『涼宮ハルヒの憂鬱』&谷川流年表(~2011年夏まで)

『涼宮ハルヒの憂鬱』&谷川流年表(~2011年夏まで)

本や雑誌の発売日は基本的に奥付に準じた。よって実際の発売日とはずれがある。その点、ご留意いただければ幸いである。


■2003年
2月 発表 谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』で第8回スニーカー大賞・大賞を受賞
6月10日 小説 『涼宮ハルヒの憂鬱』『学校を出よう! Escape From The School』
※『学校を出よう!』の奥付は6.25
8月25日 小説 『学校を出よう!② I-My-Me』
10月1日 小説 『涼宮ハルヒの溜息』
10月25日 小説 『学校を出よう!③THe Laughing Bootleg』

 アマチュア時代にはミステリの書評サイトを運営し、関西のミステリファンダムでは知られた存在だった谷川流が「電撃!! イージス5」で「電撃萌王」にて商業作家としてデビューし、『涼宮ハルヒの憂鬱』と『学校を出よう!』が同日発売というかたちで単行本デビューした年である。『学校を出よう!』は超能力者たちが集まる学園を舞台にしたSF作品。『ハルヒ』は学園もの+SFだが、『学校を出よう!』はSF+学園ものといったふうに度合いが違う。双子やもうひとりの自分、別の時空連続体といった「分裂」の主題系は『ハルヒ』とも共通している。
 前年2002年にライトノベル出身の作家・乙一が発表した『GOTH』で本格ミステリ大賞を受賞し、ミステリファンをはじめとする「本読み」たちがライトノベルにも注意を払うようになりはじめたのが、この前後からである(もちろん、古橋秀之や上遠野浩平といった作家はそれ以前からSFファンには注目されていたが)。

 この年、講談社がミステリ小説誌「メフィスト」の増刊というかたちで西尾維新、舞城王太郎、佐藤友哉、奈須きのこらをあつめた「ファウスト」誌を創刊し、ミステリとライトノベルのファンを架橋するような内容で話題を呼んだ。

 また、同年に発売されたベストSFを選ぶムック「SFが読みたい!」ではこの年『イリヤの空、UFOの夏』を完結させた秋山瑞人と『マルドゥック・スクランブル』をハヤカワ文庫JAから刊行しSFファンから注目を集めた冲方丁、同じくハヤカワ文庫JAから『第六大陸』を刊行した小川一水の座談が掲載され(冲方はやや若いものの、いずれも谷川と年の近しい作家たちである)、SFとライトノベルの接近が強く意識された年でもある。


■2004年
1月1日 小説 『涼宮ハルヒの退屈』
8月1日 小説 『涼宮ハルヒの消失』
3月25日 小説 『学校を出よう!④Final Destinations』
9月1日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱①』(漫画・みずのまこと)『月刊少年エース』04年5月号~9月号
9月25日 小説 『学校を出よう!⑤NOT DEAD OR NOT ALIVE』
10月1日 小説 『涼宮ハルヒの暴走』
10月25日 小説 『学校を出よう!⑥VAMPIRE SYNDROME』
10月30日 ブックリスト 「ザ・スニーカー」12月号に長門有希が選んだブックリストという体の「長門有希の100冊」掲載
11月25日 小説 『電撃!! イージス5』
12月 受賞 『このライトノベルがすごい!』で『涼宮ハルヒの憂鬱』が2004年度ベストライトノベル第一位に選ばれる

 今では黒歴史となっているが、『ハルヒ』最初のコミカライズが早くも行われた年であり、年末の『このラノ』でのファン投票第一位とあわせて、アニメ化する以前から『ハルヒ』が人気作だったことがうかがえる出来事である。「長門有希の100冊」は発表当時から話題になり、谷川がSFやミステリの蓄積を踏まえて書いているブッキッシュな作家であることをジャンル小説の読者にも印象づけた。
 今野緒雪『マリア様が見てる』がアニメ化され、ムック『ライトノベル完全読本』や大森望と三村美衣による『ライトノベルめった斬り!』が刊行されるなど、既存のライトノベル読者以外からもライトノベルが大きく視線を集め「ライトノベルブーム」と言われた年である。


