MIU404 視聴想査隊~喧嘩し続けるバディに祝杯を上げた第6話初動報告

(バックナンバーはマガジン欄からどうぞ)(今回も観た人向けです)

志摩の過去が明かされた第6話、情緒がぐちゃぐちゃになってしばらくは理性的な感想が浮かばなかった回でした。終盤ずっと泣いてた。

視聴者から遠ざかる志摩と「アンナチュラル」文法

伊吹と志摩のW主役とはいえ、より「視点」に近いキャラは志摩だ……というのが、第1話での印象でした。志摩の視点で警察内部を巡ってから伊吹に会って「なんだこいつ」となるのが1話の序盤でしたし、僕のスタンスも志摩寄りでした。
しかし回を追うごとに伊吹の人間味や善性が見えて、彼に対するシンパシーも上がってきました。同時に、志摩が内に秘める狂気や底知れなさが目につくようになり、徐々に遠ざかっていく……という転換を感じてきました。他にもそう感じた方は多いのでは。

そして今回。とうとう、志摩は謎を追う側ではなく追われる側……それこそ「容疑者」として描かれます。伊吹と志摩のバディ捜査ではなく、伊吹が志摩と「バディになる」ために謎を追うという異色回。

その極めつけが、志摩が「信用できない語り手」であったことでしょう。
香坂の遺体が見つかる前夜、香坂と共に屋上で過ごしている志摩と。翌朝、そのことを否定する志摩。その矛盾が視聴者の不安を掻き立てます。しかも、香坂と一緒にいるときの志摩、非常に温かいんですよ。「刑事じゃなくてもお前の人生は続く」という優しい言葉があるからこそ、志摩の真意が掴めない。

そんな不安があったからこそ。その矛盾の正体が志摩の願望、あるいは「夢」であったという構成には胸を抉られました。ちなみに、反実仮想のシーンになるときはライトが点くカットが入っています(他の人のツイートで気づきました、今回はマジで冷静に観られなかった)

機捜は「誰かが最悪の瞬間になる前に」たどりつく仕事、しかしかつての志摩は間に合わないどころか、追いかけもしなかった。それを罪としてずっと背負ってきた。

だからこそ、間に合う可能性を必死に追いかける今の姿には胸を打たれますし、自分の命を顧みない姿勢の源が罪悪感であったことに胸を締め付けられました。そもそも今回、明確なリミットが設定されておらず、さらには彼らが非番であるという点でもイレギュラーな回なんですよね。

その代わりに。事件の後に「亡くなった人」の真実を明らかにするという構造は「アンナチュラル」によく似ていたと感じます。特に今回、真実が明らかになることで死者の名誉が守られ生者は前を向けた……という点で、ビル火災を追った「遥かなる我が家」を思い出しました。MIUを観ているのにアンナチュラルの株がさらに上がるのなんなんでしょうね。
ミコトが間接的に登場していたのも熱いですね、第3話の感想で書いた感想が早くも実現しかけています、UDI本登場は厳しいかなあ……

「喧嘩する」バディの尊さ

志摩の後悔は、香坂の苦悩に手を差し伸べられなかったこと、言い換えれば心に立ち入らなかったことでした。そして香坂の最後の行動が分かった後、「伊吹みたいな奴がお前の相棒だったら」と心境を吐露します。これまでで最大級の、伊吹に対する評価に感じました。

今回の伊吹、頼まれてもいないし周囲に止められているにも関わらず、志摩のデリケートな部分に踏み込んでいきます。しかしその勢い、単純な興味ではなく「ちゃんと知らないと志摩を守れない」「放っておくと志摩はヤバイ」という直感に基づく行動だったと思うのです。実際、志摩はずっと追い詰められていたし、踏み込まれて救われたことに感謝している。

伊吹の熱意に巻き込まれていく周囲の隊員の姿も沁みましたね。伊吹の(志摩っぽい)誘導に乗せられて臨時バディを組んだ九重に、部下を案じて情報を開示した桔梗と陣馬に……特に、桔梗の「変な噂よりも事実を」という判断や、陣馬の「間違いも失敗も言えるようになれ」という言葉は、香坂の失敗を思うと余計に重く響きます。

過去の志摩と香坂、バディでありつつもお互いに遠ざかっているんですよね。香坂は志摩に認められるために一人で抱え込んで暴走していくし、志摩はそれを見破れなかった挙句に突き放してしまう。
それと対比されるような、今の伊吹と志摩の関係。スタンスの違いをぶつけ合いながら同じ目標に向かい、信頼だけでなく怒りもぶつけていく、「喧嘩する」姿は眩しく映ります。喧嘩するたびに、確かに理解は深まり絆は強まっていくから。「感電」のフレーズがことさらに沁みます。

「感電」といえば、2サビの「お前がどっかに消えた朝より」がずっしり響く回でしたね、香坂のことを示しているようで……当初、伊吹と志摩のどっちかが消える展開を考えていたんですよ、いやこっちもまだあり得るのですが。

