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【霞ヶ関の人の生態⑧】劇的に変わっていった霞が関の働き方

緊急事態宣言が解除されて、徐々に日常に戻るところは戻っていく今日この頃です。
緊急事態宣言が発動した4月7日から約2か月間の激動の日々を、忘れないうちに書き留めておきたいと思います。(今回、あまりユルくないです。)

霞ヶ関の働き方も劇的に変わりました。
何十年もどうやっても変わらないだろうと思われたことも変わったことがあるし、逆に、こんな事態でも変わらなかったこともあります。

おそらく、担当している仕事によって、霞が関の中でも色々違うと思いますが、私の周りで起こったこの2か月間を、感想を含めて書き留めておこうと思います。

2月下旬:熱発者は職場へ報告するルールができました。
3月上旬:時差出勤が始まり、9時半出勤から10時出勤になりました。
3月後半:テレワークを推奨されるようになりました。

でも、まだその頃は出勤が基本で、各自の判断でテレワークになっていました。
出張も禁止、外部の人を省内にいれて打ち合わせすることも原則禁止になりました。
4月6日:緊急事態宣言が明日から発動されるという日に、「明日から原則テレワーク。出勤者は2~3割までに抑える」という方針に切り替わりました。さらに課内の数人が厚労省コロナ対策本部に招集されていきました…
緊急に課内で出勤当番表を作り、一人だけ出勤し、あとは原則全員テレワークの体制を作りました。
出勤者は、日常業務に加え、新聞チェック、郵便チェック、電話取り、頼まれたもののコピー、省内の調整などの代理、国会待機諸々の雑用を引き受けるという体制です。
緊急連絡用にプライベートのライングループを作り、持ち帰る資料をコピーしたり集めたりと、まるで戦争に備えて疎開するために準備しているようでした。
大荷物とパソコンを抱えて、各自「お元気で」と言いながら帰途につきました。
毎日何百人も新規感染者が出るころだったので、本当に「お元気で」の言葉が、単なる挨拶ではない響きがこもっていました。

4月7日からリモートワークの日々が開始です。仕事はメールと電話でほぼいつも通りできた気がします。ただ、新しい案件のものは、メールを読んだだけでは、どういう意図なのかなど、ニュアンスが伝わりにくいという印象でした。
ほぼ淡白なメールのラリーになってしまうので、毎日オンラインで班内のミーティング、週1で課内ミーティングを行い、情報の交換を行いました。オンライン会議は、省庁内のネット環境が大人数のテレワークに耐えられるように出来ていないので、基本的には声だけのやりとりで、ラジオのようです。一人の人がパーソナリティになって、一人ひとり発言して回していくやりかたです。

こういう日々を重ねていき、だんだんとリモートワーク生活に慣れていきました。

この新しい働き方でわかってきたことは、仕事は基本的にはメール+電話で普通にこなせること。ただ、細かい感情の入ったやり取りができなくなるので、意識的に同僚とちょっとした雑談をしないと仕事の方向性や思いが分散してしまうことだと思いました。

同じ職場にいたころは、あえて日常会話をしなくても、なんとなく、その人の考えていることや思い、情緒的な交流ができたけれど、リモートワーク状態になると、あえて日常会話や雑談をしないと一体感がなくなっていく気がしました。
仕事をこなすだけであれば、メールをひたすらラリーすればできますが、それだけではいつか何かが枯渇してしまう気がしました。
この感情や思いを共有すること自体がどれくらい仕事に影響しているのか測ることは難しいけれど、「こう来たらこうだよね」、という阿吽の呼吸や方針の立て方は、今までの仕事の積み重ねで共有できても、新しいものに対しては「どう思う?」って言うのを逐一確認しないとバラバラになっていく気がしました。

不思議なことにこの半分雑談ミーティングが効果を出していて、同じ課内の人の今まで聞いたこともなかったプライベートのこと、趣味、おうちでの過ごし方など少し話すことで、円滑なチームワークと、一緒に乗り越えなきゃね!お互い助け合わなきゃね!っていう気持ちになりました。距離は遠くなったけれど、人間としては近くなったような不思議な感覚です。

もうひとつ、働き方で大きく変わったのは、上司への了解の取り方です。今までは、上司への相談や確認は相談要件をまとめた紙を印刷して、直接口頭で説明するのが礼儀、ルールだったのですが、今の働き方だと印刷はできない、会えない、という状況なので、だいぶ上の上司にもメールで確認、相談です。これはかなり効率的で、案件をあげるタイミングを見計らったり、予約したりしなくて済み、上司も自分のすき間ができた空き時間に確認してくれるので、スイスイ仕事がはかどりました。

