MIU404 視聴想査隊~「見えない」角度から世界をずらす、第5話初動報告

(バックナンバーはマガジン欄からどうぞ)(今回も観た人向けです)

いつにもまして、画面越しのリアルへの揺さぶりが強い回でした第5話。
コンビニ経験あり、いっときはラボの留学生とバディを組んでいた(意訳)いち亀による感想です。

技能実習生という隣人

まずは今回のトピックであったこの制度について。なんとなく知ってはいったもののちゃんと理解はしていなかったので、改めて概要をまとめてみました。

まずはオフィシャルな機関から。要は「日本の企業で働くことで、技能や知識を学んで」「それを持ち帰って、故郷の発展に貢献する人になりましょう」という仕組みですね。

技能実習は、
①技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行わなければならないこと、
②労働力の需給の調整の手段として行われてはならないこと
が定められています。(上記サイトより)

あくまでも当人の成長や母国の発展のためであって、断じて人手集めではない……ということになっています。建前としては。

一方、現状としては。

最近は外国人でなくとも大打撃を受けている方は多いですが。やはり、こうした事態でしわ寄せを食らっているという側面は否定できないようです。ちなみに先ほど引用したのはNHKでした。テレビ全体でどれほど扱われているかは分からないですが(ここ数年はテレビのない部屋で暮らしています)、劇中で描かれた「テレビで取り上げられない」がどの程度なのかは少し気になりました……とはいえ、あまり注目していなかった、当事者として考えてはいなかったという人は少なくないと思います、僕も含めて。

こうした現状に対して、定量的・横断的に分析しているのが上の連載です。全5回と長めですし最新とも言いきれない(1年前の掲載)ですが、非常に有益な記事と感じました。
問題点は数多いとはいえ、決して一方的な搾取ではなく、強いメリットを感じている実習生もいる……という点は認識していいと思います。

とはいえ。今回のエピソード、僕にとっては非常に「痛い」突きつけられ方でした。
というのも僕自身、日本にいる外国人に対して比較的フレンドリーな方だと自己評価していたんですよ。大学の研究室で、(主に中国出身の)留学生とは日常的に接していますし。日本語まわりのフォローだけでなく、お互いの国の話で盛り上がったりもしていますし(同期の子は鬼滅にズブズブです)。勿論、出身関係なく同じタスクに取り組んでもいます。
何もかも手助けできたとは言えませんが、それなりによき隣人ではあれた気でいました。

だからこそ、(自分でいうのもなんですが)それなりに設備や環境の整った大学に通えている留学生は、来日した外国人の中では相当に恵まれた境遇なのであって、それ以上に困窮している層もそこらじゅうにいる……という指摘は、かなり痛く響きました。
勿論、弊学の留学生の努力は物凄いです。英語の学術論文を日本語で紹介するという、日本語ネイティブの僕でも苦労し続けている作業を、「外国語」どうしでこなしている訳ですから、超ハイレベルな人たちです。とはいえ、トライし努力できるだけの環境やバックアップに恵まれていたことも見過ごせない。

同時に。帰り道に寄っているコンビニの若い外国人スタッフ(お互いにやや顔覚え)が「普段」何をしているか、深く考えてこなかったことに気づくのです。僕が一時期は学生バイトしていたこともあり、なんとなく「なんか勉強してるんだろ」と思い込んでしまったのですが。働き詰めでないと生き抜けないくらい追い込まれている、そんな可能性を浮かべることもなく。

その意味で、マイの悲痛な叫びや、水森が周囲の日本人に向ける怨嗟は胸に刺さりました。理解したつもりで見ようとしてないお前みたいなのが、とか言われているようで。深く刺さりすぎて、1周目は面白いというか辛いばかりだったんですよね……エンタメと社会派のバランス、今回ばかりは偏っていたような気がします。

水森の屈折した心理と、志摩の動揺

今回の犯人である水森の心理の推移、推測を交えつつ整理してみたのですが。

・人材派遣サービス会社を立ち上げるも失敗、借金を抱える
・悪質な実習生管理団体に雇われる(借金の主が団体のトップで、弱みにつけこまれる形で吸収された?)
・管理団体が潰れたことで日本語学校に転任、マイに出会い交流を深める
・マイから聞いたコンビニ店長の話から、売上金強奪による借金返済とそのカモフラージュ(ベトナム人実習生の煽動)を思いつく
・強奪自体は成功し、借金を返済できたものの、マイの危機を志摩から聞かされたことから、彼女への疑いを晴らすために自身が「犯人」となることを決意
・現状を訴えるために、人目を引く場所で叫びながら拘束された

