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【霞ヶ関用語】割りモメ・デマケ ~仁義なき戦い~

霞が関役人の仁義なき戦いを表す用語「割りモメ」「デマケ」。
これは本当にいやな気分になる仕事なんですよね。
これをうまく戦える人は、同じ部署の人から感謝されやすく、一緒に仕事する他部署の人には嫌われやすいです。

「割りモメ」は、「割り(担当)がもめる(決まらない、押しつけ合う)」こと、「デマケ」は「デマケ-ション(Demarcation)」=本来の英語の意味は境界・区分といった意味のようですが、霞ヶ関では業務分担、担当部局の割り振り、みたいな意味で使われます。

どういう時に使われるのかというと、一番やっかいなのが、国会質問や主意書(これはまた別の機会に説明します)が当たったとき、他には、日常的に来る国が出したりする文章の役割分担、陳情にどこの部署が担当するか決めるときです。

たとえば、国会質問が当たったときを例にします。

国会議員から、事前の質問通告で
「○○について、昨今○○である。○○、△△、××についての見解は?」
と聞かれたとします。

そうすると、とりまとめの課が、「○○についてはA省、△△についてはB省、××についてはC省だよね、それぞれ答えてね」、と答弁の「割り振り(役割分担)」をして、各担当部署に質問状が送られます。
それで担当部署が「そうだね。うちの担当だね」となれば、スムーズに事が運びます。

しか~し、たまに、というかしょっちゅう、
「いや?これは○○と書いてあるが、それは議員は□□という意味で言っていると思うので、うちじゃない。D庁に振り直してくれ」
と言う場合があるんです。

これをうけたD庁が「たしかにウチだね~」となれば、円満解決なのですが、ほとんどの場合、

「は?何言ってくれちゃってんの?」

となるので、もうそこで合戦の火ぶたが切られます。

明らかに「こじつけの押しつけやん!」という場合と、
「基準を考えているのは○○省、でも予算をとって実行しているのは□□庁」といったキッチリと分けられないような案件もあるので、この線引きは曖昧で、担当の考え方次第なところがあるので、争いが起きやすいんです。
もちろん、法律とかでしっかりと役割が明記されているような仕事は揉めることはほとんどありませんが、細かい日常業務は「どっちの法律でも読める」「どっちにも明記していない」みたいな、中途半端なものがあり、それがもめ事の原因になることがほとんどです。

この、「おまえだろ」「いや、お前んとこだ」と争うのが、「割りモメ」です。
で、とりまとめの課に「デマケ(役割分担)をしっかりしてくれ!」と担当部署からクレームをしたりする時に使うのが、デマケ。

そして、とりまとめの課がお互いの言い分を聞いて、「はいA省」と決めてくれたら余計な争いはないのですが、「これはお互いの担当部署で話し合って結果だけ教えて」みたいな采配をしちゃうと、飽くなき戦いに突入します。

まず、お互いの担当部署の一人が代表選手として登録され(窓口登録といいます)、そこで合戦開始です。

代表選手は、部内の期待を背中で受け止め、相手へ電話をかけます。そこから合戦開始です。
(空耳で、合戦の合図のホラ貝が聞こえそうです)

この割りモメ、いい大人が本気でケンカするんです。
もちろん基本的には電話越しなので、胸ぐらつかんで殴り合う、なんてことはないのですが、
「いかにウチの部署じゃなくておまえの部署が担当か」について、「法的根拠」「過去の答弁」などあらゆる資料を出してきて、大議論バトルをするのです。ひどいときは何十分も・・・

この時にですね~、日頃から仲良くしている仕事相手に対しても本気で潰しにかからないといけないので、本心としては非常にやりにくいし、心苦しいんです。

でも、それでもやらないといけないのは大きな理由があります。
霞ヶ関業界のデマケ、割りモメに「お互い様」「支え合い」の方法が通用しないからなんです。

普通の社会だと、「今回はこちらがやりますんで、次回はよろしく」とか、
「前回お世話になったからなあ。今回はウチが汗水流すか」というお互い様精神がうまくいっている関係だと成り立つと思うのですが、
これを霞ヶ関のデマケでやってしまうと、「1回引き受けた仕事は未来永劫、その部署が担当となる」というルールがあるので、自分がその部署から異動しても、次の赴任してきた人もその次もその仕事を引き受けなければいけなくなってしまうんです・・・
そうすると、自分の代で後任に変な遺産を残したくない、という心理も働き、割りモメバトルがヒートアップします。

割モメバトルを得意とする人は、割と口が達者で、理論武装と論破が好きな人で、電話口で人がしゃべっているのに、かぶせて話してきたり、すごい上から目線で話をしてきたりするので、かなり不快な気分になります。普通の仕事だったら、お互いのちょうど良いところを調整していくのが役所の仕事の仕方ですが、割りモメはゼロ・イチなので容赦がないです。

ゴリゴリに詰めてくる相手だった場合、私の奥の手は、ザ・関西弁です。
話をさえぎるなどしてきて、「ああ、この人は相手への礼節が欠いている」と判断した瞬間に、関西弁に切り替えることにしています。
それは、私にとっては、相手の土俵で話すやり方より、自分が話しやすいやり方に切り替えたぐらいの気持ちですが、「ほな、○○はこうちゃいますの?」という言い方になったとたん、相手のペースが狂ってきたりするので、関西弁=コワイのイメージを有効活用させてもらっています。。(そうでもしないと勝てない・・・泣)

まあ本当は平和で、譲り合い、お互い様の精神で仕事がしたいもんです。。

割りモメ案件以外は、みなさん基本的に友好的に建設的に仕事してますよ。念のため。