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シネマレビュー『ピート市長』(Mayor Pete)

『ピート市長: 未来の勝利宣言』(Mayor Pete)をAmazon Prime Videoで2022年4月4日(月)に視聴。
2020年のアメリカ大統領選挙を闘い、ジョー・バイデン政権で運輸長官として閣僚入りした、ピート・ブティジェッジ(Pete Buttigiege)氏の選挙戦を追ったドキュメンタリー。
ブティジェッジ氏は、史上最年少(選挙戦当時38歳)で、オープンリー・ゲイとして初の大統領候補であり、パートナーとチャスティン・ブティジェッジと共に選挙戦を戦い抜いてゆく。

彼はインディアナ州サウス・ベンド市の市長だった。そして、市の最低賃金を上げたり、衛生問題を改善するなど、市民に寄り添った実績を着実に上げてゆく。
そして、市長から州知事といった道を経由するのではなく、いきなり大統領へと立候補する。
彼の強みは、常に冷静にあらゆる人と真摯に対話し、深く考え、高い倫理観をもって社会問題に取りかかる姿勢だ。また、敬虔な聖公会信徒でもあることも、アピールのポイントだ。
そして、ゲイであることをオープンにし、自分がマイノリティであることを根拠に、差別や格差を是正できることを強調する。

しかし、現実は甘くない。特に彼が白人であることで、アフリカ系アメリカ人たちの支持を得ることは非常に困難だった。
また、選挙戦の最中に地元のサウス・ベンド市で白人の警察官によるアフリカ系住民への発砲殺害事件が起こり、それへの対応に苦慮することになる。
ゲイに対する宗教右翼の攻撃にも遭う。そこで宗教左翼の理解を得ようと対話を試みるが、やはりここでも人種差別問題への問題意識の浅さを追求されてしまう。

幾多の困難を乗り越えて、大統領選を善戦するが、最終的には敗北し、バイデン政権をサポートする役割に回ることになった。
そして、この先、再び大統領の座を目指すかは、本人にもわからない。
この映画は、そんな彼の選挙戦が彼自身、また彼のパートナー、そして周囲の人々の人生をどのように変えてゆくのかを克明に描いたドキュメンタリーである。

この映画で強く印象付けられたのは、いかにアメリカ社会がセクシュアリティにまつわる差別、レイシズム、そして経済格差によって分断されているかということだった。政治家はこれらの問題に耳を傾け、真摯に向き合って、解決に力を注がなくてはならない。人々の不満は限界まで高まっている。そこから逃げる事は許されない。

さらに強く響いたのは、民衆が自分達の不満を遠慮会釈なく政治家にぶつける姿だった。そこに忖度は全く無いし、権力に阿る姿も無い。「政治家だったらなんとかしろ!」という叫びを、大声で雄弁に喚き立てている。社会で小さくされている者であっても、全く卑屈になる事なく、はっきりと物申している。そんな有権者が日本にいるだろうか。

ブティジェッジ氏は、誠実な人間性にあふれた人物として描かれている。その姿が嘘でないなら、是非いつか再び大統領選に臨んで欲しい。地球の反対側にいながらも、アメリカの政策の影響を受けざるを得ない国に住む者として、ブティジェッジ氏の動向は気になる。下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏と共に最も注目すべき人物だと思える。

それと同時に、どのような立場であれ、自らの抱えている問題を堂々と主張できるアメリカの文化に感銘を受けた。
日本にも差別や分断は山ほどある。部落差別、レイシズム、性的マイノリティへの差別、ありとあらゆる差別と、そして生活困窮者を生み出し続ける政治。
にもかかわらず、そこから目を背けて、無かったことにする人間が多すぎる。権力に抑圧され、痛めつけられ、立場や職を奪われる恐怖から、沈黙する道を選んでいる。
かく言う私自身もその1人だ。
黙らずにおれないことを、勇気を持って叫ぶこと。それが自分に求められているのだと、胸に迫るものがあった。

ブティジェッジ氏のことを知らない人も多いと思うが、このドキュメンタリーは観てほしいと思う。月500円でAmazon Primeに入会すれば、そこからは無料で視聴できる。

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