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賭博未来論プレミアム(1)

『競馬王』連載のコラム「賭博未来論」は俺がもっとも好きな作品です。
『勝負馬券論』(2017年)に第17回まで収録されているのですが、第18回以降が全く活字化の予定がなく、ずっとお蔵入りしたままでした。
長年の悲願のひとつとして、noteに第18回以降を復刻します。
第17回までを読まなくても十分伝わる内容と思いますが、より深く読みたい方は『勝負馬券論』をお買い求めください。電子版もあります。

なお、見出しの下のリードは編集部で作ってくれた文章です。
せっかくなので付けておきます。

第18回 ロンシャンの夢(ブン殴る技術)

コンピ指数の研究は二年の時を経て、成果を上げた。100円で帯にも届きそうな配当を手にしたとき、強欲さが再び頭をもたげる。これは単なる幸運ではない。狙いすました未来なのだと。そして大商いへの機は熟したかの見えた。本人だけには。

迷いもせず一途に1の数字を追うて行く買い方は、行き当りばったりに思案を変えて行く人々の狂気を遠くはなれていたわけだが、しかし取り乱さぬその冷静さがかえって普通でなく、度の過ぎた潔癖症の果てが狂気に通ずるように、頑なその一途さはふと常規を外れていたかも知れない。寺田が1の数字を追い続けたのも、実はなくなった細君が一代という名であったからだ。

織田作之助『競馬』より

「十月に彼氏と凱旋門賞を見にいくんです」
女は名物の穴子丼を食べながらそう言った。
今年の五月、千葉県・富津岬での撮影。
昼過ぎ、展望台のある砂浜でのインタビューを終え、皆で港の定食屋に入った。
大きな穴子の天ぷらが丼からはみ出ている。
木更津市在住の彼女(31)はバツイチ。
ショートカットの明るい性格の猫目美人。
結婚したのが17歳で、別れたのが22歳だ。
離婚の原因は双方の浮気。
お互い若すぎる結婚だったのかもしれない。
その後も男関係は派手だった。
愛人の社長、ハプニング・バーの客、親戚の少年……、次から次へといろんな男が出てくる。
黙ってても男が寄ってくるタイプだ。 
凱旋門賞に同伴するのは、最近知り合った競馬仲間の男で、ふたりともオルフェーブルのファンである。
去年、ゴール前でソレミアに差された悔しさを現地応援でともに晴らすつもりだ。
競馬をやらない男と競馬場に行ってもつまらない。
競馬も男も面白い彼女にとっては、競馬をやる男が一番なのだ(注1)。
女は穴子を半分ほど残して箸を置いた。
「穴子丼って、ずっと同じ味ですよね」
「途中から味変わったら、穴子丼ちゃうやんか」
結婚生活も穴子丼みたいに単調な味が続いたのだろうか。
別れた亭主は、かじり残した穴子のようなものかもしれない。
しかし、単調な毎日のことを平和ともいうのだが。

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