YOASOBI解剖「あの夢をなぞって」編~ドキドキ濃縮×ハピエン予告の爽やか夏メロディー~

半年前に投稿したこちら、ビックリするくらい多くの人に読んでいただけたようで。「夜を駆ける」の人気の高さを実感しつつ、引用ツイートにハートをつけて回っていました。これをきっかけに他の記事も読んでいただけていたら幸運……

そして半年も経ってしまいましたが第2弾、「あの夢をなぞって」です。

原作「夢の雫と星の花」のハピエン保証×ハラハラ展開

https://monogatary.com/story/38869

原作小説はこちらです。7章構成とやや長いですが、ここまで来たならぜひご一読を。「タナトスの誘惑」のような根っこからのツイスト物ではないですが、やはり原文の楽しさを味わっていただきたいです。


……では、今回も原作の感想から。

設定だけみると夏×超能力×ボーイ・ミーツ・ガール、王道です。日本のエンタメ史で幾度となく展開されてきた、ともするとベタに思われがちなシチュエーション……ではありますが。
王道でありつつもベタに甘えない、しっかり最後まで楽しませてくれる一編だったと思います。

瑞々しいロマンス性も大きな理由ですが、最大の強みは【ハピエンを保証しつつハラハラさせる】という作りにあることだと感じました。
予知能力を両キャラクターに備わらせてから【お互いに見ているハッピーエンドが違う】という矛盾をハラハラの軸にしたことで、【両思いのはずだから大丈夫】【けど食い違っている!?】という安堵と不安で興味を引き続ける。
この辺りの情報の提示、視点や時系列の転換も上手いんですよ。まずは楓ちゃんの視点でクライマックスまで描き、そこに至るまでを一宮くん視点で追いかけていく構成。僕も多視点はよく使いますが、こういう見せ方は思いついたことなかったです。

この手の予知物はバッドエンドの回避を目指すことが多いと感じていたため、ハピエンと矛盾を掛け合わせるという発想にも意外性を感じました(僕が類似作を知らないだけかもですが)

そしてその矛盾の解決であるところの「奉納された四尺玉」は、つまりは過去からの祈りの象徴で。遠い昔の悲恋が今に結びついて解決するという構図、なんともロマンチックですし……その後の不良チームはちょっと唐突な気もしますが。

加えて、楓ちゃんも一宮くんも素直に応援したくなるんですよ。やたらと男子がモテる展開には懐疑的な僕ですが、馴れ初めが描かれるにつれて「一宮くん、君……いい奴だな!」と絆されていったので。過去パートの絡め方、能力の説明と好意の理由づけを兼ねた展開も好きでした。

ご都合感があったり、全編に渡って文体のアマチュア感が強い(若いと評する人もいそう)印象も個人的にはありますが、エンタメ小説として素直に上手いという評価が圧勝でした。僕だったらこれだけ展開で楽しませる話は書けなさそうですし。

そして勿論、言葉のセンスが綺麗。特にタイトルがもう優勝ですよね、キラっとしたワードの4コンボ。緊張した場面での短文の連続も印象的でした。

……そんな小説がどう曲になったのか、というと。

「あの夢をなぞって」での、引き算&濃縮型の楽曲化

とにかく正直に曲にしたな、という印象が強いです。「夜に駆ける」は小説にも曲にも反転の構図があったのであれだけ書けたので、今回は歌詞からは掘り下げる余地も少ないような……このポップさには音楽理論の出番でしょうし。とはいえ、せっかくですし順に追っていきましょう。

まずはイントロ。アカペラでのikuraさんボーカルに掴まれた人ばかりだと思いますが、アカペラ自体が原作にも歌詞にも登場している「音のない世界」を表わす演出になっていると感じました。
ここで歌われている内容はプロローグと第2章で描かれている、両サイドからの予知夢です。「好きだよ」からピアノが散りばめられていくこの流れ、完璧……
加えて注目したいのが「光を包みこむ」という歌詞です。恐らくは原作での「大きな花火が光のカーテンのように」という比喩から発想したような?