暴走する正義と、最期の純真

タリウム事件を整理すると、

・真犯人に気づいた中山が、状況を楽しむべく自分に容疑を向けさせる

・捜査に訪れた二人に興味を引かせ、食いついてきた香坂を誘う

・自分がタリウムを持っているという香坂の疑念を利用し、お茶を飲ませることで「タリウムを飲まされた」と錯覚させる

・中山を犯人と断定した香坂は、タリウム注文メールを偽造、さらに(タリウム入りと思い込んでいる)自身の毛髪を証拠として提出

・別ルートで追跡されていた南田が逮捕される

途中まで、「犯人は二人が調べている怪しい女だ」というミスリードが巧妙に効いているのが上手いですね。過去編は香坂に感情移入させるような作りになっていたと思います。

ここで、タリウムを飲まされていないはずの香坂の体調に異変が起きていたのは精神的なストレスからでしょう。元から焦燥が激しかったですし、「致死性の毒を盛られた」という認知は毛が抜けるくらいのストレス要因でしょう。
つまり今回、ストレス性でも起こる症状を惹起する毒物を選ぶ必要があった。野木さんがアンナチュラルで吸収した医学知識がここでも活きます。ちなみにタリウムと聞いて「カリウムと似てる?」と感じた方はいい所に気づきました、カリウムと性質が似ていることが毒性につながっています。

心情に理解できる点があるとはいえ、証拠の偽造はれっきとした権力の暴走です。志摩がことあるごとに強調している「適切な手順だからこそ」の意味が、ここで一気に重くなる。警察の「正義」に、それを自らがなすことにこだわり過ぎた故の過ち。

しかし、真相はそれでは終わらない。
途中までは過ちとして描かれていた、純粋すぎる悪を憎む心が、最後の最後に人を救おうとします。
人が襲われているのを目にして警察に通報する、ここまでは善良な個人であれば踏み出せる一歩でしょう。しかし到着を待たずに自らも動きだし、犯人を威嚇するべく叫び続けるのは、人並み以上の正義感が必要なはずです。そしてアルコールと焦りが重なり、命を落としてしまう。

襲われた女性を救ったきっかけこそ香坂でしたが、実際に現場に駆け付けたのは他の警察官たちでした。それだけ見れば、香坂は大人しく待機していた方が正解だったかもしれません。少なくとも、酩酊を自覚した上で慎重に行動するべきだった。
しかし。酔いすら忘れて駆け出したことが間違いだったと断ずることもできないのです。彼は困っている人を前に立ち止まることなどできなかった、そして運悪く命を落としてしまった。

であれば、せめて、最期の瞬間のまっすぐすぎる正義の心が、遺された人に伝わることこそが、お互いにとっての救いだった。そしてその正義は、志摩と伊吹に受け継がれた……そんな着地だったと思います。

そんなラストの感情から展開を振り返ると、改めて巧さが際立つんですよね。
・表向きは事故と扱われる
・志摩の介入が疑われる余地がある
・志摩が直接関与はしていないが、罪悪感を抱く経緯である
・本人にとっても不慮の事故だったが、香坂「らしさ」が関わっている
・隠れていた真相が明かされることが、双方の救いとなる

という要素が全て成立するようなデザイン。かつ、現在と過去にまたがって飲み物を小道具として配置しているのも沁みました……香坂の死因にアルコールを関与させつつ、バディの交流の道具として使っているのも良いバランス感覚。

迫る危機と、4機捜の行く末

現在と過去のバディの再生と共に、桔梗家での和やかな食事を描いて終了……と思いきや。

ラストに思いっきり不穏なのをぶちこんできましたね、桔梗宅に仕掛けられた盗聴器。恐らくは水回りの作業中、つまり志摩と伊吹の電話の最中に仕掛けられたのでしょう……まあ、電話がなくても実行されていたかもしれませんが。
エモ―ショナルなシーンに別の意味合いを持たせるの、ほんとに意地が悪くて(褒めてる)。アンナチュラルのビル火災の件も、途中まではそんな意味合いですし(観てない人もいそうなので言及は避けますが)

盗聴のターゲットは桔梗でも麦でもありうるのですが、4話で言及された裏カジノの黒幕である「エトリ」が麦を狙っている、という線が濃いと感じました。それっぽい後ろ姿もありますし。

そして公式サイトの次回予告では、謎の男(菅田くん)やRECも登場しており、配置されたピースが入り乱れてのクライマックス突入を予感させます。ライトそうなトーンですがラストの引きがヤバくなるのは確実。

加えて。桔梗の発言から、4機捜が来年度(=2020年度)には解体されている可能性が示されました。とはいえ、「解散したのでNot Foundです、みんな他のチームでも頑張ってね」という安直なオチでないことは確実なんですよ。404を付けた意味が、絶対に強烈に効いてくる。
そのルートとして今回のエピソードから感じたのは、二人が「刑事でなくなる」道、あるいは表社会から消える道でした。何者になってもどんな道でも生きていく、という着地。「感電」を聴くと、このバディは人の手の届かない方向へ走っていきそうなイメージが浮かぶので。

何でもいいから生きていてほしいと願うのと同時に。どちらか、あるいは両方が命を落としたうえで僕らが「納得」するような(非常に考えにくい)ラストがあるとしたら、それはそれで観たいんですよ。安易に殺されるのが嫌なのは確かですが……いずれにせよ、ここからの話運びが非常に楽しみです。

今回もお読みいただきありがとうございました、ここまで来たからには全話書きたい……!


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