といった所でしょうか。

ここで気になるのが、実習生を煽動した動機です。自分に大金が必要だったからカモフラージュが欲しい、というのは確かだと思います。そこだけ見れば保身のみが動機ですね。
ただ、彼があれだけ実習生の現状に憤りを覚えていたことを踏まえると、コンビニ強盗を「解放」のルートとして提示していたようにも思えるのです。現金さえあれば暮らしが楽になる、あるいは警察に逮捕=保護された方が生きやすくなる、そんな解決。
あるいは、働かせてきた「経営者」に経済的なダメージを与えることで、「一緒に」復讐した気になっていたのか……ベトナムの言葉や文化を利用していたのは、打算だけなのか同胞意識も込みなのか、などなど。

こうやって保身以外の動機を補完しないと、水森の行動原理が上手くつながらないんですよね。実習生の境遇に憤りながらも、彼らを駒として利用したという矛盾が、どうもスッキリしない。

水森を演じたのは黒猫チェルシーのボーカルでもある渡辺大知さん。「くちびるに歌を」でも「勝手にふるえてろ」でも、憑依っぷりの凄まじい熱演に圧倒されっぱなしだったのですが(2作とも邦画トップクラスに好き)。今回も、穏やかな仮面と哀しい激情の二面性がお見事でした。

そんな水森を追い詰め、感情を掻き乱し合うのが志摩だというのも印象的でした。というのも、これまで関係者の心理に肉薄してきたのは伊吹の方で、志摩はどちらかといえば距離を取る方が多かったと思うのです。
志摩と水森との会話に出ていた「大勢と個人」の話、前回も出ていましたね。たった一人でも、「一回きり」の命であること。何度も強調されてきた、人生の不可逆性。

そして志摩といえば、料理店でのフラッシュバック。シリーズ最大レベルの志摩の動揺には、次回で語られる「相棒」の件が関わっていそうです。伊吹もその一端を知らされていましたし、二人がどう向き合うのか非常に楽しみ……なおラストカット。エレベーターに乗り込んだ志摩と立ち尽くす伊吹が分断されるような演出でした。そそりますね。

システムの正邪と外側と

今回、元凶である悪質な管理団体に対する政府の関与が示唆されました。制度の下で酷使される実習生たちを描いていたこともあり、公的なシステムのダークサイドが強調されていた回だと思います。前回も触れましたが、2~3話では公的なシステムによる救いを描き、4~5話ではその限界や副作用、あるいは闇を描く流れができています。

そして、今回登場したもう一つのシステムが、伊吹の先輩であるガマさん(小日向さん)も関わっているバディシステム。MIUのテーマの一つである「出会うべき人と出会える」を人為的に推進する制度です。これにだってダークサイドはあり得るのですが、今回でいえば心強いシステムとして描かれていたと思います。正邪はシステム自体ではなく、その下で動く個人ひとりひとりや巡り合わせによって決まる……みたいな構図を考えたりしました。そのうえで志摩や伊吹をどんな警察官として描くのか。

余談ですが。余裕のある退職者と困窮する若者をどうつなげるかというテーマを描いた小説として、五十嵐貴久さんの「セカンドステージ」があります。

現代の子育てに絡む問題提起と前向きなエンタメの融合が非常に見事で。(あまり良い言い方ではないですが) 野木さんの作劇が好きな人は読んで損はないと思います。

そして、警察やマスメディアといった既存のシステムにはない「視点」で事件を追っている特派員RECがエンジンをかけてきました。
マスメディアが取り上げないとしても、現実の問題(技能実習生の実態)を追いかけて発信する……という姿勢自体は、非常に有意義でしょう。彼が動いたから知ったという人も多いはず。
しかし、動画の再生回数やフォロワー数の伸びに手応えを感じている彼の表情。純粋な使命感というよりは、野望や自己顕示欲が見え隠れしているようでした。そんな彼に(3話ラストで失踪した)成川からコンタクト。成川のバックには黒幕と思しき男(菅田くん)がいることを考えると、いよいよRECも危なくなってきた……という期待が高まります。

REC、色んな意味で視聴者……それもデジタルネイティブな、ネットに馴染んだ視聴者のの代弁だと思うんですよね。3話でいえば少年法への反感、今回でいえばマスメディアへの失望を通して、警察ではない市井の若者の「正義感」を映しているのが彼。その正義感が暴走すると、悪用されるとどうなるのか……僕らに向けてどんな示唆がなされるのかも楽しみです。

今回はここまでです、ありがとうございました。次回はもっと余裕を持って上げたい、1クールくらいやり通せよ僕……


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