MIU404 視聴想査隊〜第1話初動報告(観た人向け)

「一番好きな作家は?」と聞かれると絞りにくくても、「一番好きな脚本家は?」と聞かれれば迷わず野木亜紀子さんを推すいち亀です、こんにちは。

「星野源×綾野剛」「アンナチュラルのチーム再び」で話題のTBSドラマ、「MIU404」について、各話の感想や気づきをメモしていくのがこのシリーズです。視聴想査隊、韻を合わせたかっただけ。
連ドラはリアルタイム性が大事と考え、ややまとまりには欠けますが「これ意識すると次回をより楽しめるのでは?」というポイントをリストアップしていきます(24時間は無理でも、次の回が始まるまでは上げていきたい所存)

ちなみに動機として一番大きいのは、「アウトプットを目指すことで、インプットの効果は激増する」という実感があるからです。実際、テキストにするために見返す中で二重三重に面白くなっていますね。野木ストーリーをしゃぶり尽くせ。

ですので、「観たから他の人の感想知りたい、補完したい」という方限定です。未視聴の方は今すぐUターンして各配信サイトへどうぞ、面白さは全力で保証します(TVerなら1週間限定で無料視聴可、Paraviに課金すればバックナンバーも追えます)。
「本編を知らない人にも有益な考察」はあると考える派ですが、本稿は確実に違います。

※ミステリは好きですが得意ではないです
※普段からそんなにドラマ観ません
※演技で好きなポイントに触れると書き終わらない(推しキャストばっかだもん!!)ので、作劇中心に書いてあります

という訳で、まずは第1話。


ドラマとしての楽しさについて

これはもう当然、めちゃくちゃ面白いですよ!
説明のスマートさ、キャラへの個性・役割の分配、テンポのよい会話にスタイリッシュな音楽、謎の配置による疾走感、迫力のカーアクションと格闘、タイムリーなトピック……などなど。
捜査ドラマとして求められる面白さをキッチリ満たしつつ、新しい感覚も随所で味わえる、文句なしの滑り出しだったと思います。特に、捜査モノではありながらも「被疑者たち(=犯人候補)から犯人を見つける」というよりも「ヒントを元に追跡する」話になっているのはフレッシュに感じました(似た作品もあるとは思いますが)

捻りの利きでいえばアンナチュラル1話に軍配ですが、MIUはアクション面重視と解釈したので不満は全くないです。それにしてもあのカーアクション、キャストによるハンドル捌きも含めてすっごくないですか? スタントさんやVFX担当による仕事も多いでしょうが、本人らしきカットも相当に気合いが入っていたと思います。

アクションといえば、今回の敵役を演じたのは深水元基さん。

上記の敵役、雰囲気もアクションも素晴らしくて。今回のラストの暴れと怯えの落差も良かったですし、面白い役者さんだなと改めて。そういえば「るろうに剣心」でも敵の一人をやっていたとか。

さて、いくつか気づいた点を。

「チーム=複数のアプローチ」の活かし方

PRもされていた通り、源さん=志摩と、綾野くん=伊吹による正反対のバディぶりが魅力で。
行方不明になったおばあちゃんの件については、「管轄に委任」VS「心配だから行動」という対立になりました。結果、手がかりを自分たちで集めた上で専門の部署に頼むという折衷を経て解決。

また、情報に対する向き合い方として、
・カレー屋で聴取された被害者の通話内容について、「無関係と判断した上で記憶頼りの報告」を選択した伊吹に対して、志摩は「文書=客観的な情報として保存し報告」が正しいと注意
原則として正しいが、今回に限れば無関係(とはいえ、機捜の仕事のレクチャーとしては分かりやすいです。機捜のセオリーに反する伊吹への突っ込みが、そのまま視聴者への説明になっていますね)

・玩具店付近で犯人のと同型の車を目撃した際、「映像で見たのと同じ」と主張した伊吹に対して、志摩は「ナンバープレートが違うから無関係」と主張
→ナンバープレートは偽造(=保存情報が改竄)されており、志摩の根拠は誤り。エンジン音の記憶に基づいた伊吹の判断が正しかった。

という対立がありました。余談ですが、聴取で伊吹の「本件とは無関係」を注意した志摩が、署内でドライブレコーダーを見せる際に「本件とは無関係」を発動していたのには笑いましたね。

加えて。本来の警察の情報収集は意識的・アクティブに行われる(この証拠を保存、という判断が働く)のに対し、伊吹は半ば無意識で収集した情報からヒントを見つける、という違いもありました(ドライブレコーダーの有無やエンジン音など。とはいえエンジン音=走らせ方に関しては異常と捉えていた節あり)
志摩の「記憶にはバイアスがかかる」という指摘には同意なのですが、そういう志摩にも(定石に基づいた)バイアスがかかっている節はありそうです。今回であれば「ナンバープレートが違うなら別の車だろう」ですね。

