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『書評の仕事』書評  インターネットが書評を変えた?

『書評の仕事』 印南敦史著 ワニブックス

 書評を書く以上、それが読まれているか、読まれていないかはやはり気になってしまうもの。あなたが書評に興味があるのなら、この本はきっと役に立つと思う。
 著者は印南敦史(いんなみあつし)さん。ウェブメディアを中心に年間約500本の書評を執筆する人気の書評家だ。著者の書評が出ると、その本のアマゾンでの売り上げが急上昇。Amazon総合ランキングが1位になった本も少なくないという。
 本書は、著者の経験を軸にして、書評家に必要なこと、要約の極意、読まれる書評と読まれない書評、批評と感想文の違いなど、書評にまつわる多くのことをまとめたものだ。
 なかでも興味を引くのが著者の書評の書き方について。インターネットの普及によって生まれた新しい書評(以下、ネオ書評)。その効果は実証済みだ。
 それは、書き手の主観が中心となる従来の書評(以下、トラッド書評)とは異なり、まず読者層のニーズを把握することから始める。そして次にその読者層のニーズに合わせて、批評や意見など書き手の主観をどの程度入れるか決めていくというものだ。
 たとえばライフハッカー日本版。いま知っておくべき情報をいち早く伝えることが目的の情報系サイトだ。読者は自分に必要な情報を求めてアクセスしてくる。彼らは、書評にも「役に立ちそうな情報」であることを期待しているのだ。「書き手の意見や考え方」などはどうでもよい。ここでは書物の内容の紹介、つまり情報提供に徹した書評だけが読まれるという。
 社会問題を題材とするオピニオンサイトではどうか。こちらは「役に立ちそうな情報」というより「書き手の意見や考え方」を読者は知りたいのだ。だから情報系サイトとは異なり、書き手の主観を積極的に出していくという。ただし、「書き手が出すぎないこと」が重要だと著者は繰り返し指摘する。それがこの書評の基本的なスタンスなのだと。
 ネオ書評は、トラッド書評と共存しながら“書評のある世界”に大きな変化をもたらしたと著者はいう。書評というコンテンツとその受け皿となるプラットフォーム。これらが融合してより多くの人が書評を認知し、書き手には広くその門戸が開かれたのだと。そしていま、スマートフォンが普及し、だれもが、いつでも、どこからでも、そこ(ネオ書評)に辿りつけるようになった。ウェブ上で本と読者をより身近なものにした新しい書評。その可能性はさらなる広がりをみせようとしている。

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