■2005年
4月1日 小説 『涼宮ハルヒの動揺』
4月25日 小説 『絶望系 閉じられた世界』
6月30日 告知 「ザ・スニーカー」8月号の次号予告で「重大発表」とアナウンス
7月1日 小説 『S BLUE ザ・スニーカー100号記念アンソロジー』に谷川流「涼宮ハルヒ劇場」収録
8月30日 告知 「ザ・スニーカー」10月号、涼宮ハルヒ特集にて「涼宮ハルヒ・アニメ化企画進行中」と発表
9月1日 小説 『涼宮ハルヒの陰謀』
10月25日 小説 『電撃!! イージス5 Act.Ⅱ』
10月30日 告知 「ザ・スニーカー」12月号で涼宮ハルヒ・アニメ化のスタッフ発表
11月25日 小説 『ボクのセカイをまもるヒト』
12月10日 告知 アニメ誌で、2006年4月放送開始予定と発表

 いわゆる「セカイ系」に対しての谷川流からの批判的応答として書かれた(くわしくは前島賢『セカイ系とは何か』を参照のこと)『絶望系 閉じられた世界』は、『ハルヒ』の作者が書いたものとは思えないほどエグくグロい内容であり、翌年以降に訪れる『ハルヒ』ブームのお祭りムードとは対極にあるダークな作品だった。

 もっとも、そののち書かれた『ボクのセカイを守るヒト』は『絶望系』から一転、ツンツンした勝ち気な少女にヘタレの主人公が守られる異能バトルという体裁を取っている(なお、このシリーズ以降から、電撃文庫の谷川の担当編集者が秋山瑞人やうえお久光、古橋秀之などの担当だった峯健司から、『灼眼のシャナ』の高橋弥七郎や『とある魔術の禁書目録』の鎌池和馬、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏見つかさなどを担当する三木一馬に代わっている)。
 10月から『ハルヒ』のイラストレーターでもあるいとうのいぢが絵師をつとめる『灼眼のシャナ』がアニメ化され、06年3月まで――つまり『ハルヒ』の放映直前まで放送されることとなった。
 本格ミステリ界ではこの年刊行された東野圭吾『容疑者Xの献身』の評価をめぐって揺れに揺れたが、谷川の敬愛する二階堂黎人は「容疑者X論争」の中心人物であり、『容疑者X』最大の批判者のひとりであった。


