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歩行可視化システムで人々の歩く姿 を美しく健康に!【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。

今回のレポートは「歩行可視化システムで自然と健康になろう! プロジェクト」です。

株式会社ジャパンヘルスケアの代表取締役であり現役医師の岡部大地さんに「歩き方を正しくする実証実験」の狙いや、予防医療として足の健康を持続させる方法などを伺いました。

若いときの歩き方の習慣が将来を大きく左右する

――普段は医師としても活動されているんですね?

岡部大地さん(以下、岡部):そうなんです。足を専門とする足病医として診療しつつ、ジャパンヘルスケアの事業を経営しています。

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――健康や予防医学の中でも「足」に着目したのはなぜでしょうか?

岡部:医師として患者さんを見てきた中で思っていたことがあります。一般的にひざ痛や腰痛などの筋骨格系疾患を扱うのが整形外科ですが、外来患者には湿布を出すだけであることが多いんですね。とても衝撃的な状況で、何もしていないに等しいのではと感じてしまいました。

実際に「整形外科での治療に納得していない患者は全体の45%」とのデータがあります。しかし、治療に不満を感じるほどの段階まで進んでしまってはすでに遅いケースが多い。もっと前の段階で歩き方や歪みを整えることで予防が可能だし、この状況はもっと改善できると思います。

「歩くスピードが遅いと健康によくない」ことは、医学的に分かっています[Shimada H, Makizako H, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015 Aug 1;16(8):690-696.]。若くても綺麗に歩けていないせいで早く歩けない人もいるように、歩き方は健康に関わります。私は「キレイな歩き方」を身につけることで、将来起こり得る足腰の障害を軽減できると考えています。まだそこまでエビデンス(医学的根拠)が十分ではないものの、さまざまな研究や私自身の現場での診断経験から見えてきました。

――「キレイな歩き方」はどのように定義されていますか?

岡部:実は以前、パリコレのモデルさんなど100人ほどのデータ取ったら、普段の歩き方がとてもきれいでした。そこで私達はモデルさんの普段の歩き方をゴールに設定しています。正しい歩き方の論議はさまざまにあるものの、「明らかに悪い歩き方」はあるので、それをしないことが大事です。

悪い歩き方の例
・猫背
・左右差が大きい
・内股がある
・膝が曲がっている
・歩幅が狭い 
・腕を振って歩いていない など

――歩き方によって予防可能な病気もあるのですね。

岡部:はい。本来は予防できるのに、対症療法しかなされていない。その現状に課題を感じていました。しかし自分の歩き方は自分では見えません。もともと私は予防医学を志していたので、それを画面で見えるようにして自分の歩き方を確認できるシステムを作り、事業化しました。

――社会にもたらすインパクトはどれほどあるのでしょうか?

岡部:国のレベルで捉えれば、年間約10兆円の介護費は減らせると思います。75歳以上の後期高齢者の中で「4人に1人は300メートル以上歩けていない」と言われています[国土交通省「全国都市交通特性調査」(平成27年)]。

中高生くらいの若い頃から全国民が正しい歩き方を身につけておけば、介護にいたる最大の原因である筋骨格系疾患の予防につながり、あくまで推測ですが、日本人の健康寿命を1年は延ばせるのではないでしょうか。

――その差は大きいですね。若いころに自覚していないと間に合わない?

岡部:そんなことはないです。何歳からでも、現時点がもっとも若いですから。ただ、長い人生のスパンで考えると、中高生くらいのなるべく早い段階から正しい歩き方を覚えておき、将来にわたって習慣を維持すれば予防医療につながります。幼少時に正しい歯の磨き方を習慣化しておけば生涯に渡って虫歯になりにくくなるのと同じです。

「姿勢を正すとキレイになれる」と若い人向けに訴求を工夫

――市川市で実施した実証実験の内容を教えてください。 

岡部:今回は和洋国府台女子中学校高等学校のご協力を得て実証実験を行いました。学生を対象にするのは私たちも初めての試みです。

対象人数は600名ほど。まず、実証実験の目的を知ってもらうため全校集会の場を借りて、30分間ほど歩き方や靴の選び方、履き方の大切さについての講演させて頂きました。

実験では、歩き方をチェックできる当社のシステム「MIRROR WALK(ミラーウォーク)」を使いました。登下校で必ず通る玄関に3Dセンサーを常設し、敷いたマットの上を3、4歩歩くだけでディスプレイ上に自分の歩くシルエットが表示されます。足の運びや姿勢を画像診断AIがチェックし、「エクセレント」「Good」などの達成度が表示されます。

姿勢・腕振り・足運び、それぞれ点数で評価してくれる「ミラーウォーク」

AIが見ているのは歩く姿勢と腕の振り方、足の運びの3点です。これらの改善点をAIがアドバイスしてくれるので、自主的にキレイな歩き方を身につけられます。

学校にスマホを持ち込むのは校則などで難しいかもしれませんが、もしミラーウォーク専用アプリをインストールできる環境であればそこに自分の歩き方のログを残すことができ、エクセレントを目指して友だちとゲーム感覚で競って楽しめます。

――楽しそうな一方、そもそも若い人は健康に興味がなさそうです。その点で何か工夫をしましたか?

岡部:女子校であったこともあり訴求は女性向けに振り切り、興味喚起の方法を工夫しました。校内に貼ったポスターのキャッチコピーを「美しく、キレイになろう」として、正しい歩き方がキレイな姿に、ひいてはそれが健康へもつながると伝えて行動を促すようにしました。

履くもので大きく損なわれる足の健康

――実際に体験した生徒たちの声はいかがでしたか?

