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BAR シェリル~番外編

  「ただいま!」
待ってる人がいてもいなくても防犯を兼ねて帰宅するとユキコは声を出している。

 ガラーンとした部屋にユキコの声が反響して、ついこの間までいたはずの彼が出ていった現実を突きつける。

 「やっぱ出てったか…」クローゼットにも食器棚にも男の痕跡は消えていた。
…やられた!最近買い換えたばかりのテレビが消えていた。
そりゃ広くなるはずよね、独り言をつぶやきゴロンとソファーに身を投げる…ふとゴミ箱に目をやるとふたりで撮った写真がビリビリに破られて捨てられていた…ここまでとはね…腹が立つより自分が愛した男がここまでするのかと唖然としながら破られた写真を集めてパズルのピースのようにテーブルに載せて繋ごうとしたとき、「現実的じゃないわね」とたくちゃんの声が聴こえた。「ほんとね、現実的じゃない。」ふたりで使った深皿に写真を入れてシンクに持っていくとマッチを擦る…オレンジの炎があっという間に写真を包み黒くなった所で水を掛けて火を消す。
 あっけないもんだわね。きちんと消火できたか確かめてしばらく残骸を眺めながら涙が頬を伝っているのに気づいた、一緒に暮らしてほぼ1年。まさか年齢が原因で別れるなんて思いもしなかった…

 出会いは必然、別れは突然なんて良く言ったもんだわ。

  ふいに拓海たくちゃんの顔が浮かんだ。
  出会いはわたしの勤め先だったわね、おどおどしながら妹へのプレゼントに口紅を買いにきたなんて言ってたけどホントは自分の為ってすぐにわかったな。殻を破りたかった、随分経ってから言う拓海が愛おしくてメイクの話や肌の手入れしているうちに自分だけを見てほしくてずっと傍にいたかったのに、わたしってほーんとバカ!

  取り戻せない時間に悪態ついても仕方ない!
にわかにソファーの上に立ち、男から貰った指輪を外しながら「テレビ持ってかれたんだもん、売っちゃお!」
高々と指輪を上げて誰に言うともなく宣言する。

 綺麗に磨いて箱に入れてバッグに入れようと開けると中から封筒が出てきた。

  『生存確認の為、これで貴女に似合う服を買って、今夜シェリルに来ること』手紙と一緒に5万円入っていた。

 「拓海…あんたって人は…」手紙を胸に抱いて戻らない時間の重みを噛みしめながら孤独を感じるユキコだった。


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