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1.6兆円を突破したスパイウェア産業 諜報活動を補完する外交ツールへ

スパイウェアPegasusが世界各国の政府機関で使用されていることは2021年の夏に複数紙による調査報道で暴かれた。それ以前にはシチズンラボが長年にわたって調査(https://citizenlab.ca/tag/pegasus/)していた。
Foreign Affairsの最新号(January/February 2023)の「The Autocrat in Your iPhone」(https://www.foreignaffairs.com/world/autocrat-in-your-iphone-mercenary-spyware-ronald-deibert)は、Pegasusを含めたスパイウェア産業の現状に関する記事で、長年シチズンラボを率いてきたRonald J. Deibertが執筆している。
私自身は何度かこのテーマで記事を書いており、昨年2月には下記の記事を書いている。
サイバー諜報企業の実態 人権活動家やジャーナリストを狙って監視・盗聴 https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/02/post-18.php
また、『犯罪「事前」捜査』(2017年8月10日、角川新書)では、スパイウェア産業について大きく取り上げた。

●国家が利用するスパイウェア

スパイウェア産業はアンダーグラウンドの犯罪行為というよりは、さまざまな国の公的機関をクライアントにしている表のビジネスである。スパイウェア産業の企業は会社の存在を隠していない。もっとも知名度の高いスパイウェアPegasusはイスラエルの企業によるものだ。

公的機関が導入する目的は表向きには犯罪捜査やテロ対策だが、実際にはジャーナリスト、人権運動、抗議活動などの抑止あるいは関係者の弾圧に用いられているケースが多い。クライアントはサウジアラビア、UAE、ハンガリーなどの権威主義国の機関が多いが、ギリシャ、ハンガリー、ポーランド、スペイン、メキシコ、アメリカ(FBI)、ルワンダなども利用していることがわかっている。また、民間企業にも提供している可能性が指摘されている。かつては一部の大国に限られていた監視や諜報活動が、今ではほとんどすべての国、そしてさらに民間企業が利用できるようになっているのだ。

産業の中心になっているのはイスラエルだが、イギリスやイタリアなどさまざまな国の企業がスパイウェアを開発、販売している。Cytrox社、Cyberbit社、Candiru社、Gamma Group社などが知られている。製品の完成度は劣るが、インド、フィリピン、キプロスなどにもスパイウェア企業は存在する。

●スパイウェアの脅威

現在のスパイウェアはスマホをターゲットにしており、大量の個人情報を盗み出している。その特徴は下記。

・リアルタイムでの監視が可能である。
・エンドツーエンドの暗号を回避し、監視できる。大量監視ツールでは暗号のために監視できないメッセージでもスパイウェアなら監視できる。
・世界中どこでも監視可能である。
・位置追跡や生体認証情報などを利用できる。

これらの特徴によって大量監視ツールを持つ国家にとって、監視から漏れてしまう対象を監視するための重要なツールになっている。

●選挙運動、外交手段としても活用される

スパイウェアを使って敵対候補の動きや情報を盗み出すことはよく行われている。
最近ではイスラエルがバーレーン、モロッコ、UAEとのアブラハム協定を締結した際に、スパイウェアによる諜報活動が役だったとされている。かつての諜報活動のように外交の場における重要なツールになりつつある。

記事ではこうした状況を踏まえたうえで、民主主義に対する脅威であるだけでなく、スパイウェアの拡散は国家安全保障上の脅威であるとしている。

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