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サミュエル・ウーリーとは何者か?

サミュエル・ウーリー(Samuel Woolley)と聞いてピンと来る人は日本にほとんどいないと思う。デジタル影響工作を調べている人でも知らないかもしれない。サミュエル・ウーリーはオクスフォード大学のComputational Propaganda Project(現在はDemTech)を始めた人物であり、デジタル影響工作の草分けのひとりと言ってよいだろう。現在はテキサス大学のCenter for Media Engagementで調査研究活動を続けている。

彼の著作『The Reality Game: How the Next Wave of Technology Will Break the Truth』(PublicAffairs、 2020年1月7日)は発売と同時に購入して読んだのだが、日本語版があるのは知らなかった。しかも、原書の刊行と同年に発売しているのでけっこう早い。
『操作される現実―VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ』(白揚社、2022年11月4日)がそれだ。日本語版は翻訳によってだいぶ読みやすさやわかりやすさが違ってくるので、安易におすすめできないが、原書の情報がきちんと伝わるようならこの分野に関心を持つ人には役に立つと思う。本書は2年前の本だが、そもそも彼のキャリアと並行して話題が紹介されるので、発売時点でかなり昔の話も含まれている。それでもおそらく日本ではあまり紹介されていない事例や、紹介されていても「実はそういうことだったのか」というものも多い。

デジタル影響工作の本には、騙す側、暴く側、騙される側の3つの視点があるが、本書は暴く側の視点で描かれている
本書は8章で構成されており、第一章TRUTTH IS NOT TECHNICALでは本書で扱う話題全体を概観する序章的な内容、第二章BREAKING THE TRUTH : PAST, PRESENT AND FUTUREは過去から現在にかけて世界各地で真実が毀損されてきた経緯を説明し権威主義に向かいつつある状況に警鐘をならしている。第三章FROM CRITTCAL THINKING TO CONSPIRACY THEORYは、SNSの普及によって情報が氾濫し、人々が真実を見失っている現状を実例とともに紹介し、その対策について述べている。
第四章から六章では、AI、フェイクビデオ(ディープフェイクではない)、拡張現実(VR、AR)のネット世論操作の現状と今後の課題を論じている。第七章では人工的なもの(AIやVR、AR)の危険性と共存について考察し、最後の章ではそこまでの議論の整理と提案を行っている。

ただし、本書の中で本人も何度か語っているように、本を書くのは得意ではないようでじゃっかん散漫な傾向があり、一貫したストーリー的なものがないので(あるいは見えにくい)読みにくいかもしれない。
時間の空いた時に、少しずつ読んでも問題ない構成になっているので一気よまずにちょこちょこ読んだ方が楽しめそうだ。

サミュエル・ウーリーの著作
Manufacturing Consensus: Understanding Propaganda in the Era of Automation and Anonymity(イエール大学出版局、2023年1月31日)

Bots (Digital Media and Society)(Polity、2022年7月25日)





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