伊吹の武器として公式で紹介されているのは「機動力と運動神経」ですが、情報に対するアプローチの独特さこそ肝要であるように思いました。それがどう生きてくるかも楽しみです。伊吹の感覚の鋭さは明らかに常人離れしているので、特殊能力モノという側面も少なからずあるように思えました(喰いタン・デカワンコ・ATARUとかが好きです)

さらに終盤、犯人の車を同定するシーン。通常の所有者照会ではパスされてしまったものの、伊吹の判断を元に解析担当(スパイダー班)が調べた情報が決め手になった、という流れでした。伊吹の記憶だけでは決められなくても、それを元にした捜査が実を結んだ訳です。二転三転する展開に、こうした能力・技術の活かし合いを絡めている脚本。やっぱ野木さんなんですよね。
(スパイダー班長の糸巻さんが「夜中に電話でたたき起こされる」シーンを入れているのも好感です。冒頭で働き方改革に触れられているのと合わせ、「働くのは生身の人間」をきっちり描いている)

情報の収集手段も、街中に仕掛けられた防犯カメラ=無数の目ですし。マルチな視点というのは重要な軸になると思います、その意味で特派員REC(動画投稿主)(渡邊圭祐くんです祝え!!)もいずれガッツリ絡んでくるはず。

「現場での機動」が鍵になる作劇

捜査モノでありながら、立ち止まって話し合っている「推理」シーンが少ない印象です。聴取も証拠集めも、常に現場で。そして糸口が掴めてからも、「証拠が揃った→犯人確定」というロジカルな解決ではなく、「街に出てひたすら探す」という、いくらか運の絡む方法が取られていました。これについては「機捜がそういう仕事だから」に尽きるのですが。

こうしたスタイルと真逆にあるのが、いわゆる安楽椅子探偵です。メジャーなものだと「謎解きはディナーのあとで」の影山ですね、現場を訪れず与えられた情報だけで推理する。僕は相沢沙呼さんのマツリカシリーズが好きです。
これはこれで面白いし、面白くするための技量を思うと賞賛は尽きないのですが。今作はそうした頭脳特化推理の真逆にある訳です。どうしても必要になる地道でハードな作業、その最前線

「初動」に課せられた緊急性もハードさにつながっています。24時間、常に臨戦態勢。「働き方改革」の具体例であるテレワークやフレックスタイム、勿論できるなら進めた方がいいでしょう。コロナ禍でさらに実感しました。しかし、時と場所に振り回されながらでしか果たせない崇高な仕事がある、その一つが機捜です。

コロナ禍の中で医療従事者への尊敬を改めて実感した人も多いでしょう。僕が今作で感じたのは、そうした「緊急時の最前線」に立つ方へのリスペクトでした。
(だからそういう人の負担が軽くなるためにも、移動とか密集みたいな事故リスクは削いだ方が良いよねとも思います)


警察という暴力装置の一員として

暴力装置と書くと印象が悪そうですが(数年前の騒ぎを思い出すなど)
学術的には軍・警察を指すワードとして正しいはずなんですよね。
有事にあって武器の使用が認められるだけでなく、逮捕という「自由=人権を奪う」行為が認められています。そもそも公権力自体に強制性がありますし。

志摩は「自分も他人も信用しない」「ルールの範囲内でやる」「間違っていたらどうする」など、警察の暴力性に伴うリスクを踏まえた言動が多かったと思います。あるいは、警察というシステムのパーツであることを強調するような。
対する伊吹ですが、「正義の味方だ」という感覚を強く感じました。困っている人がいたら助ける、悪人は痛めつけてでも成敗する、規則より大事なものがある、など。

主人公映えするのは伊吹なのかもしれませんが、僕が共感するのは圧倒的に志摩でした。強い力を持っている人間は慎重すぎるくらいがいいと考えるタイプなので。「シン・ゴジラ」前半の会議ラッシュに対して「民主社会はこうでなきゃ……」と安堵する節すらありました(必要だけどもっと効率化できるやろとも思う)
しかし、こうした信条の違いは揺らぎやすいもの。組織の一員たらんとしている志摩が組織に裏切られる、そんな展開が楽しみというか心配というか。

とはいえ、凶悪犯という「暴力」と直面する際には、自分を信じてイレギュラーに踏み切る必要がある……というのが、終盤の「車で車を止める」シーンだったと感じます。冒頭での伊吹にも通じる手段を、志摩が咄嗟に判断するという対比。しかもこのときの志摩、アドレナリンが出まくっているようにも見えるのが気になります。根っこは熱いというべきか。

自分たちも犯人も負傷しかねない、冷静とは言いがたい判断かもしれませんが。「犯人を止めるため」以上に、「市民を守るため」の判断だったと解釈しましたし、その意味で非常に熱いシーンでした。以前に拳銃使用を巡って言い争っていたことも踏まえて、矛ではなく「盾として」危険な解決に踏み切る構図。

