見出し画像

【短歌】夜明け前、世界の半分はこれから夜になる

喧騒を聞くことを拒否した耳が今はただ喧騒を聴きたい

吹き出しのように話せる人々を見ながら時が止まる雪の日

歩くのをやめてしまうと影だけが進んでしまうような路地裏

湖に古びた恋を捨て叫ぶ「金の恋ではないです女神」

しりとりでキスを期待しスキという 期外れのキリギリス…スだ

それぞれに舞う花びらの軌道から一つ一つの字が浮かぶ春

指示がきた「甘いコースは見送れ」と成長という名のコーチから

東京で君が教えてくれたこと 間奏で咲く花の存在

助手席に留まっている会話たちひとつひとつに体温がある

ごみ箱へ丸めて投げたあらすじが左にそれて始まる続き

街灯が見つめる雨も見つめない雨も地面を濡らすよ夜に

ぼくたちの日々を集めた小説に題名がない作者もいない

目の前で小指と小指を交叉し自分自身と約束をする

数分後そちらへ向かうそよ風は天使がした小さな悪戯

散り花も寄り添うだろう夕暮れに家路につく学生のように

お互いの独り言を聞いてしまい二人を包む共犯意識

歌詞にある自由の文字を孤独へとアレンジをして夜明けに歌う

さよならを打ち消すような音量で悪魔たちと歌うラブソング

あの人の名前を思い出せなくて一旦つけたカエルという名

この街で平等に降り注ぐ雨 コンクリートをさまよい消える

 窓ガラスをそっと閉じる 能力者として雨の音を消すように

海を打つ雨が境界をぼかして曖昧になる夢と現実

にわか雨で濡れた本を見るたびに記憶している言葉が消える

雨よ 今夜だけ 2人の空間を縮めるためのコンビニの傘

ホテルにてプールが俺を拒絶する 人魚が書き終えたclosed

雨上がりの街へ行くため選んだ意地悪という名のワンピース

今日の罪 方向音痴が連れていく路地裏の春を少し盗む

サーフィーもラクビーも存在しない君の世界で笑われた僕

Tシャツに「Don’t worry」と書かれた人を求めて街へ出かける

音もなく全ての星は散るだろうみんなの願いが叶うときに

一本の道が質量ゼロの点のように見えて決めた引退

さようなら君の姿を見送ると行き場なくさまようその言葉

長く閉じ込められたオレンジほどそのぶん香りが永く彷徨う

大切なものは帰ってくるからと息を潜めてトラックは行く

愛情を落とした場所で愛情が芽生えるならばと想い眠る

白ヤギか黒ヤギがいた下駄箱に ラブレターの返事がなかった

朧月 標識がいう 不倫せよ という俳句が妻に見つかる

空白を塗りつぶすため咳をする 咳だらけだな僕らの会話

旗を振る見上げた空でUFOが 頑張っている君へ、for you

バルコニー珈琲飲んで朝日みる 洗濯干してよと妻の声

強風でトビウオになる電線が 飛べないのか飛びたくないのか

重力と逆方向へ親指を立てる仕草を明日に返す

家族とはどうあるべきか混ざり合った親子丼が教えてくれる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?