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デジタル影響工作について短時間に概略を理解できる貴重な資料

情報戦、認知戦、デジタル影響工作、偽情報についてその概略がコンパクトにまとまった資料は実はほとんど存在しない。それを目指しているものは多数あるが、下記のいずれかあるいは全てが欠けているものがほとんどだ。

・重要な統計的な資料を参照していない。たとえばプリンストン大学ESOCやオクスフォード大学の資料を参照しているものはほとんどない。世界全体でなにがどれくらいどのように行われているかを知る貴重な資料だ。これを知らずに全体像を語ることはできないと思うのだが、実際にはそうしていないものが多数を占める。

・複数分野への目配りがない。安全保障、心理学、メディア論、社会学、民主主義、計算社会学、国際政治学などさまざまな分野が関わっており、それぞれ異なる視点とアプローチがある。横断的に整理していないと、全体像を語ることができない。

・情報戦、認知戦、デジタル影響工作、偽情報に関する欧米の専門機関の知見が充分に紹介されていないことが多い。これはほんとうに不思議だが、驚くほど欧米の専門機関の知見が生かされていない。

国立国会図書館調査及び立法考査局が公開した「デジタル時代の技術と社会 科学技術に関する調査プロジ ェクト報告書」の「第2章 デジタル影響工作をめぐる動向と対応」はこれらの問題がない稀有かつ有用な資料である。しかも日本語!

第2章 デジタル影響工作をめぐる動向と対応
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/13383211

とにかくコンパクトな中に、定義、実態、対策などが網羅されており、さまざまな資料が引用されているので、自分で掘り下げることもできる。引用されている資料の多くは適切だ。一般書などだと、問題のある資料が参照されていたりするが、そのようなことはない。
当然、プリンストン大学ESOCやオクスフォード大学の資料も参照されているし、手前味噌ながら「デジタル影響工作とネット世論操作」は何度も参照されていた。作った甲斐があった。

すでに知識のある方には知っている内容がほとんどかもしれないが、コンパクトにまとまった内容を読むと頭の中が整理できるかもしれない。

もちろん、コンパクトであるがゆえに、アメリカで偽情報対策が後退している現実など盛り込まれていないことも多い。ここに書かれていることがすべてであはないが、幅広い領域をかなり網羅した紹介資料として貴重である。

好評発売中!
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

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