嘘日記10/10

私が唯一食べられる果物であるリンゴがおいしい季節となったので早速食べることとします。スーパーで買ってきたリンゴをまな板において包丁を入れると中心の辺りに何やら細長い物が見えました。
「おや、先客かな?」とひとりごちます。
このリンゴの所有権がいくら私にあるとは言え先客のいたリンゴを食べるのは気分的によくありません。虫食いの部分を取り除けば問題ないだろうかと、よく見てみるとそれは虫ではなくイカのゲソでした。

いったいなぜゲソがリンゴのなかに入っているのでしょうか。マジシャンのせいでしょうか、マジシャンが観客の目の前で消して見せたゲソがリンゴの中に移動しているパフォーマンスだったのでしょうか。しかし記憶にある限りマジシャンを呼んだ覚えはありません。
「近くで行われたマジックと干渉してしまったのかも知れないな」なんて考えていると窓から強烈な光が差し込みしばらくすべてが真っ白になりました。
そして奪われていた視界が戻ってきたころ、インターホンのチャイムがなりました。インターホンの画面で確認すると絵に描いたような宇宙人が写っています。大きなどら焼きのような形をした頭に触手が何本もついていて、火星人でgoogle検索したら一番に表示されるような姿でした。知らない人ではありますがわざわざインターホンを押したのですから恐らくこちらを傷つける意図は無いでしょう、悪意があるとすれば押し売りの場合だけです。

ガチャリとドアを開けるとインターホンに写っていたままの姿の宇宙人が立っています。私が出るやいなやその宇宙人は言葉に表すことができない音声を発しました、しかし不思議なことにその意図は理解出来るのです。その宇宙人は「転送ミスで私の身体の一部がそちらに行ってしまった。なのでそれを返して欲しい」と言っています。
さっきリンゴから出てきたゲソ! これしかありません。転送ミスで触手がリンゴの中に入ってしまったのでしょう。触手をティッシュに包んで玄関で待つ宇宙人に見せると「それではない」と言いました。そして「しかしそれからは私の身体のにおいが染みついている」と続けます。
「間違いない、この部屋の中にある」と言って宇宙人は私の部屋に上がってきます。
上がってきた宇宙人の背中についていきながら(ツーショットお願いしようかな)なんて考えていると。「これだ、返していただけるかな」と言いながら宇宙人が振り返ります。その触手には私がさっき切ったリンゴが握られています。「切ってしまいましたがそれでよろしければ」と答えると「それでかまわない。感謝する」と宇宙人は言い、まばゆい光に包まれたかと思うと宇宙人はリンゴとともに消えてしまいました。
後にはリンゴを切って少し汚れたまな板と果物ナイフだけが残りました。
ツーショット、頼んどけばよかったなあ

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