いきりじじい
昔、雀荘に勤めていたころとんでもないいきりじじいの客がいた。
じじいなのにいきるのだ。じじいなのに金髪で後ろ毛がヤンキーの子どもなのだ。
雀荘メンバー(従業員)になると特殊能力が身につくのだけれど、新規のお客さんがきたときにぱっと一目見だけで「あ、こいつぁー、やべえやつだ・・・・・」というセンサーが働くようになる。
一般の人から見たら普通に見えても、「あ、ちょっとめんどくさいぞ、間違いない」という謎の第六感が備わるのだ。
逆に一般の人から見たらちょっと怖そうにみえたりやばそうにみえても、「あー、はいはい、ちゃんときれいに遊びはりよるだろな、心配そんなにせんでええわ」という逆バージョンの感も備わる。
いきりじじいを一目みた時に俺の第六感が囁いた・・・・
「いや、第六感とかじゃなくて後ろ毛がジャンボ尾崎の金髪じじいって誰がどうみてもめんどくせえわ・・・・・」
第六感スカウターがじじいのあまりの戦闘力に壊れてしまったのだ。
初対面ではじじいの特殊能力がどういうタイプのスタンドでどれくらいのやばさなのかを測ることすらできなかった。
すぐに明らかになるのだが、じじいのスタンドのタイプはその年齢にしてまさかの「いきり系」であった。
水見式なら「水が水素水に変わる」とかだろう。
いきりその1
あがった時に理牌(ハイをわかりやすいように順番に並べること)してある牌をわざと少しぐちゃぐちゃに並べ替えてから倒牌する。
何がしたいかわからないと思う人はいきりじじいへの理解が足りない。
理牌せずに麻雀できますよアピールなのだ!
(ちなみに雀力は店平均よりも弱い・・・・)
いきりその2
じじいには一人だけ頭のあがらないばばあがいる。
確かにばばあは気が強くはあるのだが、だからといってそれだけでじじいのおらつきが止まるのは不可解であった。
後に風の噂で聞いたのだが、じじいはばばあと裏カジノで客と客だか客と胴だかは知らないが、もともとそこでの知り合いで縁なり恩なりがあるのだという。
そんなじじいとばばあ、自分、若者の4人の卓で麻雀をうっていた時の話。
自分がダントツのトップ目で下3人が平たい(同じくらいの点数で競っている)中盤戦の東4局。
若者が早いリーチをかける。すでにダントツとはいえそれに向かうに値する手が入っていた親の自分は、危険牌をぶんぶんときっていく。
危険牌を何本か切った中盤でじじいが自分をぎろりと睨んで、ドスの効いた声で
「なめたことしとったら、やっちまうぞ!」
(え、なんで、じじいここでこんな怒ってんの・・・・・)
いかにおらつきいきりじじいとはいえ、こんなに怒ってるのは珍しい。
「やっちまうぞは、従業員あいてでも十分だめですけど、お客さんには本当にレッドカードですからね~~」
いなしつつ、なんとか頭の中を整理する。
雀荘メンバーをそれなりにやっていれば、ウザ客がどういうシチュエーションでどういうウザ絡みをしてくるかのパターンが見えてくる。
たとえばひっかけリーチに振ったとか、3フーロでバックの1000点をあがるとか。単純に大負けしてるとか。会話でいきりを笑いに変えるのをみすったパターンとか。
まあ、自分が大トップ目だからじじいの機嫌はよくはないだろうが、そういうことではない種類の怒り方なのだ。
なんだ?なんだ?これは何おこられですか?
自分の頭は混乱しながらも、しばらくして聴牌が入りおっかけリーチして6000オールの2枚かなんかをあがった。
次の局以降、じじいはさっきの怒りなどどこふく風で、何もなかったかのように麻雀を打ち続けている。
どういうこと????これ、なに怒りだったの????
卓を出てしばらくして閃いた。
さすが数々のキ○○イを接客してきた俺である。
論理がつながった。
「謎はすべて解けた!」
じじいの頭の中では自分と若者が組んでいる、もしくは自分が若者が2着になるように一方的にあがらせようとしていることになっているのだ!