1番Aメロも、歌われている内容は予知夢ですが、叙景的なイントロに比べて説明的な印象が強いです。小説でいうと、目覚めてから夢を振り返ってるシーンですね。
同じメロディーに乗せ、夢の中の光景をアカペラで幻想的に、現実での反芻を伴奏と共にリズミカルに……という、原作のプロローグでの推移と対応するアレンジです。味わいの差も楽しいですね。

Bメロ、1章での楓ちゃん視点です。前半では低い音程メインで緊張と戸惑いを、後半は伸びやかにドキドキを、という少女漫画的な演出を感じました。そしてA段での脚韻が気持ちいい。
原作ではこの後、一宮くん視点での過去回想や、花火玉を巡る奔走が描かれるのですが。花火の本番以外の具体的な情景描写は、このBメロだけになっています。小説だと楓ちゃん視点が少なめなぶん、曲では女の子成分が強くなっているような印象も受けました。

サビは花火の直前。1番のつながりや受動的なニュアンスから、どちらかといえば楓ちゃん視点と解釈しました。
前半はロングトーンからのE段脚韻で、後半は「本当に?」「もうちょっと」を重ねてリズミカルに、という繰り返し。この緩急、聴いていても歌ってみて爽快ですし、幻想的な景色&揺れる心情という対比にもなっているように思います。「夜を駆ける」でも感じましたが、Ayaseさんは音便を使ったリズム表現が見事です。
そして「あの未来で待っているよ」で視点のパス。

ここからはエモの迸るギターソロですが、MVでは一宮くん視点での楓ちゃんとのイベント(高校の通学路での衝突阻止、小学校の雨の日の転落阻止)が描かれています。そして丘の頂上へと至る石段が描かれていることから、原作での2章~5章中盤を一気に駆け抜けるのがこのギターソロだと取れそうです。そう思って聴くと疾走感も倍増なような。

2番Bメロ、1番とベースは同じだと思うのですが、前半ではメロディーでもトラックでも非日常的なムードが際立っているように思います。言葉の密度が抑えられて、トーンが低めになって。
「夏の空に」から始まる、6音節のコンビの歯切れのよさ、からのタイトル回収。この辺のクライマックス突入感、何度聴いても好きですね……

そしてラスサビ。薄いサウンドの中で、鮮やかに情景が浮かびます。「そうきっと」「そうずっと」の組み合わせもリズミカル。

続けて、
「夜を抜けて夢の先へ」→「夜の中で君と二人」や
「本当に? あの夢に、本当に?」→「大丈夫、想いはきっと大丈夫、伝わる」
のように、メロディー上の同じパートで変化を示しながらも、楓ちゃんのときめきや緊張を感じさせる歌詞が続きます。
そしてラストは冒頭で予告された「好きだよ」で締め、です。同じフレーズでも響きが全く違うことも含め、最高のラストフレーズ。
曲ではここまでですが、MVのアウトロ部分では街の風景、恐らくは「風撫で丘」からの景色が描かれており、エピローグのふたりを予感させます。


ここまで読んでいただいて分かる通り。
原作での中盤で描かれる一宮くんの奔走や、ふたりの出会い、背景にある1000年前の悲恋などは、楽曲では直接に描かれていません。
そのぶんも、【予知された未来へ向かう構造】【予知と現実に揺れる心模様】【成就と、花火の幻想的な風景】という魅力を濃縮して、爽やかなときめき全開のポップソングに仕上げた、というコンセプトだったのではと感じられました。
前作にあたる「夜を駆ける」では、原作がかなり短かったこともあり、足し算のアレンジも目立ちましたが。今回のように分量が長い場合は引き算型の発想を迫られたのではと感じます。いずれにせよ、小説の楽曲化としてはテイストもアプローチも全く別になっており、どちらも曲として素晴らしい……という点で、YOASOBIを追い続ける楽しさを改めて感じた解釈になりました。

前回の予告からはこれだけ空いてしまったので、曖昧な言い方にならざるを得ませんが、他の楽曲についても解釈テキストは上げる予定ですし、恐らくは「ハルジオン」「たぶん」に続くと思います。「群青」の原作に当たるであろう「ブルーピリオド」も気になっていますし……また思い出したときにでも、覗いていただければ幸いです。

最後に。

紅白おめでとうございます、大変なことだらけだった2020年ですが、最後の夜は音楽で遊び尽くしましょう!


(追伸)

こちらは選出ならずでした、受賞された方おめでとうございます!
僕は「群青」を聴きつつ、次のチャンスを待ちます。



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