MIU404 視聴想査隊~それでも「未来」を追いかける、第8話初動報告~

(バックナンバーはマガジン欄からどうぞ)(今回も観た人向けです)

第8話「君の笑顔」、まさかこれほど突き落とされるとは……味方と思っていたはずの人物の裏切り、使命に殉じての死とはまた別種のどうしようもない絶望感を覚えます。

描いてきた「警察の意義」の崩壊

犯罪者であろうと、生きて確保して適切な罰と赦しを与えたならば、更生のチャンスが生まれる……という意義を、MIUはこれまでずっと描いてきました、少なくとも僕はそれを軸と感じていた。
その軸が今回、二重に裏切られます。

まずは殺人・遺棄の被害者であり、轢き逃げの加害者でもある堀内。傷害で逮捕されたものの、比較的短期間(1年半)で出所……しかし、再び罪を犯して服役、さらに蒲郡を逆恨みして夫婦ごと轢きにくるという、目も当てられない悪人ぶり。何の罪もなかった、むしろ弱者の救いを願っていた妻(麗子)が命を落とすという、あまりにも理不尽な犠牲でした。これまでの警察の働きは何だったのかと嘆かずにはいられないような。
これだけ見ると擁護のしようがないのですが。捜査会議での「死亡してからの1ヶ月間、誰からも連絡が来なかった」という言及から察するに、どこにも居場所がなかったのでしょうね……だから凶行に走っていい訳はないですし、本人にやる気がなかっただけという可能性もありますが、何かセーフティーネットがあったならと思ってしまいます。

そして、殺人による復讐を選んでしまった蒲郡。
彼自身が担ってきた法による裁きではなく、犯罪による私刑を選んだこと。その基準や手段に、刑事だからこその経験が反映されていたこと。逮捕されるときに「早く死刑にしてくれ、生かすのは無駄だ」と言い放ったこと。
これまでのテーマを根底から否定するような、あまりにもショッキングな結末でした。

多くの人が指摘していたように、この構図は「アンナチュラル」でも描かれていました。第5話「死の報復」で、あるいは終盤の中堂の選択を通して。許せるかどうかではなく、「許されないと分かっていても殺す」という欲求に抗えるかどうか。そこで立ち止まり然るべき裁きに任せられるのか、その凶器を振り下ろすのか。
こうした描写を通して感じるのは、良心の帰還不能点(Point of No Return)です。心が壊れきってしまえばどんな善意も届かない、その前にどれだけ心を救えるのか、あるいは実行の前に止められるのか。

ちなみに。3話で「人と環境」の比喩として使われていた(ゆたかの)ピタゴラマシーンが壊れてしまっていたのも、蒲郡の暗示に思えるんですよね……そのマシーンでハムちゃんがビー玉を落としてしまうのも引っかかりました。

機捜の「最悪の瞬間の前に止める」という使命が改めて浮かび上がる回でもありました。蒲郡が逮捕された後に警察無線のラッシュが挿入されていたのもその意味づけなような。
あまりに残酷に裏切られても、それでも「まだ間に合う」誰かのために走れるのか。バディの信念が試されます。

未だ来ていないなら変えられる、未来を追って走れ404。

伊吹の原点と、志摩からの恩返し

ドラマの序盤、特に1話は「伊吹は危ない奴」という印象が強かったです。正義感と同居するマッチョ思考であったり、やんちゃさや無知さであったり。
今回、そのバックグラウンドが語られました。貧困家庭であり、身を守るために「舐められない」態度を選んでいたこと。勉強に集中できる、あるいは今っぽい遊びができる環境でもなかったことが、野生児っぽさにつながっているのでは(その割に、3話ではゲームが上手い描写もあったような)

そんな生い立ちでありながらも目標を持って努力し、反社会的な身分ではなく警察になれたのは、ガマさんとの出会いがあったから……という伊吹の回想は、悪に堕ちないためには人との出会いや環境が大事であるというテーマとも合致します。「ガマさんだけは信じてくれた」も重く響きます、信じられることで救われた人間を描いてきた。
さらに蒲郡は留学生のバディも担っていた、強く善性を持つ人物として描かれてきました。伊吹が全面的に尊敬したくなるのも無理はないですし、それゆえに伊吹の傷は深いでしょう。

伊吹の心情を知った上で、志摩は蒲郡の容疑を追います。これは刑事としての本分と共に、伊吹の知っている所で決着をつけなければという意図もあったと思います。あるいは、伊吹が違和感を覚えたままでいるのを止めたかった。
伊吹は6話で、志摩の制止を振り切って過去の真相を突き止めました。だとすれば今回、伊吹の気持ちが向いていない中でも彼を解明に巻き込んだのは、志摩なりの恩返しとも言えそうです。そもそも今回、伊吹に対する志摩の態度が非常に柔らかかったですし。