それはそうと、警察の秘密組織が容赦なく殺しまくる作品も大好きだったりします。「何を届けたいか」に「どう描いているか」がどれだけマッチしているかの問題。

伊吹の「危ない男っぽさ」の源とは

今回のトピック、社会問題として扱われていたのは煽り運転。その危険性や実例の悲惨さについては皆さんもご存知でしょうし、劇中の面々も基本的には愚かな行為と断じています。しかし伊吹だけは「負けたくないからに決まってるじゃん」と、煽り運転をする心理に理解を示しているようでした。

それだけでなく、伊吹は「強く見られたい、優位でありたい」という感情、マチズモっぷりが随所に見られていたように思います。冒頭の運転時の「舐められちゃダメなんですよ」もそうですし、犯人に対する攻撃性も強い。良くも悪くも男っぽい、しかしこの話では悪とジャッジされている感情だと思います。
それを伊吹に主張させた意図。「事件・事故の裏にあるのは、誰にでもある心理だよね」という指摘……であっても成立はするし、不自然ではないのですが。
恐らく伊吹には、そんな心理にならざるを得ないバックグラウンドがあるように感じられるのです。元の職場で起こしたらしい問題行動がその理由なのか、あるいはそれ以前の育ち方にあるのか。注目です。

しかし情の厚い人間でもあるんですよね。犯人に「誰かを殺す前に捕まって良かった」と声をかけていますし、おばあちゃんと女の子の再会を目にして非常に優しい目をしていました。攻撃性と表裏一体なような。

ちなみに志摩の過去についても、まだ匂わせ程度ですね(次回で掘られそう?)。システム思考の形成には、その辺りも関わっていそうな気もします。

女性キャラクターの扱い

野木さんは、現代日本での「仕事とジェンダー」に関する指摘を行うことが多いと感じています(発案は別スタッフの可能性もあり)。「逃げ恥」は原作のテーマが直結しているので当然かもしれませんが、「空飛ぶ広報室」ではドラマオリジナルのエピソードで描いていました。「アンナチュラル」でも幾度となく描いていましたし、「獣になれない私たち」でも描かれていた気配を感じています(未視聴ですが、TLからそんなムードが)

そうした流れを受けて、今回はどう来るのか期待していた節はありまして。
レギュラー陣での女性はというと、警視で隊長の桔梗。中心グループの(階級も役回りも)トップに女性を持ってきて、初っぱなから「顔で選ばれた訳じゃない」を持ってくる時点で心強い訳です。部下との関わり方も凜としていましたし。

一方で、実働部隊のネームドキャラが男性ばかりというのもやや気になったんですよね。現時点で数人しかいないですし、リアルな割合の反映としては妥当なのですが、やや寂しいような。
とはいえ、接触時間の長い+吊り橋シチュエーションが連発な実働部隊に女性を置くと、(作り手にその気がなくても)ラブ要素を期待する視聴者が少なからず出てきそう、という予想もあるんですよね。そういう意識を最初から取っ払うための配置、そう考えるとやや納得です。いずれにせよ追加キャラを楽しみにしています。
(同性で固めた方が妄想が捗る層がいるのは知ってますし、僕もその節はありますが、お茶の間ではそこまで普及していない萌え回路だと思うので……)

その他・気になることだらけ

・404=Not Foundの意味
公式には存在しないことが武器になるのか、あるいは本当に存在しなくなってしまうのか。
作中の日付が1年前なのも気になります、ちなみに事件が動き出した2019/4/9は「金曜日」でした。2020年の彼らは、果たして。

・足元をアップにする構図
足元というより「踏み切る」アクションに対してですね、気づいたのは2カ所。まずは終盤で伊吹が走り出す直前、これは流れとしても自然。しかしラスト(女の子がおばあちゃんと再会したとき)のカットは、かなり浮いて見えました。しかも主題歌の無音に被せるという強調ぶり、絶対に何かあるはずです。

・伊吹、最近のカルチャーに疎すぎ
動画投稿サイトの話が分からない、タブレットが扱えない、などなど。鋭すぎる感覚も合わせて、やはり育ち方に何かあるような……

・志摩による「施錠」の念押し
今回の事件(車内からのドライブレコーダー持ち去り)の暗示とも取れますが。身内すら信用しないという示唆でもありますし、やはり警察内部が不穏……

・主題歌開始のタイミング
「アンナチュラル」で、毎回最高(あるいは最悪)のタイミングで「夢ならばどれだけ良かったでしょう」を突き付けてきたチームですので。
今回もタイミングに注目してみたのですが、「感電」のイントロが流れてきたのは犯人逮捕の瞬間でした。これからどうなる?


さて、今回はここまでです。楽しかった。
ここまで読んでくださりありがとうございました、次回がさらに楽しみに、あるいは今回のを見直そうという気になったのなら幸いです。願わくばまた来週。

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