見出し画像

シネマティックオーケストラのマシマロ的展開 2019.4

13年前。
私は大好きなディズニーランドの発祥の地にいた。
異文化理解を深める、語学力強化という口実の元に、
50周年を迎える本場ディズニーランドに行き、
さらにディズニーワールドまで行くべくアメリカカリフォルニアに行き、
知識と経験と思い出以上に体重が増えたあの頃。

「Man with a movie camera」というCDをジャケ買いした。
それがClaremontの小さなCD屋だったかNew YorkのVirsin Recordsだったかは
覚えていない。
The  Chinematic Orchestraというアーティストのアルバムで、
アーティスト名もなんだか良さそうな感じがした。
映画のサントラのように展開するこのアルバムが好きで
雨の多いカリフォルニアの冬は、このアルバムと体にまとまりつく
不健康な食生活の結果増えた脂肪と共に越した。
このアルバムについて調べてみると、1929年のソ連の無声アヴァンギャルド映画「Man with a movie camera」というアルバムタイトルと同じ映画に音楽をつけた作品でだということがわかる。
1929年、ソ連、無声アヴァンギャルド映画、その言葉だけでもゾクゾクする。
音楽も設定も最高のアルバム。
カリフォルニアにいるのに、少し影のあるような音楽を聞いていた私。
その変わらなさがぶれなくてよい。

あれから10年以上経ち、そのThe Cimematic Orchestraの来日公演に行くことができた。
新譜をメインに、過去のアルバムの曲も。
ライブならではのドラムソロやサックスのループにもセンスを感じ、
その音の波に身を任せたくなった。音の作り方や重ね方、展開の仕方、
盛り上げ方、聞いていて気持ちよく、まさに映画の世界のように
ストーリーが展開していく。

そんな夢見心地の私だが、目を閉じると浮かんでくる世界が、
ソ連的ものやカリフォルニアでもなく能登の海、京都の鴨川、
そしてマシマロという言葉も。
そう、ちょうどこのライブ前に発表された新譜を聴きながら、
同僚から勧められた森見登美彦先生の「恋文の技術」を
せっせと読んでいたからだ。
壮大なスケールの音楽を聴きながら、頭の中は森見ワールドでいっぱい。
ライブ会場の隙間が真っ白なマシマロで埋め尽くされていく。
観客を包み込むようなマシマロ。
決してライブの邪魔をすることなく、そっと音楽に寄り添う。
アヴァンギャルド映画の一場面を見ているかのようなその光景。
ライブが終わり、見渡すと先程まで会場を埋め尽くしていたマシマロはなかった。

良い音楽は、その世界に浸るだけではなく、自分の想像を超えたいろいろな映像や思いを想起させ、別世界に連れて行ってくれる。

音楽はすばらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?