ましてじじいにしてみれば、じじい自身はともかく大切なばばあにまで被害が及ぶズルをされていることになる。それゆえのあの怒りかただったのだろう。
そして実際には自分が大物手をあがったことで、その疑いが晴れて怒りが収まったのだ。
本人に直接聞いたわけではないので実際のところはわからないが、ほぼ間違いのない読みだろう。
イキリジジイはその性格ゆえに人につらく当たられる経験が多いので、強い被害妄想も備えてしまうものなのだ。
まあ、それはかわいそうといえばかわいそうだけれども、そんな組むとかするかいな!レートもたかだかピンだぞ、てか、いきりじじいのいる日どんだけ責任者であるおれのアンテナと注意力おまえに割かれてると思ってんねん、ボケ。時給2倍ほしいわ。逆にいうとおまえいない日かなりさぼれるんだけど、おまえいるとおまえを俺がずっとなんもおこらんようにおまえの後ろからずっと卓みてなきゃいけないの!たぶん誰よりも俺が一番おまえの後ろ毛見た時間長いぞ!
失礼、取り乱しました。
いきりその3
自分が立ち番でじじいの後ろ毛を、いや、じじいの言動で一般のお客さんが不快にならないように卓をほぼはりつきで見ていた時の話。
じじいが放銃(ロンされる牌を切る)して、
「今のわかる?うってあげたんだよ?」
うれしそうに言っている。
(あえて戦略的にあたり牌きってあげたの。俺はあたり牌わかるからさ。)
というドヤをしたいのだ。もちろん自分の手の都合で普通に切りたい牌をきってあたってしまっただけなのだが。
まあ、かわいいもんでしょう、他のお客さんもきもいとは思うが、逆にその嘘がスケスケなのでセーフ。
そして事件はオーラスに起こった。
トップ目のお客さんリーチ、2着目のお客さんもリーチ。
「うーん、トップ変えちゃもうしわけないからどっちのあたり牌も持ってるけどトップ目の方にうとうかな」
といって2着目には通っていて、トップ目には危険な牌を切って放銃。
いきりじじい的にはただただ当たり牌がわかるいきりをしたいだけだったのだろうが、これは店的にアウト。
なぜなら2着目の人からみたらじじいがじじい自身の利益のためにうったとは思えず非常に心象が悪いからだ。
2着目のお客さんの帰り際にこれこれこういうこと(いきり)で、特別悪意があるわけではないんですが、出入禁止も含みに入れて厳しく注意いたします、申し訳ありませんと謝ったあと、いよいよ本丸のじじいである。
だから時給倍くれて!やってられるかいな、こんなめんどくさい対話。
じじいに結局こちらの言いたいことが伝わったかどうかはよくわからないが、なんなら反省どころかおらついてたが、とりあえずイエローカードが出たということは認識していると思う。さすがに。
じじい最後の日
じじいがはじめてアウトを切った。(アウトとは負けた分が払えず店に立て替えてもらうこと)
自分の読みではじじいは無限に金持ちか、かなり逼迫しているかのどちらかだと思っていたが、後者だった。
雀荘ではアウトがあっても次のゲームやその後日も遊戯を許す店もあるが、うちは原則禁止。
次のゲームがうてず待ち席でぼーっとしているじじいに話しかける。
「○千円のアウトなので、後日お願いしますね、あと、○○日以降になってしまったら出入り禁止なのでよろしくお願いします。」
普通はできればまたお客さんとしてきてほしいし、返してもらうことが最優先なので、○○日以降になったら出禁ということは言わないが、いきりじじいが数千円でもし来なくなったらそれはそれで費用対効果抜群なので付け加えたのだ。
いきりじじいのことだ、またいつものようにしょうもない難癖をつけてきたり、謎にこの場面で金あるいきりでもはじめるだろうと思っていた。
「すまん。」
え、普通に謝った。え、え、まじか?聞き間違いか?
なんで急に素直やねん、普段からそれやれや!
じじいの中では小額でも金を借りることは情けないことらしいのだ。
いや、そりゃいいことではないよ。でも、今まで散々してきたしょうもないことに比べたらかなり小さいことなのにそこは申し分けなく思うのか。
じじいはその性格特性ゆえにしょうもないと見抜かれてるのに自分ではそれがわからず、つらい人生を歩んできたんだろうなあ、でもお金はみんなに価値共通なツールだからそれに関してはださいという感覚がちゃんとはたらくんだ・・・・・
じじいのその一言を聞いて、いや、一言しか言わなかった後の沈黙を聞いて自分はなんだか泣きそうになってしまった。
おわり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?