■2006年
1月26日 告知 「少年エース」にてアニメのキャスト発表
2月3日 ラジオ ラジオ関西にて『涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部』放送開始(~12月29日) 放送1週間後にランティスウェブラジオにて配信
3月8日 サイト 「SOS団公式サイト開始
4月2日 TVアニメ ちばテレビなどで『涼宮ハルヒの憂鬱』放送開始(~7月まで)
4月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱①』(漫画・ツガノガク) 『月刊少年エース』05年11月号~06年2月号
CD 平野綾『冒険でしょでしょ?』 TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』OP曲
5月1日 小説 『涼宮ハルヒの憤慨』
5月4日 サイン会 秋葉原デジタルハリウッド秋葉原校にて谷川流といとうのいぢによる『涼宮ハルヒの憤慨』発売記念サイン会
5月10日 CD 平野綾、茅原実里、後藤邑子『ハレ晴れユカイ』 TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』ED曲
6月17日 告知 ラジオ「SOS団ラジオ支部」でSOS団(平野綾、茅原実里、後藤邑子)がアニメ路サマーライブに参戦と発表
6月21日 CD 『涼宮ハルヒの詰合』 TVアニメ第12話「ライブアライブ」登場の「God knows...」、第1話「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」登場の「恋のミクル伝説」など収録
6月23日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 朝比奈ミクルの冒険 Episode00』
6月25日 小説 『ボクのセカイをまもるヒト②』、『撲殺天使ドクロちゃんです』に谷川流による『撲殺天使ドクロちゃん』アンソロジー「谷川 流の場合」収録
6月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱②』
7月5日 CD 『ラジオ「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部」 番外編CD Vol.1』、キャラクターソング、涼宮ハルヒ(平野綾)『パラレルDays』、長門有希(茅原実里)『雪、無音、窓辺にて。』、朝比奈みくる(後藤邑子)『見つけてHappy Life』
7月8日 ライブ アニメロサマーライブにて平野綾、茅原実里、後藤邑子が「ハレ晴れユカイ!」を披露
7月28日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 1』
8月25日 ファンブック 『オフィシャルファンブック 涼宮ハルヒの公式』
DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 2』
9月21日 CD 『ラジオ「涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部~」番外編CD Vol.2』
9月22日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 3』
10月27日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 4』
11月22日 CD 平野綾、茅原実里、後藤邑子『最強パレパレード』 『SOS団ラジオ支部』主題歌
DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5 』
11月25日 小説 『ボクのセカイをまもるヒトex』
11月29日 表彰 TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が第11回アニメーション神戸賞「作品賞・TV部門」「ラジオ関西賞(主題歌賞)」受賞
12月6日 CD キャラクターソング、浅倉涼子(桑谷夏子)『小指でぎゅっ!』、鶴屋さん(松岡由貴)『青春いいじゃないかっ』
12月21日 CD 『涼宮ハルヒの憂鬱 SOS団ラジオ支部 番外編CD Vol.3』
12月22日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 6』
カードゲーム 『ドラゴン☆オールスターズF 涼宮ハルヒの祭典BOX』

12月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱③』

 アニメ化によって『ハルヒ』が一大ブームとなった年である。

 YouTubeがまだまだアナーキー――違法アップロードの取り締まりがまだ追いついていなかったころであり、アニメ本放映がU局だったがために観られなかった(あるいは単純に見逃した)層も評判を聞きつけてそれらの動画サイトを通じて視聴し、『ハルヒ』祭りに参加した。

 京都アニメーションはこれ以前から賀東招二の作品をアニメ化した『フルメタルパニック!ふもっふ』や『フルメタルパニック!TSR』などでライトノベルファンにはその高いクオリティが評価されていたが、『ハルヒ』以降、『らき☆すた』『けいおん!』など話題作を次々手がけ、一挙に知名度を高めることになる。
『ハルヒ』はアニメ化以前は「ジャンル小説の読者も楽しめる」という意味で、ライトノベルファンの外側から注目される作品であるという意味での「ライトノベルブーム」の代表格だった。

 だがアニメ化以降は、消費のブームとしての、ビジネスとして潤沢なキャッシュフローを生む可能性を期待された「ライトノベルブーム」の象徴的な存在とみなされていくことになる。
 なお、この年の暮れにニコニコ動画がサービスを開始し、翌年には違法アップロードされた『らき☆すた』をコメントつきで(擬似)共同視聴したり、MADを楽しんだりするユーザーたち(『ハルヒ』の次の祭りに飢えていたオタクである)が、京アニ作品の人気を支えていくことになる。


■2007年
1月24日 CD キャラクターソング、キョンの妹(あおきさやか)『妹忘れちゃおしおきよ』、喜緑江美里(白鳥由里)『fixed mind』、ドラマCD『サウンドアラウンド』
1月26日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 7 』
2月21日 CD キャラクターソング、キョン(杉田智和)『倦怠ライフ・リターンズ!』、古泉一樹(小野大輔)『まっがーれ↓スペクタクル』
3月18日 ライブ ライブイベント『涼宮ハルヒの激奏』大宮ソニックシティにて開催
レコード 『ハレ晴れユカイ』 『涼宮ハルヒの激奏』会場と一部アニメショップで限定販売
4月1日 小説 『涼宮ハルヒの分裂』
5月15日ころ 延期 『涼宮春の驚愕』発売日延期のお知らせがスニーカー文庫編集部から出される
6月1日 『涼宮ハルヒの驚愕』当初の発売日
6月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱④』
7月7日 広告(告知) 朝日新聞にて「ハルヒ二期決定」発表、SOS団公式サイトで「七夕」イベント
7月27日 DVD 『涼宮ハルヒの激奏』
10月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑤』
12月18日 告知 『涼宮ハルヒの憂鬱』公式サイトにて「二期中止、もとい新アニメーション化」発表
12月27日 ゲーム PSP用ゲーム『涼宮ハルヒの約束』

