『披露目の経過報告』 春風亭与いち

三月一日に二つ目に昇進し、そこから十日空いて、三月十一日に新宿末廣亭昼の部で大初日を迎えた。
出番は師匠一之輔の前。
なんで。
どうして。
めちゃくちゃ緊張するじゃない。
せめて一本ぐらい離してくれても。
と思ったが、それがキッカケで取材なども入り、大初日に師匠と末廣亭の表で写真が撮れたのは嬉しかった。
師匠はすごく迷惑そうな顔をしていたが。
私のネタは「粗忽の釘」。
降りてすぐ師匠に「お先に勉強させていただきました!」と言ったら、
「俺がこのまま高座で釘やり直したいよ。」と。
そのまま上がって行って「子ほめ」。
後で録音を聴いたら、それはそれは酷いものだった。
確かにやり直したい。自分で。
なんだかフワフワしたまま終わった大初日。

次の芝居は浅草演芸ホールの昼の部。
出番はなんと、柳亭市馬師匠・林家正蔵師匠交互の後。
後だ。
落語協会会長・副会長の後だ。
前ではなく、後だった。
こんな事は滅多に無いらしい。そりゃそうだ。
これは先の芝居とはまた違う緊張があった。
初日、市馬師匠が

「与いちサン、お先に、勉強させていただきます。」

勘弁してくれーーーーーー!!!

「師匠!なんだか分かりませんが、本っ当に申し訳ありません!まさか師匠の後だとは思いませんで!」

「んんっ。俺の後かぁ。そうかぁ。与いちも、いい芸人になったなぁ。」

だから勘弁してくれーーーーーー!!!

もちろん洒落だが、その時の私には上手い返しが思いつかず、ただただ平身低頭するのみ。
そしてなんと、市馬師匠は御自身の高座終わりに、御自ら高座返しをされたのだ。
袖に居た我々も客席と同じ反応だった。
「うわぁ!」とか「あははは!」という反応ではない。
もう、皆揃って「ブワァァア!!」と沸いた。
ニコニコしながら丁寧に座布団の房まで直し、
「与いち」のめくりを出し、拍手を煽って降りて来られた。
そのお陰でお客さんにも盛大に迎えていただいた。
それからは緊張で自分が何を喋ったのか覚えていない。
ただ、「ブワァァア!!」と湯屋番をやっていた。
後で伺ったら、市馬師匠30年振りの高座返しだったそうです。
頭が上がりません。

そして、四月上席池袋演芸場夜の部は、師匠一之輔がトリの芝居だった。
先の浅草の芝居は大師匠一朝がトリ。
大師匠と師匠がトリの芝居に披露目で顔付して頂けたのは本当に幸運だ。
私としては、この事実だけで披露目を終えても悔いはない。
落語はしたいけど。

披露目も四分の三が過ぎた。
残すところは、四月下席の上野鈴本演芸場のみとなったが、既に沢山の方が祝福してくださり、本当に有り難い気持ちでいっぱいになった。

なんとか皆さんに、楽しんでもらいたいのだが、
今のところ、私は師匠一之輔の劣化版に過ぎない。
師匠が好きで入門し、師匠のようになりたいと思っているので、そうなってしまうのだが、
それは前座までしか許されない。
残り10日間で、二つ目「与いち」の落語が急に出来上がる自信はないが、それを目標に鈴本演芸場に臨みます。
引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

2021.4.11

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