読書記録「かがみの孤城」
学校に通えない中学生の主人公が、大人や同世代の子供達との交流を通して自分の気持ちを表現できるようになっていく物語。この小説が素晴らしいと思った3つの視点。
本人ー 学校に通えなくなったきっかけについて、親にも他の大人にも話せない。また、自分でもその事実を無かったことににしようと蓋をしている。同世代の子供達との会話によって少しずつ自分の心情と向き合い、伝えられるようになる。まずは同世代の子供達へ。そして徐々に、大人たちへ自分の思いを伝えることができるようになる。自分の気持ちを伝えられなかった一番の原因は「優しさ」だ。母親の想いを汲んでしまって、「きっと母は自分にこうしてほしいはずだ」と先に相手のことを考えてしまう。そのために自分の気持ちを素直に伝えることができない。学校に通えなくなったきっかけについて、自分でも最初の段階で母親に助けを求めていたらこんなことにはならなかったとわかっている。それでも、母親の方から自分のSOSに気づいて欲しいという淡い期待と、どうせ気づいてもらえないんじゃないかという落胆に似た気持ちを抱きながら日々を過ごしている。そうした中学生の心の変化をとても細かく描写してある。
母ー一人娘を持つ、働く母親。決して過保護ではなく、冷たい母親でもない。ただ、突然「学校に行かない」と言い出した娘をどうしていいかわからず、「中学生は毎日学校に行くもの」という”当たり前の行動”に対する意識を変えることが出来ず、娘に対して軽い焦りと苛立ちを覚えている。娘に何度問いただしても学校に行かない理由が分からない。分からない以上、どう対処していいか分からず、厳しくしてみたり寄り添うようにしてみたり、それなりに母として努力している。でも、焦っている。その焦りは確実に娘に伝わり、より一層娘を苦しめている…
先生ーきっと普通の男性教員なのだろう。こころの不登校の原因について、中学生にありがちな子供達同士のいざかい程度にしか思っていない。自分なりに、一児童の不登校の原因を探ろうとしているけれど、声の大きい方、伝えるのが上手な方の意見しか耳に入ってこない。それは想像する力が著しく欠けているからだ。でもきっと”普通”の教員はそんなものなんだろう。「どうしてそうなったか」ではなく、「どうやったら学校に来るようになるか」の方にフォーカスしてしまって、子供達の心の動きが見えていない…
フリースクールの喜多嶋先生ーこの3人を客観的にみてつなぐ役割を担っている。まずはこころに寄り添うこと、そして母親を励ますこと、先生に現実を見せること。喜多嶋先生の尽力なくしてはこの問題の解決はなかった。最後に明らかになった、この先生の視点。この小説の影の主人公。
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