 アニメ放映は終わったが、ハルヒ役の平野綾をはじめ主要キャストが総出演したライブ『涼宮ハルヒの激奏』が開催され、「笹の葉ラプソディ」という話のある(この時点ではアニメ未放映/未制作エピソード)『ハルヒ』にとって重要な日付である7月7日にアニメ二期の発表、『涼宮ハルヒの消失』で長門が異常動作を起こす日付である12月18日に「二期中止、もとい新アニメーション化」と発表、文化祭前日をループするという(『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』すぎる内容の)初のゲーム『涼宮ハルヒの約束』が発売され、ハルヒ熱はまだまだ冷めなかった。さらには北米でもDVDが発売され、たいへん好調なセールスを記録した。
『らき☆すた』が4月から放映され、平野綾や白石稔、ゴットゥーザ様(後藤邑子)など『ハルヒ』とキャストや京都アニメーションのスタッフが重なっていたこともあり、『ハルヒ』から始まった「祭り」が継続されたような感覚があった。
(しかし、この年の『涼宮ハルヒの分裂』以降、『ハルヒ』の新刊は長く途絶えることになる)
 SF界では円城塔と伊藤計劃がハヤカワSFシリーズJコレクションでデビューし、2000年代前半のSFの一翼を担ったSFとライトノベルの接合点ともいうべき「リアルフィクション」路線から一歩別の方向へ歩み出し、桜庭一樹が『私の男』を10月に発表し(のちに直木賞受賞)、「ライトノベルから一般文芸へ」の流れが行きつくところまで行きついたような印象を与えた。

 ライトノベルとジャンル小説との距離は2003~5年をピークとして、徐々に離れていくことになる(少なくとも読者レベルでは)。このころハルヒダンスを踊り、平野綾に熱狂していたティーネイジャーにとって、SFやミステリの動向など、どうでもよいことだった。


■2008年
1月23日 ファンブック 『涼宮ハルヒの約束 公式ファンブック』
CD 平野綾、茅原実里、後藤邑子『PSPゲーム「涼宮ハルヒの約束」EDテーマ 世界が夢見るユメノナカ』
1月31日 ゲーム PS2用ゲーム『涼宮ハルヒの戸惑』
2月28日 ファンブック 『涼宮ハルヒの戸惑 公式ファンブック』
5月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑥』、『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱①』(漫画・ぷよ)『月刊少年エース』07年9月号~08年4月号、『ザ・スニーカー』10月号、12月号
7月7日 イベント SOS団公式サイトにて七夕イベント
8月26日 告知 「少年エース」で『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『にょろーんちゅるやさん』アニメ化発表
9月10日 小説 『MW号の悲劇 電撃コラボレーション』に谷川流「MW号の命題」収録 「長門有希の100冊」の一冊に挙げられているT・フロゥイング著『火星にて大地を想う』序章より抜粋という体裁
12月18日 告知 SOS団公式サイトにて「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」「にょろーんちゅるやさん」が「出来たら配信、気が向いたら更新」を発表、サイトにて「消失」イベント
12月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑦』『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱②』

 SOS団のメンバーがゲーム制作にとりくみ、ハルヒが納得しなかったらループするという内容のPS2用ゲーム『涼宮ハルヒの戸惑』が発売。スピンオフのギャグマンガ作品『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』のコミックスが発売、やはり12月18日にアニメ化が発表された。

