッショナルなコンサルタントの立場から、 問題点の概要を述ぺています。 同様 の過ちは過去のスタジアムでも繰リ返されてきました。 日本はそれらから学ぶべきで、 繰り返すべきではありません。
画像3 この日本の新国立競技場は日本という国が持つ素晴ら しさを、 短期間の投資において実現し体現する場となる べきでです。 スタジアムはこの投資に比ぺてずつと長い 期間存在するでしょう。 次の50~1 00年を担い、 国民の祝祭の場として敬愛される施設が生まれるべきです。 現在のデザインを維持して利用することがこれを実現する唯一の方法で、 建設市場に対する正しいコストと価値を達成して初めて、 日本の国立競技場として呼ぶにふさ わしい長期的な品質を達成することできるでしょう。
画像4 白紙撤回の目的が2520憶円より安い価格を得る為だけだとすれば、ーからデザインをやり直す事は不必要なリスクを招くだけであり、政府は撤回を再検討する価値があると考えます。私達はデザインの積み重ねを失うこと無く、施工者の間に競争力を生み出すこ とが問題解決への解答であると確信しています。 ※新国立競技場は、ほぼ「新しいスケジュール」で完成しました。
画像5 新整備計画は工事費を下げる為に行われるべきで、今まで培われたデザインを無駄にするべきではありません。新整備計画はデザインに費やす時間がとて も短く、デザインと価格が確定する頃には既に手遅れ になります。代わりに、現在のデザインを今から修正することでより確かな工事費を得る事が出きます。
画像6 私たちが知る限りにおいて、日本には今回必要なスタジアムの施工経験があり、この大プロジェクトを引き受けることができるゼネコンは5社しかありません。 この5社のうち2社は、既にプロジェクトに参加し、 2520憶円の工事価格をつけた施工業者です。 ※施工に係わる技術協力業務(大成建設、竹中工務店)新国立競技場施工業者(大成建設)
画像7 過去2年間クライアントの与件は、陸上競技とサッカ ーのスポーツモードを切り替えることができる可動式スタンドを持ち、コンサートを開催する為に屋根の開口部を閉じることができる開閉式屋根を持った多目的スタジアムでした。
画像8 大切な事はスタジアムの外殻のサイズとヴォリューム は、収容座席数だけによって決まるのではないということです。 収容座席数に関わらず、新しいスタジアムのデザインでは考唸しなくてはならないことがあり、これらの要素がスタジアムの大きさ、コスト、持続性といったもの を決定づけます。
画像9 フィールドの周辺すべてを照らすために、スタジアムに一体化した照明設備を50mの高さで設置する場所を確保しなくてはなりません。陸上競技は大きなフィールドの様々な場所で行われます。すべての競-が同じ高い基準の照明によって照らされる必要があ るのです。 スタジアムの照明は、比較的小さなピッチで行われる フットボールの試合でも機能する必要があります。
画像10 2020年の東京オリンピックは暑くて湿気の高い 気候の下で行われます。屋根は観客の快適性を考えると可能な限り太陽からの光を遮るべきです。もしス タジアムがフットボー ルでも使用されるのであれば、 屋根面はフットボールモードにおいてすべての座席を覆う必要があります。
画像11 イベントでは最大8万人の観客が集まります。彼らからの収益を最大にするスタジアムデザインを目指す事は決して避けられない要件です。 現代のスタジアムで、観客のイベント中の滞在時間と消費を増やすためによリ多くの飲食機能を座席から短い距離に配置するのはこのためです。 これにより、座席数に依るチケット収入に加え、どの座席の周りにも付随施設を配四して確実に収益が上が ることを目指します。
画像12 複雑な条件のもとでフィールドを適正な場所に配置し、かつ敷地周辺からスタンドヘ複数の方向から段差のないアクセスを計画すると、実現可能なオプションはとても限られています。現在のデザインは、 この敷地特性に合わせて最適化されています。
画像13 過去2年間に渡ってこの敷地を研究し、作業をしてきた私たちは、敷地にとって長期的に最も適した解決方法をデザインしました。 小さい敷地面積に対応し、チケットを持たない人の為 のコンコースを建物の内側に広げるなど、スタジアム周辺区域の面積を最大化し群衆がより自由に動ける工夫をほどこすなど、より小さな投影面積で安全な群衆管理を実現しました。
画像14 私達は2012年のロンドン五輪での直接の経験か ら、制限のある敷地の中で仮設席と常設席を併せ持つのは難しく、これによってコストを下げることができないことを知っています。
画像15 私達はロンドンや過去のオリンピックから仮設席の使用について学ぶべきなのです。仮設席の導入は、イ ニシャルコストを下げる為や時間を稼ぐ為でなく、オリンピック後の長期的なピジネスプランに基づいて 決定される必要があります。いずれにせよ、このオプションは現在のデザインに取り入れることも可能であ リ、キールアーチはシドニーのスタジアムでも同様の 目的の為に採用された構造デザインです。
