BAR シェリル 番外編
「しゃい!」可愛い声に出迎えられてヒカリが訪れたのは、ミチルの家だった。
よく回らない舌で挨拶してくれたのは茜ちゃん。
「こんにちわ!何歳になったのかな?」膝をついて話しかけると「2しゃい!」と指で2を作ろうとするのがまた可愛い。
「可愛い盛りね。」「そうなの、でも目が離せなくて。あ、上がってちょうだい、茜、お姉ちゃんが靴脱ぐからこっちにいらっしゃい。」「あい!」
靴を脱いでスリッパに履き替えるのを待って茜が手を引く。
新しいお家が嬉しいのだろう、こっちこっちとしばらく手を引かれて案内してもらうのをミチルも笑って見ている。
ヒカリが来たきっかけは1週間ほど前、ふらりとぽんちゃんがシェリルにやってきて、たくちゃんにちょっとした愚痴をこぼすのを聞いて様子を伺いがてら茜に久しぶりを会いにきたのだった。
ミチルが淹れてくれたコーヒーに手土産にと持ってきたケーキをテーブルに置くと茜にはミックスジュースを作り始める「産後にたくちゃんが持たせてくれたミックスジュースのおかげかしら、この娘もミックスジュースが好きで。」「そうなんだ、もう2歳って速いね!ケーキは食べられるかしら?」「ありがとう大好きよ。今日来てくれたのってぽんちゃんが何か言ったのかな?」「うーん、それもあるけど茜ちゃんにも会いたかったしちょうど良いタイミングだったかも。あれがパパのブランコね。」「そうなの、お庭に置くのはまだ早いかなと思って。」
そう言うが早いか茜が乗ろうとする。
「茜、お利口に座ろうね。ブランコは後でね。」イヤイヤをする茜をようやく椅子に座らせるミチルを見て
「大変だね、ミチルさん自分の時間あるの?」「ないない、そんなの。」と笑うミチルに「大丈夫?ぽんちゃんもそれを心配していたのよ。」
「実際、子育てってほんと大変だと思うよ、俺なんて朝仕事行って仕事して帰ってくるだけだもん。でもミチルはまだ言葉もよく理解してないちっさいのを相手に24時間一緒にいるんだもん。気も抜けないしさ、仕事してる方がどれだけ楽か…。だから休みの日は俺もなるべく茜と一緒に居てミチルにひとり時間持ってもらおうと思ってるんだけどね。」
ぽんちゃんは一気に話すとようやく水割りに口を付ける。
「そうねぇ、今ここに子持ちがいないから何とも言えないけどミチルちゃんはずいぶんお疲れなのかしら?」
「美容院に行きたいって言うから茜と二人で留守番してたんだけどさ、俺と二人ってのが気に入らなくてギャン泣きよ。こっちも泣きたくなってさ。」
「ママに置いてかれた!ってところかしらね。で、二人で泣いてたの?」「まさか、そこまでは。大好きなミックスジュース作って飲ませて落ち着いたところで公園に行ったらご機嫌になって一安心でした。」
「お疲れ様だったわね、でもちゃんとお父さんしてるじゃないの!」
「そりゃね、二人の子供だもん。協力しあわなきゃって、俺たち実家も遠いし。でもたまにぼーっとしてる時があってね、訊いても何でもないって言うだけだし困ってるところ。」
そんなやり取りがあったことをミチルに聞かせると「実家に帰りたいなって。茜に故郷見せたくなったの。でも長距離の移動がネックなのよね。ぽんちゃんもそう長く休み取れないし。」「そうだったんだ。」としばらくヒカリが考えて…「ね!パパとセツコさんも一緒に行けばどうかしら?」以前ミチルの実家の近くに人気の観光地があると話していたのを思い出して言うと「そんな。パパもお仕事あるじゃない?」「確か前に有給消化しないといけないって話してたよ。すぐに行くんじゃなかったらお店で会ったときに話してみても良い?」「それは良いけど、まずはぽんちゃんに話さないと。」「そりゃそうね!でもぽんちゃんならきっとオッケーすると思う。」「そうね、多分反対はしないと思うんだけど。ね、ヒカリちゃんせっかくだからお夕飯食べて行かない?もうすぐぽんちゃん帰って来るし、そのつもりでお買い物もお願いしてるのよ。急なお誘いだけど良い?」「もちろんよ!嬉しいわ。」「わたしもよ、大人のヒトと喋ったの久しぶりだし。」笑い合うふたりを見て茜も嬉しそうに笑ってる。
やがてぽんちゃんも帰宅して賑やかに夕食を終えて、ミチルの帰省の話をするとぽんちゃんも大賛成で早速パパに電話を架けてみると職場に確認してみてからになるが一緒に行けるなら是非行きたいと返事をもらっていた。
…帰り道…
色々あったけど、幸せなんだな…ふとヒカリはあの雨の夜のミチルを思い出しながらたくちゃんに会いたいと思うヒカリだった。
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