 また、同人作品だった『にょろーんちゅるやさん』が「公式化」された(公式の二次創作として角川書店に求められた)。

 この対応は、三原龍太郎『ハルヒinUSA』に書かれている北米でのアニメ『ハルヒ』の展開にさいして現地のディストリビューターが知財に関して柔軟な対応をしたことによって作品の人気を拡大させたというエピソードと並んで、『ハルヒ』の知財戦略のすぐれた点――あえて受け手に自由にさせる、常識的に考えればアウトなケースでも柔軟に運用することでむしろ作品人気を持続、成長させるという基本方針か――を考えさせるものである。
『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『にょろーんちゅるやさん』に共通しているのは『ハルヒ』のジャンル小説的な側面、時間移動を多用するSFであるとか、ミステリ的なしかけや意匠をごっそり削ぎおとし、『ハルヒ』を学園を舞台にした純粋なキャラいじり作品にしていることである。ハルヒちゃんにおいてはハルヒに存在していた「世界の命運を握る」かもしれないという設定は後景に退き、ちょっと天然の入った憎めない強引なキャラになり、ちゅるやさんは「鶴屋機関の末裔」云々という設定は置いておいて、スモチ(スモークチーズ)好きなかわいいチビキャラになっている。
「MW号の命題」は巨大ダコの襲撃を受けて沈没したらしい船をめぐる手記調の物語であり、深海に眠る邪神=クトゥルーネタで書かれた短篇である(ちなみに劇場版アニメ『涼宮ハルヒの消失』では長門のいる文芸部の部室には『真ク・リトル・リトル神話体系』がある。また、谷川は朝松健の熱烈なファンである)。
 この年の1月にシリーズがはじまった葵せきな『生徒会の一存』は本編開始4ページめにして「あれ? それじゃあ……『ただの人間には興味はありません。宇宙人、未来人――』」「危険よ杉崎! 色んな意味で!」「大丈夫です。原作派ですから」「なんの保証!? あとアニメの出来は神だよ!」というやりとりを入れ、前年にデビューした伊藤計劃はこの年の12月に刊行した第二長篇『ハーモニー』に少女ミァハが「「ただの人間には興味がないの」/とあっさり言い放つ。まるで、宇宙人や超能力者でも持ってこなければ話にならん、と求婚者に理不尽を告げるかぐや姫のよう」とアイロニカルに引用していた。

 これらと原作を公式に「ネタ」として使った『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』や『にょろーんちゅるやさん』の人気の高さは、『ハルヒ』がどんなものとして消費されたのか(受け手がどのように消費したかったのか)をよく示している。