その極めつけがラストシーン。立ち直れない伊吹に声をかけ、手を差し伸べ、背中を抱いて歩いていく……という、ツンデレ志摩の屈指のデレシーン。自分が励まされたときの反応よりも、相手を励ますときの方が優しくなるのが志摩らしい。
伊吹が蒲郡に向けた「奥さんに囚われるのではなく、自分の人生を」という励ましは、伊吹自身にこそ向くように思えました。

「感情のバイアス」の突き方

志摩の台詞にもありましたが、今回の構成のキモはまさに「感情のバイアス」でした。第5話でこの上なく良い人物として描かれた蒲郡が、猟奇的な殺人に加担しているとは思えない、というよりも思いたくない
僕らだけでなく作中の人物もバイアスに振り回されてきました。殺し方に関する「犯人しか知らないはずの状況」という説明でも、捜査関係者は無意識に除外されていますし。冷静で、かつ蒲郡に(伊吹を通じて)踏み込んでいた志摩だったからこそ解明のきっかけになれました。
バイアスといえば。UDIでの神倉所長との会話で、伊吹が中堂について「連続殺人オタク?」と言及したシーン、アンナチュラル視聴組はグサッときたのでは……遺体を調査する側が当事者だとは思わないというバイアス。しかし所長も出てくれたの嬉しかったですね、着々と期待を叶えてくれている。

ちなみに、作劇における「感情のバイアス」はアンナチュラルでも生かされていた……ということが上の記事で指摘されていました。結騎さん(筆者)のアンナチュラル評は視聴者全員必読と思っています、なんなら毎週執筆も結騎さんの影響ですし。

裏切り方が巧かったのは確かで、まんまと振り回されたのは確かなのですが。殺人後の蒲郡の行動がやや謎なんですよね。振り回すことに特化した描写というか。証拠を隠滅せず、伊吹(と周囲の警官)には素直に自供した辺り、逮捕されることは当然と思っているでしょう。しかし、伊吹が訪れる前は堀内の死体遺棄に一切言及せず、堀内の過去について思い出せないという素振りも見せていました。いまいち一貫性がない。
とはいえ、蒲郡が脳にダメージを受けていたことも確かなので、それぞれのタイミングで「何を覚えていたか」が判断しにくいんですよね。殺人のことを覚えていない瞬間もあったかもしれない、という。
あるいは、伊吹を含めた警察を試したかったのかもしれません。せめて俺に辿りつける警察であってくれという願望の表れ。

そういえば、「小日向文世を登場させてただの良い人で終わるはずなかった」という感想も見かけました、石田彰がチョイキャラで終わるはずないみたいな感覚ですね……けど(同じく野木さん参加の)「重版出来!」ではずっと善人のキーキャラだったじゃないですか。ちなみに重版もトップクラスに好きです。

RECと成川のターニングポイント

RECと成川、一般市民から裏社会に吸収されかけている二人の変化が描かれてもいました。

まずはREC、もう「調子乗ってる」感がすごかった。初めは自ら現場に赴いていたのに、今ではバイトを雇って追わせているという。しかも「サイレンに反応してついてくる」という雑食ぶり……はRECのスタイルでしたが。
久住(菅田くん)がRECに目をつけていた辺り、彼も悪事に巻き込まれそうなのは確実なのですが。もう一つ、この野次馬っぷりが何かに効いてきそうな予感もするんですよね。1話から、現場に群がる市民に退避を呼びかける描写が強調されているように思えるので。

続いて、裏稼業に精が出ている成川。第3話で遭遇していた、しかも当時は善意を向けていたハムちゃんが追跡ターゲットであることを知らされます。
昔の善性が残っていたなら、「こんな人を危険にさらす勢力なんておかしい」という感覚が働くはず。
しかし徐々に久住に洗脳されてきた今ならば、彼女を獲物として解釈してしまうかもしれない。

そして次回予告を見るに、成川がRECに依頼してハムを探らせるという流れが見事に出来ているようです。彼らが踏みとどまれるのか、戻れない所まで行ってしまうのか……因縁の相手であるエトリも絡んでくるそうで、いよいよ最終決戦。楽しみですね……

(うっっっ)

死ぬのは直球か比喩か、警察か裏組織側か……とりあえず機捜メンバーや桔梗家は無事であってほしいですが。「この人が死んだら泣くでしょ?」的な安易な発想じゃなくて、ストーリー上でしっかりと意味づけされる、必然的で納得のいくものであれば、誰が死ぬのもアリなんですよ。ハリポタだって推しがたくさん死んで大いに悲しみましたけど、戦いの結果として納得してもいた(ローリングさんに文句言いたい気持ちはなかった)ので。

今回もお読みいただきありがとうございました、願わくばまた次回。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?