画像16 私達は設計与件の要求を満たし、かつ敷地を周辺のコミュニティや東京、そして日本の人々の国立競技場とするためにデザインを発展させてきました。 最初に、与えられた敷地の制限、大きさや高さを元に、私たちは多目的スタジアムとして最もコンパクトで投影面積の少ないスタンドレイアウトをデザイン しました。
画像17 このコンパクトさによって、陸上とフットボール両方のモードでアクションがより観客席から近くなり、ロン ドンや北京と比較して更に閃の良い(高さと近接さ において)視野を確保することができます。結果とし てこの特定の敷地に最適化された、とても効率の良 いスポーツに集中できるスタジアムデザインとなっています。
画像18 2 0 1 2年のコンペを提出した時から、私達はこの敷地が持つセンシティブな状況とスタジアムの大きさについては十分意識していました。今回、水平な頂 部を持つスタンド形状では無く、「サドル型」のスタンド形状を提案したのはこれが理由です。 「サドル型」とはスタンドの頂部の高さがサドルの ように変化することです。これには2つの利点があリます。
画像19 第二の利点は、 サドル形状のスタンドが作る外形は 低い部分で24m高い部分で44mまで傾斜した立面を持ち、歩行者の視線からスタジアムの圧迫感を少なくすることができるので、多くの視点から高さの低い建物と感じることができるでしょう。
画像20 スカイブリッジはスタジアムの機能として不可欠なものではありません。しかし外苑の持つ公共性に呼応するべきと考えました。スカイブリッジとはサドル形状のスタンドに沿って配置された空中歩廊のことです。 スタジアムの通常時に使用することもできますし、毎 日外苑を散歩したりジョギングしたりする人に開放す ることもできます。
画像21 オリンピック施設の厳しいエ期に直面した私達の過去の経験から、スタジアムのデザインにはエ期を短縮するための利点が欠かせないと考えていました。 フィールドの長手方向に架かるキールアーチの提案がそれに当たります。 これは地盤の上に置かれたアーチで、視線が遮られない無柱空間を確保することができます。アーチは地盤の上にあるので、座席スタンド と並行して工事をすることができます。
画像22 キールアーチの効率とコストは、東京と似たような地築地域で同様のスパンを持つ他のスタジアムの屋根を支える鉄骨の重量を比較することによって可能です 。私たちはこのような検討を経て、 キールアーチは 効率が高く、コスト効果などの他の利点もある解決方法だと結論づけました。
画像23 2520憶円に開閉式屋根は含まれず、可動式の座席も含まれず、コンコースも部分的な覆いがついてい るだけです。 つまり、 既に固定8万席の陸上スタジア ムの市場価格になっているのです。スカイブリッジは贅沢かもしれませんが、2520憶円が現在の東京 でベーシックな8万席のスタジアムをこの敷地に作 る時の価格と考えてよいでしょう。 ※2015.7.7.JSC有識者会議 目標工事費2,520憶円、オリンッピク大会後開閉式屋根等を検討
画像24 現在のデザインはデザインの基本的な方針は変える こと無く、 より低い予算に合せて再デザインすること が可能です。これによって、 日本の国民は現在のマーケットに見合った価値の建物を得ることができまた長期的には投資した価値を取リ戻すことが出来るで しょう。
画像25 さらに高い品質のデザインは存在し、新しい予算に合わせて変えることができるのに。
画像26 更なるコスト削減は座席空調やスカイブリッジの中止をすることによって可能でしょう。 しかしスタジアム のデザインはコンバクトで効率的です。これ以上は収容座席数を大幅に変更するとか、さらに競争力の高い入札方式を導入するなどを行わない限リ改善する ことはできないと思います。
画像27 東京は2012年のロンドンと2012年オリンピ ックスタジアムから学ぶべきです。ロンドンのスタジ アムは設計施工一括方式でした。東京の2520億 円に対応する日本円での価格は 2180憶円でした。 ロンドンのスタジアムを良い買い物だったという人は 誰も居ません。デザインはとてもベーシックで、当初 の考え方はずっと妥協を余倍なくされてきました。
画像28 ロンドン五輪スタジアムの建設費は2019年における物価上昇に合わせたものを円換算ている 公表されている建設費用はオリンピック時 (2012年)に £486,000,000、2015年のレガシーへの改修費用に £272,000,000である。
画像29 政府がより良い価格をえるために新しいプロセスを進めたいのは理解できます。しかし、 デザインに不必要なリスクを冒す必要は無く、現在のデザインを維持した方が納税者のお金を有効に使うことになります。 過去2年にわたって考え抜かれて開発されたデザインはユニークなだけでは無く、東京のこの特別な場所に置いてコンパクトで効率的なデザインです。
画像30 現在のデザインは我々が他のオリンピックスタジアムで経験してきたことを全て内包しています。この知識と経験は活用することで日本は初めて国立競技場と呼ぶにふさわしいスタジアムを得ることができる でしょう。 ※新国立競技場建設費1,569憶円(観客席数68,000、フィールド屋根無)

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