■2009年
1月1日 単行本コミックス 『らき☆すた×涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 でっかいお楽しみBON』(まんが・イラスト・美水かがみ、ぷよ)
1月21日 CD 『Wiiゲーム「涼宮ハルヒの激動」ボーカルアルバム』
1月22日 ゲーム Wii用ゲーム『涼宮ハルヒの激動』
2月13日 告知 「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」「にょろーんちゅるやさん」が「出来上がりませんでした」と配信
2月14日 ウェブ配信 アニメ『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『にょろーんちゅるやさん』をYouTubeにて配信
3月25日 CD 『ゲーム「涼宮ハルヒの直列・並列」ボーカルミニアルバム』
3月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑧』、『涼宮ハルヒの競演 ハルヒコミックアンソロジー』(『エースアサルト』08年WINTER、09年SPRING)
4月 TVアニメ 『涼宮ハルヒの憂鬱』(「笹の葉ラプソディ」など新作を含むかたちで)改めて放送開始(~10月)
4月10日 ファンブック 『涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊ハルヒ』『涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊みくる』
4月22日 CD えすおーえすだん『いままでのあらすじ』 アニメ『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』OP、ED曲収録
4月29日 コンサート クラシックコンサート『涼宮ハルヒの弦奏』開催
4月30日 画集 『いとうのいぢ画集 ハルヒ主義』
5月9日 ファンブック 『涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊長門』『涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊キョン&古泉』
5月28日 ファンブック 『涼宮ハルヒの並列・直列 公式ファンブック』
ゲーム DS用ゲーム『涼宮ハルヒの直列』
5月29日 DVD 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱とにょろーん☆ちゅるやさん 最初(第1巻) 』
6月24日 CD 東京フィルハーモニー交響楽団『涼宮ハルヒの弦奏』、ちゅるやさん(松岡由貴)『YouTubeアニメーション「にょろーん ちゅるやさん」イメージCD3 このスモチからの卒業』
6月26日 DVD 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱とにょろーん☆ちゅるやさん 次(第2巻)』
7月22日 CD 平野綾『Super Driver』 アニメ新OP曲
7月25日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑨』『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱③』
7月31日 DVD 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱とにょろーん☆ちゅるやさん DVD 最後(第3巻) 』
8月5日 CD ベストアルバム『涼宮ハルヒの記憶』『涼宮ハルヒの記録』
8月10日 コミックス 『蜻蛉迷宮①』(原作・谷川流、作画・菜住小羽、キャラクターデザイン・武田日向)
8月26日 CD 『涼宮ハルヒの憂鬱-Super Remix-Full-Mix』、涼宮ハルヒ(平野綾),長門有希(茅原実里),朝比奈みくる(後藤邑子)『止マレ!』 アニメ新ED曲
8月28日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱4 笹の葉ラプソディ (第1巻) 』
8月30日 論考 「ザ・スニーカー」にて涼宮ハルヒ特集(「エンドレスエイト」特集)。谷川流がループ論「閉曲線(ルビ:ループ)の彼方に~a study in August~」を寄稿
9月10日 コミックス 『にょろーん ちゅるやさん』(漫画・えれっと)『月刊コンプエース』08年11月号~09年10月号掲載
9月25日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱5.142857 (第2巻) 』
9月26日 ファンブック 『涼宮ハルヒちゃん&ちゅるやさんのこうしき』
9月30日 CD キャラクターソング、涼宮ハルヒ(平野綾)『Punkish regular』、長門有希(茅原実里)『under "Mebius" 』、朝比奈みくる(後藤邑子)『えっと…リターンズしてリベンジ!』
10月 告知 TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』最終回にて劇場版『涼宮ハルヒの消失』発表
10月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑩』
10月30日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5.285714(第3巻)』
11月18日 CD キャラクターソング、古泉一樹(小野大輔)『「つまらない話ですよ」と僕は言う』、
11月27日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5.428571(第4巻)』 
12月9日 CD キャラクターソング、キョン(杉田智和)『ホモ・サピエンス・ラプソディ』、鶴屋さん(松岡由貴)『祭って祭って!いらっしゃ~い』、谷口(白石稔)『人生の主役コール!』
12月18日 コミックス 『蜻蛉迷宮②』
12月25日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5.571428(第5巻)』
12月26日 コミックス 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱④』『涼宮ハルヒの絢爛 ハルヒコミックアンソロジー』『キョン&古泉の災難 ハルヒコミックアンソロジー』

 アニメ『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『にょろーんちゅるやさん』、そして本編『涼宮ハルヒの憂鬱』が「笹の葉ラプソディ」「エンドレスエイト」など新エピソードを込みでの改めての放映ということで、ふたたび『ハルヒ』がおおきく盛り上がった年であり、『けいおん!』が放映され、京アニ人気がさらに加速した年でもある。なかでも8月31日がループする模様を描いた「エンドレスエイト」を8週連続にわたって放映したことはアニメファンのあいだで物議を醸した。筆者は3週目にはうんざりしていた記憶がある。

