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『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』を読んでみた
『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版、谷原つかさ)を読んでみました!
誰だったか覚えていないのですが、この本についてなにか言っていたので、移動中の空き時間に読んでみました。おもしろかったです。たくさんの資料が参照されていて、知らないものもあったので勉強になりました。
●概要
本書はおおまかに下記のような構成になっている。
1.ネット世論の定義と内容についての解説(第一章)
2.日本などの事例(2021年衆院選、大阪府知事選、ジャニーズ問題など)を紹介し、分析。
3.今後の課題(偽・誤情報問題など)
冒頭に書いたようにさまざまな資料を参照しているので勉強になる。また、著者もアンケート調査などを行っていて、その結果も紹介されている。
ただ、実は言っていることは、ネット世論は少数によって形作られる、ということを中心にさまざまなトピックスを扱っている印象だった。もちろん、おもしろく、読みやすく、ためになるのは確かだ。
すみません。移動中に読んだので不正確かもしれません。
●感想
一番気になったのは、「世論」という言葉の定義がよくわからないままだったことだ。定義と説明はあるのだけど、それが本書全体を通じて一貫しているかというと、そうでもない。たとえば、26ページの図1−1でネット世論と、従来の世論を対比している。この図によれば従来の世論は世論調査によって計測されるもので(国民は調査を通じてその意見や思いを反映させる)、
ネット世論はSNSでの発言で形作られる、ということになっている。そして、世論調査の結果とSNSの投稿分布を比較している。このへんはすごくもやもやする。
なぜなら選挙などで事前に世論調査の結果と、実際の結果が異なることは珍しくなくなっている。そして、その原因にSNSがあげられることもよくある。
おそらく本書ではネットの論調に影響を受けたせいという解釈になるような気がするが、それでも結果は結果でネット世論が少数から多数に変じ、世論調査がそれを反映できないなら、どちらが実態に即しているかは明らかだ。
ネットアンケートを根拠にした資料やデータが目についたのも気になった。
また、アジェンダ設定能力と世論の関係も説明が足りない。アジェンダ設定は重要なポイントだと思うのだけど、扱いが少ないのでちょっともったいない気がした。
といった感じで、気になることは多いが、刺激になるし、視点を変えて見る練習にもなるし、この領域に関心を持つ人にはおすすめだと思う。
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