※ネタバレ注意 祝・直木賞受賞!!馳星周『少年と犬』読書記

 ※一部ネタバレします。
 
 大好きな馳星周が直木賞を受賞した!

 実に7度目のノミネート。ネットでも「あれ?まだ取ってなかったの?」という声が上がっていたほどの実力者。
 文体に大いに影響を受けたくらい大好きなのに、最近読んでいない。調べると愕然。11年前の『沈黙の森』がラスト。それ以前は全部読んでいたが、言い訳にならない。読まねば!
 
 本を開いた瞬間、ため息が出た。「短編か。。」
 短編も嫌いではない。『クラッシュ』(2003年)は面白かった。ただ、長編の方が好き。

 「まあ、いいや」読み始める。
 1話目「男と犬」。舞台は東日本大震災後の仙台。
相変わらずの疾走感。ガンガン進む展開。その中で織り交ぜられる人間の寂しさ・弱さ・愛おしさ。
 「やっぱり馳星周!おもしろい。次の短編も読んでみよう!」
 「泥棒と犬」を読み始めた瞬間、声が出た。「つながっている!」。「男と犬」の続きの話。連作短編だった。俄然楽しみになる。

 引き続きガンガン進む展開の中に、主人公の過去の描写が混ざり、話が厚くなる。
 その中で、犬=多聞の存在が際立っていく。各話ごとの主人公によって、名前が変わる。賢く誇り高く、従順。常にある方向を見ている。
「犬は無償のお師匠さま。人間は自分も含めて、愚かでどうしようもない」(朝日新聞 2020年7月16日付朝刊)
 直木賞受賞時の馳の言葉の通り、人間は過ちを犯し、命を落とす者もいる。多聞は、誰に飼われてもブレることがない。

 最終話「少年と犬」。すべてがつながる。
多聞がなぜ常に同じ方向を向いていたのか。何年かけて、どこからどこへ移動したのか。目的はーー。

 馳のデビュー作「不夜城」など、ノワールにはない感動のラスト。
 馳が、東日本大震災だけでなく、震災被害と向き合っていたことがわかる。言葉と裏腹に、人間を愛していることも。美しいラスト。人によっては、落涙するかもしれない。

 気づけは、本屋で馳の「暗手」を購入していた。

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