また、オンライン会議(画像なし)が急激に増えました。基本的には出勤していてもオンライン会議です(ソーシャルディスタンス!)。オンライン会議は、大人数の打ち合わせに向かないな、とか、同時に話してしまったり、表情が読み取りにくかったりなど課題はありますが、やってみて気付いたのは、関係性がリアルよりフラットになること、意見を言わない人はいないのと同じ、ということです。今までだと、上司が部下に強い言葉でいったり、態度をあからさまに不機嫌にすることで若者が縮み上がったり、誰かが話をさえぎってしまうなど、職場の力関係が如実にストレスになっていたけれど、オンライン会議だと、どんなに態度で不機嫌を表しても、基本的にはラジオ状態なので伝わってきません。そして、自分がイライラしても、画面に向かって声を荒げている自分が滑稽、という何だかちょっと引いた目線が加わるので、感情的になるのが馬鹿らしくなり冷静になります。また、誰かが独占して話していたら、あからさまにわかるので、それぞれ発言する機会が均等にできるような雰囲気があります。その代り、今まで自分の意見を言わず座っているだけだった人は、今では声を出さなければ存在することさえわからないので、ますます存在感がなくなります。そういう意味で、オンライン会議は、感情を伝えにくいけれど威圧的なやり取りになりにくい、会議に貢献していない人はあからさまにわかる、という気がしました。

出勤した時の働き方で変わったのは、座席が結果的にフリーアクセスになったことです。職場で複数の人がいる時に、例のソーシャルディスタンスを取るために、テレワーク中の人の席に座ることになり、実質上、フリーアクセス状態になりました。書類の山だった机が、ほかの人が座られるかも、ということで、とりあえず机の上はきれいになりました…
キラキラのいけてる企業のような、フリーアクセス、リモートOKの職場に急変です。出勤したら、1人は同僚がいたので、なんだかすごく懐かしい気持ちになりました。リアルで話すって楽しい!って改めて思いました。

一方で変わらなかったこと。これはやっぱり…国会対応でした。国会が当たれば、議員レク、答弁作成、国会への上司の出席への随行、これはいつも通りでした。
国会議員の中には、レクはオンラインでもいいという人もいましたが、調整役の課からの指示は、慣習からかいつも通りの対応です。
ただ、議員レクや国会への出席はいつも通りでしたが、答弁作成や国会待機はオンラインでできるので、それでもだいぶ楽になりました。職場でひたすら国会待機するより、家で用事を済ませながら待機できるので、気持ち的にとても楽です(ちなみにリモート中の残業代は出ていません)。

ということで、4月からの働き方で変わったことまとめ

【出来事】
・リモートワークが基本になり、必要な時に出勤という体制になったこと
・出張は完全になくなり、すべて電話かメールかオンライン会議に切り替わったこと
・出勤時の席は実質フリーアクセスになったこと

【仕事のやり方】
・感情のやり取りが難しくなったことで、みんなのコンセンサスをとって意思決定をする打ち合わせはやや難しくなった
・国会待機が家でできるようになった(無駄がなくなった)
・人によっては、終わり!と決めないと、ダラダラとメールを確認し続ける
・自律的な仕事は、意外に支障なく普通にできる
・他律的な仕事(国会対応など)は、相手に合わせないといけないので、相手がオンラインやメールを受け入れてくれたら、スムーズにいくけど、慣習はなかなか変わらない

【職場の人間関係】
・今の状況などプライベートトークをするようになったので、意外な人間性がわかってきた
・上司とメールで了解を取れるようになった
・前より立場関係なくフラットに話ができるようになった(気がする)
・おたがい意識的にコミュニケーションする必要ができた
・パワハラしにくい、されにくいかも?

私は、やってみてリモートワークの合理的なところが割と気に入ったのですけど、コミュニケーション不足になりそうになるのは気を付けないといけないと思いました。
また、約2か月のリモートワークなので問題なく過ごせましたが、長期になるとどこかで支障が出るかも?しれません。でも、もし長期リモートでも問題なく仕事ができるのであれば、昔、話題に出た「中央省庁の地方移転」論も再燃しそうですし、個人でも自然が多い、住みたい地方や故郷に住んで霞が関の人として働くことができるかもしれないな~と妄想します。

これから(たぶん)日常の働き方に少しずつ戻っていくわけですが、今回の実験のようなほぼ全員リモートワーク生活で思ったメリット、上司へのメールでの了承を取れるようになってサクサク仕事が進んだこととか、家で国会待機をしても何ら支障はなかったこととか、効率的で精神的にも良かったことは続いてほしいな~と願うところです。

いまだに、ふとパラレルワールドにいるような気持ちになるあっという間に激変した日常ですが、これからも日々模索しながら、日常の変化を受けいれ、仕事の仕方も人間関係もみんなで最適化していけたらいいな、と思います。