『SOMA』自己同一性の深みを揺さぶるホラーゲーム - 未日本語化の傑作ゲーム紹介#3 | 森田一郎の毎日戯文 #143
ドーモ、森田一郎です。
本日はホラーゲーム『SOMA』を紹介いたします。
本シリーズでは割とテキスト量が重いゲームを扱ってきたのですけれども、本作に関しては要所要所さえなんとなく理解できれば、あるいは理解できなくても雰囲気で楽しめるのかな?という作品であります。
『SOMA』の開発元は、スウェーデンを拠点とするFrictional Gamesです。同スタジオによる一人称視点ホラーゲーム『Penumbra』および『Amnesia』シリーズは、森田としては一人称視点ホラーゲームの火付け役的存在であると思っております。
もちろん、FPホラーには『DOOM(特に3)』や『System Shock』からの流れというのも存在するとは思うのですけど、実況文化の発達にも寄与した『Amnesia: The Dark Descent』などは一人称視点ホラーADVのマイルストーンと呼べるのではないでしょうか。ともかく、一人称視点ホラーゲームには定評のあるFrictional Games。シリーズものを一旦離れ、彼らのイマジネーションが炸裂した作品が『SOMA』であります。
本作の舞台は海中、謎の巨大複合施設です。プレイヤーは施設内で目覚めた主人公Simonとなり、なんか怖いのがうろうろしている見も知らぬ施設を、恐る恐る探索することになります。
主人公が思い出せる限りの直近の記憶は、最新機器で脳の検査を受けていたというものだけ。むしろ主観的には脳の検査を受けてる最中に施設にワープしてた感じ。マジで何もわからない。何ここ。こわい。おうちかえりたい。おうちかえりたい!!という一心で探索を進めるものの「そもそも帰るおうちがないかも」という記録を目の当たりにすることになります。ここまでが序盤のお話。
先のお話をするとネタバレの山になるので避けるとして、Simonの道行きは孤独なものではありません。序盤から終盤にかけては相棒のCatherineと二人三脚で施設脱出を目指していくことになります。だいじょうぶ、君は一人じゃないよ。
本作の魅力のひとつが、コズミック・ホラーと対比するのであればパーソナル・ホラーとでも呼べそうな恐怖の提示です。宇宙の広大さや個人の力では抗いようもない宇宙規模のイベントと、自分の卑小さを比較してみて怖くなることあるじゃないですか。ありませんか?えーと、ものすごく未来には宇宙が膨張して膨張して熱的死を迎えるのと比較して、自分ってせいぜい100年くらいしか生きられないんだ、とか考えると恐ろしくなりません?ありませんか?
ある前提でお話を進めますけれども、同じくらい恐ろしいのが「私は何だ?」という自己同一性の問題です。自我とは脳に宿るのでしょうか。「この私」の意識は些細な脳の電気信号や幾つかの化学反応が熾したものなのでしょうか。では脳をピタっと半分にしてどちらも意識を保っていたらどっちが私?どちらも私?そもそも私は脳をコントロールしているのか?脳が私をコントロールしているのか?この意識も行動も、電気信号と生理現象の傾向の表出でしかないのでしょうか?
宇宙規模のコズミックな恐怖と個人規模のパーソナルな恐怖の共通点は、「目を閉じても寝ても無視しても宇宙はそこにあるし、自我もここにあってその事実はどうしようもない」という部分です。そして「宇宙も自我も、その果てには何があるのかわからない」という点も。『SOMA』は、そのパーソナルな方の恐怖を克明に描き出そうとした作品であります。
『SOMA』はどちらかといえば、英語が苦手でも遊びやすい方のゲームだと思います。たぶん。「全然文章多いじゃねえか!!」と思ったらごめんなさい。しかし、英語がわかんなくてもなんとなく雰囲気だけでも楽しめるゲームだとは思います。
Frictional Gamesの『Amnesia』シリーズなどの他作品も、しっかり背景がありつつ同じく雰囲気だけでも楽しめるので、ぜひ触れてみてほしいと思う次第であります。
またあした。