BAR シェリル 46
たくちゃんが旅行を終えてシェリルに戻った日はトキコさんの計らいで、店は貸切の札を掲げて日頃親しくしている常連が集まってきた。
お土産は、パパは象、セツコさんはリス…とそれぞれのイメージに合わせたマグカップ、トキコさんには、ヒカリちゃんは選んだ文字盤が干支の掛時計。マグカップはオランウータンにした。
「まぁかわいい!ちゃんと子から始まってるのね!」「そうなんです。間は干支になりそこねた動物もいますよ。」「あらほんと!子と丑の間はモグラにネコ?」「ありがとう!とっても嬉しいわ。早速寝室に置かせてもらうわね。」「そんな、トキコさんにはお世話になって楽しい旅行でした、わたしこそありがとうございました。」
カウンターには蝶ネクタイを締めたパパがかいがいしく働いては「セッちゃん飲んでる?」「ほらセッちゃん、コレ美味しいから食べてみなよ。」と恋女房に声を掛ける。
そんなふたりをみんながからかったりしているのをたくちゃんがカウンターの端から微笑ましく眺めていて。
「たくちゃん!ボーッと眺めてないで氷砕いてよ。アイスピック苦手なんだよ」パパの声に「アタシは今日はお休みなのよ、苦手苦手って言わないでやってみなさいよ。」そう言いつつもカウンターの奥に行くたくちゃん。
楽しいわね…ほんとに良いお店にしてくれたわ。水割りを傾けながらトキコさんが呟く。
その表情はどことなく寂しそうにも見えた。
そろそろお開きにしようかとするタイミングでトキコさんが「ちょっと良いかしら?お話しがあるのよ。」と立ち上がり
「わたしね、グループホーム作りたいって話はしたよね?それでね今月中にこっちを引き払ってマスターの実家の方に引っ越すことにしたの。」えー!と驚きの声が上がるのを聞きながら「あっちに作るなら土地にも慣れておかなきゃね。知ってる人はほとんど居ないけど、今までありがとね。マスターが逝ってからずっと引きこもってたわたしを引っ張り出してくれたたくちゃん、昔と変わらないパパとセツコさん…もうね、ほんと皆さんが大好き!だから是非遊びにいらして!畑仕事でもさせてあげますから。」涙ぐみながらも最後のひと言に大笑いしてトキコさんの挨拶は終り、これまた良いタイミングでラーメンの出前が届く。
「さ、伸びないうちにいただきましょ!そうだ、ノボルくんも店は上りでしょ?1杯飲んで行きなさいよ。」「え⁉いいんスか?」「モチロン!大将も後から来るって言ってたから大丈夫よ。」出前にはちょくちょく来るものの店で飲むのは初めてのノボルくんはちょっと緊張した面持ちでジンジャーハイボール…飲んだことないんスけどなんかおしゃれな感じで…と照れ笑いするのが可愛いと言われますます赤くなる。
ウフフ新メンバーが増えたわね、トキコさんが悪戯っぽく笑いながらバーボンを傾けた。
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