回憶録 世の常人の常 case.6「Butterfly」#創作大賞2023#オールカテゴリ部門
胸倉を掴むその男
なにやら相手といがみ合う
ひとつの街燈が彼らを写し出す
俺はただ、傍観していた
違うよ
俺は気付いていた
その男と相手は俺だった
夜行性の美しい蝶が、辺りに舞っている
終了の鐘(ゴング)が、リング内に響く
「勝者、青― 」
レフリーに誘(いざな)われ、相手選手の右手が高々と導かれる
―また、負けた…
場内の歓声を横目に、俺は伏し目がちで
誰も俺のことを目線に入れるな
滴る汗と共に、俺はただ足下を見続けることしか出来なかった
―俺にはボクシングしかないのに
不遇の時期なんて誰にでもあるものだ…
そう思うことで抱えている荷物も少しは軽くなる
ただ俺は、それに甘えすぎてそこから抜け出せずにいた
連戦連敗の記録
こんな筈じゃなかったんだけどな
幼い頃に夢みたおれは、現在(いま)の俺をみてどう思うだろうか
あの頃は良かった
現実を知らない、あの頃は…
ただ、歯がゆかった
変われる筈なのに、変われない自分が…
今日も走る
それしか出来ない
コースはいつもの通り
その先を右に曲がり、教会を抜ける
300メートル程行くと河原に着く
そしていつもの時間、俺は気付いて空を見上げるんだ
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