岡部:対象生徒のうち「週に1回以上体験した人が約半数」いました。
定量的なデータ集計はこれからなのですが、定性的なアンケートの結果は出ています。
・歩き方がよくなった 約30%
・歩き方に興味を持つようになった 約60%
・今回の施策で歩き方は健康に大事だと理解した 約85%
・これまで歩き方を意識したことはなかったが見た目の印象がいいとキレイになれると理解した 約85%
・今後、歩き方をキレイにしていきたい 約85%

実証実験の学習効果が高く、今後につながる結果を得られたと思います。

学年別でみると、中学1年生はまだ幼くて自分の歩き姿に興味がないのか、体験者が比較的少なかった。一方で中学2年生以上のほうが体験者が多く、自意識の芽生える世代だからかとても関心を持ってもらえると分かったのは収穫でした。

また、中学1年生ですでに歩き方が悪くなってしまっている人が多いことが分かりました。

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――なぜ若いのに歩き方が悪くなってしまうのでしょう?

岡部:歩き方って誰にも習わないですよね。我流のまま誰からも指摘されず歪みを自覚する機会もありません。足の歪みは外反母趾やたこ、うおのめ、巻き爪、変形膝関節症、ヘルニア、坐骨神経痛などを引き起こす原因になり、膝や腰の痛みにも影響を及ぼします。

また、学校で一般的なゴム製の上履きは、足の観点ではかなり健康に悪いんです。健康に歩くためのポイントや作りがひとつも入っていない。ゴム製なのでサイズが合っていなくても無理やり履けるし、かかと部分の支えも土踏まずのアーチもなく扁平足になり放題で、足に良くない環境の履きものを子どもたちに強制して履かせていると言えます。

ローファーもあまりよくありません。ローファー履きで足を悪くして病院の外来に来る学生がたまにいます。みな学校に指定されているローファーを履いているのですが、よい靴だと足腰を痛めにくいので、若いうちから足を支えてくれるよい靴が履ける環境になってほしいです。

生活習慣病と同じで、若いころからの積み重ねで病気は起きます。年齢を重ねて診断されてからの治療では遅い。日々の靴の環境や歩き方を整えることが、自分の足で一生歩き続けられることにつながりますから。筋骨格と関係する靴の環境をまずは整えることが必要です。いい靴にはちゃんと土踏まずのアーチ部分を支える芯材が入っていますし、ゴム製上履きやローファーではない「ひも靴」であれば足のかたちと大きさに合わせて調整ができます。

本人の努力ではなく、環境を変える「ゼロ次予防」が重要

――実証実験で得た成果を今後、御社の事業にどう活かしていきたいですか?

岡部:ご協力いただいた学校はちょうど制服が変わるタイミングで、また、大学に服飾専門の学科があるため、靴メーカーと協業で学校指定の靴を刷新する話が盛り上がっています。「いい靴を履こう」というムーブメントを起こせそうです。

この動きがやがて市川市から全国まで広がってほしいと願っています。自身の健康への関心の低さなどから子どもを対象にした事業は難しいのですが、本来は子どもたちこそ姿勢を良くし、正しい歩き方を覚えるべきだと考えています。

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また、教育の観点では学校向けの講演を通じて歩き方の大切さを啓蒙していきたいです。

そのほか、子どもを対象に事業化できる可能性としては、ミラーウォークを健康診断のシステムに載せることです。健康診断では身長を測ったりしますね。そこに加えて歩き方を診断するシステムを使っていただければ、事業化ができるかもしれません。

また、歩き方だけでなく背骨が左右に湾曲した側弯症や猫背、O脚など、本来は子どもこそチェックしないといけないことを検診できるシステムを作りたいです。

――成人向けにはどのような事業を展開していくのでしょうか?

岡部:オーダーメイドのインソールを中心に展開しています。当社のインソールは履くだけで姿勢を整えることができます。今回の実証実験とは別の実証実験で100名ほどに試してもらったのですが、85%の人が「履いたほうが歩きやすくなった」と回答しました。 

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足の写真だけでつくる3Dプリンタ製のオーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」

私たちは、人々の足の寿命を100年に延ばしたいと考えています。片足だけで28個の骨があり、型の崩れ方が人それぞれ異なります。足は重力で下に歪んでいくんですが、インソールは唯一、下から支えられるものです。

ただし、歯の矯正器具と同じで定型化できないので、1人ひとりのかたちに合わせて整えるオーダーメイドである必要があります。それを普及させ、全ての人々が自分の足に合ったインソールを入れてほしいと切に願っています。

インソールなら本人が努力しなくても、靴に入れるだけでいいんです。環境を整えることで目指す予防を「ゼロ次予防」と呼びます。ダイエットや禁煙など本人の努力が必要な「一次予防」は行動させるのが難しいことが大規模研究から分かっています[Braillon A et al: NHS health checks are a waste of resources.BMJ 2015;350:h1006.]。私たちはゼロ次予防を目指し、環境にアプローチして人々のくらしを健康で豊かなものに変えていきます。

世界中の人々の足を支える予防医療で、痛みのない社会を創りたいです。

――ありがとうございました。

――

予防医療を事業に載せ、持続可能な取り組みに挑むジャパンヘルスケア。人間は立って歩く動物であり、まさに足元はその土台を支える支点となるものです。足腰をより確かにすることで、人生を豊かにしていく。人類全ての姿勢が良くなることを目指し、健康な世界を創る。けっして夢物語ではなく、十分に成し得る可能性を秘めていると感じました。

ICHIKAWA COMPANYならびに市川市は、市民のみなさんと専門性の高い民間企業の協力のもと、先進的な取り組みや課題解決を通じて都市のよりよい未来を目指しています。

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