 しかし10月には『涼宮ハルヒの消失』劇場版アニメーション化が発表され、翌年公開されたあとには「エンドレスエイト」事件で一部に生じていた「『ハルヒ』もういいお」ムードは吹っ飛んでしまった。
 谷川流は「電撃文庫マガジン」連載の漫画原作『蜻蛉迷宮』を手がけ、この年、コミックスが発売された。『蜻蛉迷宮』は谷川版『ひぐらしのなく頃に』と言うべきか、田舎の旧家に舞い戻ってきた主人公を待ち受ける、身内の犯行と思われる連続殺人事件の推理を描いた作品である。得意の双子、分裂テーマを描いている。コミックス1巻の帯は第1期アニメ『ハルヒ』で総合演出を手がけたヤマカンこと山本寛であり、「谷川先生、相当タマってるんですね……。」とコメントを寄せている。また、谷川は翌年公開される劇場版『涼宮ハルヒの消失』のために、テーマソング「優しい忘却」の歌詞原案などで協力している。
 この年の暮れ、アスキーメディアワークスが電撃文庫を卒業した世代を主たるターゲットにして一般文芸の文庫・メディアワークス文庫を創刊。かつてマンガにおいて少年誌を卒業した読者向けに青年誌が創刊されたように、ライトノベルでもそうした動きが起こった(のが、2000年代であった)。

 また、神林長平デビュー30周年を記念して、虚淵玄や桜坂洋、元長柾木といったオタク第二世代以降の作家による『神林長平トリビュート』が刊行された。しかし彼らと近しい世代であり、『学校を出よう!』などには影響がみられ、『ハルヒ』の地の文に「あなたの魂に安らぎあれ」と神林の著作から引用していた谷川流の名前はなかった。


■2010年
1月26日 試写 劇場版『涼宮ハルヒの消失』初号試写
1月27日 CD 『劇場版 涼宮ハルヒの消失 オリジナルサウンドトラック』
1月29日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5.714285(第6巻)』
2月4日 コミックス 『長門有希ちゃんの消失』(漫画・ぷよ)『ヤングエース』09年vol.1~5、10年vol.6、7、『ザ・スニーカー』09年8月号、『ヤングエースプレビューマガジン』09年vol.1、2、3、直前号
2月6日 映画 劇場版『涼宮ハルヒの消失』公開
2月24日 CD Imaginary ENOZ & 涼宮ハルヒ(平野綾)『TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』 Imaginary ENOZ featuring HARUHI』、茅原実里『優しい忘却』 「優しい忘却」は映画『涼宮ハルヒの消失』主題歌
2月25日 ガイドブック 『公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失』
春ころ? CM ロッテのガム「ACUO」のCMにSOS団の女性陣が登場
2月26日 DVD 『涼宮ハルヒの弦奏』、『涼宮ハルヒの憂鬱 5.857142(第7巻)』
3月26日 DVD 『涼宮ハルヒの憂鬱 5.999999』(第8巻)

3月30日 アプリ iPhone用アプリケーション「TDOS3 for iPhone」

4月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑪』
4月30日 小説 「ザ・スニーカー」6月号に『涼宮ハルヒの驚愕』70枚分先行掲載。 谷川流が「現時点で400字詰原稿用紙換算約370枚くらい」「だいたいこれで75%……80%かな……ぐらいの分量のような気がしています」とコメント
7月16日 アプリ iPhone用アプリケーション「TODOS3 Drill Edition for iPhone」(「TDOS3」の難易度を下げたもの)

7月25日 コミックス 『涼宮ハルヒの祝祭 ハルヒコミックアンソロジー』
7月30日 イラスト集 『涼宮ハルヒイラストレーションズ春・夏』
8月27日 Blu-ray 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱&にょろーんちゅるやさんBlu-ray Disc BOX』
9月30日 イラスト集 『涼宮ハルヒイラストレーションズ 秋・冬』

10月2日 アプリ iPhone用アプリケーション「ハルヒ壁紙V」

10月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑫』

11月14日 アプリ iPhone用アプリケーション「AniTwi涼宮ハルヒの憂鬱」

11月26日 コミックス 『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱⑤』『長門有希ちゃんの消失②』
Blu-ray 『涼宮ハルヒの憂鬱 ブルーレイ コンプリート BOX 』
12月14日 ファンブック 『ブラック★ロックシューター フェノメノン』

