見出し画像

BAR シェリル47〜黄昏〜

 それからひと月後、トキコさんは引っ越して行った。
ヒカリの贈った掛時計は紫に小花を散らした綺麗な風呂敷…旅行先でマスターが贈った物らしい…に包まれて「これはわたしが運ぶのよ。」と見送る人達に言いながら。

その夜〜
「たくちゃん寂しくなったね。」ヒカリがそう言うと「やぁね、今生の別れでもなし会おうと思えば会える距離だからね。」グラスを磨きながらそう答えると「そういうとこ、やっぱり男性よね。わたしはTIMEを知らないのだけどマスターってどんな男性だったの?」「そうねぇ…。短気で喧嘩っ早い頑固者だったわね。TIMEで何人出入禁止喰らったヒトがいたかしら。」「だけどね、トキコさんを前にするととたんに仔猫ちゃんよ。」「えー、そんなヒトだったんですか!びっくり。でも仲良かったんでしょ?」「トキコさんと?そりゃもうベタ惚れだったからね。トキコさんは誰と一緒になっても上手くいくだろうけど、マスターはダメね。トキコさん以外とは難しいと思うわ。」フッと思い出し笑いをしながら磨き上げたグラスを仕舞いながら「さながらキャサリン・ヘプバーンとスペンサー・トレイシーみたいだったわね…。あの方達は秘密の関係だったけど。」「昔の俳優さん?」「そうよ、ハリウッド華やかなりし頃のね。キャサリン・ヘプバーンとジェーン・フォンダの黄昏…。あの映画はね…。おっと長くなっちゃうわね。」「たくちゃんってほんとにトキコさんのこと好きなんですね。お家のことだってあんなに親身になって。」「あらヤキモチ?嬉しいわね。」「もぉ!茶化さないで!」
 トキコさんが家は売るというのを止めたのはたくちゃんとパパ。
「だって何があるかわかんないんだしさ、いざというときに帰る場所があった方が絶対良いって。」「そうだよ、たくちゃんの言う通りだよ、せっちゃんも同じこと言ってるし…もし良かったら賃貸に出すってのはどうだい?ちょうどミチルちゃん達が家探してるとこなんだ。ここなら静かだし病院も近くにある、もちろん話は不動産屋通して細かい条件決めてきっちり契約してもらうからさ。」

そんなやり取りの後、トキコさんが帰りたくなるまでという条件はあるものの破格の家賃でミチル達に貸すことになったのだ。
広い所に移れるとミチルもポンちゃんも大喜びで、パパは早速庭に置くブランコを茜にプレゼントすると張り切っている。

「さ、遅くなったわね。泊まって行くでしょ?ラーメン食べに行きましょ!」「わーい!行きましょ!」戸締まりを確認して二人はいつものラーメン屋へと向かった。

★おまけ★

 ヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダの父子共演の映画にしてヘンリー・フォンダ最後の主演作。
オスカーと無縁だった父(長年の功績を称えての名誉賞は受賞している)に主演男優賞を獲らせたいと映画の原作同様長年不仲だったジェーン・フォンダが原作の権利を買い取り映画化したもの
。キャサリン・ヘプバーンは妻役として出演し、劇中ヘンリー・フォンダが被っている帽子は亡きスペンサー・トレイシーの物。
主演男優賞の受賞式にはヘンリー・フォンダはかなり病状が悪化していたためジェーン・フォンダが代理で出席。翌年ヘンリー・フォンダ永眠。
こういう映画…最近ないのがさみしいところなのよ…TAKU

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?