短文バトル14「毎日」

 初めて正社員になったのは、34歳になる年だった。
 大学を10年遅れて卒業したくせに、就職活動は編集者・記者のみに絞っていた。
 就職できたこと自体、奇跡だと思っていた。

  就職活動での情報共有を同級生としなかったから、知識が乏しかった。
「ブラック企業」という言葉は知っていた。でも、フロント企業のことだと思っていた。
 
 入った会社では、「るるぶ」や「散歩の達人」を製作。
 ただ、労働状況は
・平日は9時30分~、土日祝日は13時~、ともに23時30分まで。休みはほとんどなく、最大で75連勤=月の残業は約200時間
・タイムカード無し。休憩は1日30分弱、無い日もざら
・月収は基本給15万5千円+謎の手当て3万円ほど。一眼レフカメラや文房具など、PC以外の備品はすべて自前

 経営者によるパワハラも
・「バカ!」は毎日言われる。減給や解雇を頻繁にちらつかされる
・仕事上のミスの原因は、すべて「やる気がないから」
・解雇でも、自己都合の退職を強要される

 紙面を作成する工程は、とても楽しかった。取材も、記事の執筆も、校正も。完成した雑誌が本屋に並ぶ姿を見た時の喜びは、言葉で表せないほど大きかった。
 それでも、パワハラで心がすり減っていった。
 
 友人に相談しようにも、時間が無かった。たまに相談しても「話、盛ってんじゃねーよ」という感じ。
 「このハゲー!違うだろー違うだろ!!」で名をはせた元政治家の方のおかげで理解を得られたのは、数年後。
 親に状況を伝えたが、昭和20年代生まれの2人にはパワハラの概念がなかった。「せっかく就職できた会社。やりたかった仕事。がんばりなさい」

 入社から10か月たったある日、体調が良いのに会社に行けなくなった。
3日後も回復せず、心療内科を受診。先生は「このままだと鬱になっちゃうね。診断書を書くから転職活動しなさい」

悟った。毎日暴言を浴びるのは、耐えられないということを。

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