12月16日 アプリ iPad用アプリケーションHMV制服版 涼宮ハルヒの消失@HMV阪急西宮ガーデンズ」

12月17日 DVD/Blu-ray 『BLACK★ROCK SHOOTER』 谷川流が吉岡忍と共同脚本
12月18日 DVD/Blu-ray 『涼宮ハルヒの消失』

12月24日 アプリ iPhoneアプリケーション「ハルヒ壁紙」「ハルヒ消失壁紙」「有希壁紙」「みくる壁紙」「キョン古泉壁紙」「ハルヒマスコット」「有希マスコット」「キョンマスコット」「みくるマスコット」「古泉マスコット」「ハルヒの暦」「ハルヒ時計Ⅰ~Ⅲ」「SOS団マスコット」

 劇場版『涼宮ハルヒの消失』が公開され、改めて『ハルヒ』人気(長門人気、と言うべきか)の高さが明らかとなった。谷川流の火浦功化、すなわち新刊が出ないことが一部で危惧されていたが「ザ・スニーカー」に『涼宮ハルヒの驚愕』が70枚先行掲載され、執筆していることが読者にも確認された。
 この年、谷川は山本寛から声をかけられ、アニメ『ブラック★ロックシューター』の日常パートの脚本を手がけている。快活な少女・黒衣マトと物静かな少女・小鳥遊ヨミの学園生活での心の距離を描いているが、谷川は『涼宮ハルヒの消失』における長門有希などにもみられるように、無口キャラの心理の淡いをすくいとるのが巧い。SFやミステリといったジャンル小説由来ではない部分の谷川の魅力がみてとれる。

 あるいは谷川流という作家は、2000年代の序盤からなかばにかけて期待されていたライトノベルとSFやミステリを架橋する新世代の作家としてではなく、キャラクターの配置の妙やかけあい、「お約束」的な日常のイベントのつかいかたが卓抜な作家として歴史に名をのこすのかもしれない。


■2011年
1月5日 アプリ iPhone用アプリケーション『涼宮ハルヒの憂鬱イラスト&パズルデラックス版』

1月29日 広告 読売新聞にて『涼宮ハルヒの驚愕』が5月25日発売と広告、全国で予約受付開始
2月26日 コミックス 『涼宮ハルヒの憂鬱⑬』
4月6日 CD 涼宮ハルヒちゃん(平野綾)、長門有希(茅原実里)、朝比奈みくる(後藤邑子) 『らくらく全手動空間/遊びの学びの静けさの』 ゲーム『涼宮ハルヒちゃんの麻雀』OP、ED曲
4月11日 英語教材 『涼宮ハルヒの憂鬱で英単語が面白いほど身につく本(上)(下)』
5月12日 ゲーム PS3、PSP用ゲーム『涼宮ハルヒの追想』
5月25日 小説 『涼宮ハルヒの驚愕』初回限定版

涼宮ハルヒの追想『涼宮ハルヒの追想 公式ファンブック』

アプリ iPad用アプリケーション「アニメロイド『長門有希のBOOK☆WALKERナビ』」「アニメロイド『朝比奈みくるのBOOK☆WALKERナビ』」

アプリ iPad用アプリケーション『涼宮ハルヒのBOOK☆WALKER』

5月26日 コミックス『涼宮ハルヒの憂鬱⑭』

5月29日 サイン会 角川書店にて『涼宮ハルヒの驚愕』発売記念・谷川流サイン会
6月15日 小説『涼宮ハルヒの驚愕(後)』(分売通常版)

ファンブック『OFFICIAL FANBOOK   涼宮ハルヒの観測』

ゲーム ソーシャルゲーム『涼宮ハルヒの団結』サービス開始 5月25日から事前登録開始
7月7日 ゲーム PSP用ゲーム『涼宮ハルヒちゃんの麻雀』発売予定

『ハルヒ』4年ぶりの新刊『涼宮ハルヒの驚愕』が発売となった。マンガはもちろん継続中であり、ゲームや関連本も変わらずリリースされつづけている。

参考文献:『公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失』『涼宮ハルヒの憂鬱 超月刊涼宮ハルヒ』


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