出産祝い
「おめでとうございます。今日は当院からささやかな食事を用意しました」
出産という大きな仕事を終え、ベッドに座る私に看護師さんは優しい声で言った。
用意された食事は美味しそうな和牛のステーキ。綺麗な赤ワインソースがかかっていて、久しぶりに食欲がわいた。
「ふふ。食事はみんなで食べたいですよね」
そう言うと看護師さんは、持ってきたパソコンを個室のテレビと繋いだ。なにが始まるのだろう。
テレビには私の家族が映っていた。お母さん、お父さん、弟、旦那さんから、おめでとう、お疲れ様、とお祝いと労いの言葉をもらい、私は嬉しかった。そんな中、画面右端に見慣れない小学生くらいの女の子の姿があった。その子は私に向かい、恥ずかしそうに『ありがとう』と、はにかんでと言ってくれた。
今までみたことのないくらい、愛らしく、可愛いらしい女の子。私はその子に一目惚れした。絶対幸せにしたい。いや、今幸せですか?
今は知らない女の子。でも、私はその子を知ることになる。確信めいたものが私にあった。
「こちらこそ、ありがとう」
今はなにしてるの? 学校は楽しい? 友達はできた? とめどなく溢れる言葉に、その子は、ゆっくりだけど、丁寧に答えてくれた。
楽しい食事はあっという間だった。
時刻は9時を迎え、女の子は眠そうだった。
『ママ、眠い』
女の子は隣にいる、でも画面上は死角で見えない母親に向けて言った。
『そうね、寝ましょう。......じゃあね。待ってるから』
そういうと、母親は私に向けて、手を振った。
いつの間にか、画面は暗くなっていた。パタパタと廊下を歩く看護師さんの足音の中、ここにいるよ、とばかりに赤ちゃんが大きな声で泣いた。
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