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メモ デジタル影響工作の基本と防衛省プラン

防衛省がネット世論操作をしようとしている、と話題になっているのでいろいろメモした。

●防衛省プランの骨子

防衛省の計画については共同通信の記事と記者会見の動画など限られた情報しかない

防衛省、世論工作の研究に着手 AI活用、SNSで誘導、共同通信、2022年12月09日、https://nordot.app/973917552334143488
防衛省、フェイクニュース対策強化へ AIによる自動情報収集機能の整備も “世論誘導研究”一部報道を否定、TBS、2022年12月11日、https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/227448?display=1
防衛大臣記者会見、Movie Iwj、2022年12月13日 14:00~ 記事を書いた共同通信の石井暁の質問部分
https://youtu.be/Hdfo2C_nBqE?t=528

防衛大臣記者会見、Movie Iwj、2022年12月13日 14:00~ 讀賣新聞記者の質問部分
https://youtu.be/Hdfo2C_nBqE?t=364

公開されている範囲でわかっていることを箇条書きにしてみた。
・SNSで世論誘導を行う。共同通信調査、防衛大臣は否定。
・SNSで収集したビッグデータなどの解析にAIを利用する。共同通信調査。
・SNSのビッグデータの解析から安全保障関係で影響力がありそうなインフルエンサーを特定し、彼らが無意識のうちに防衛省に有利な発信をするように誘導する。共同通信調査、防衛大臣は否定。
・防衛政策への支持と特定国への敵対心を高め、反戦や厭戦の機運を排除する。共同通信調査、防衛大臣は否定。
・入札した1社は三菱総研、落札したのはEYストラテジー。共同通信調査。
・入札にあたって防衛省からは、AIとSNSを使ってインフルエンサーを経由して世論操作を行うもので、民間企業のステルスマーケティングのようなもの。国内世論操作が一義的なもの。というのが共同通信が企業から取材した内容。
・諸外国の動向を調査しており、外国からの干渉に体側するためであり、国内世論操作のためではない。ただし、国内世論操作の技術を持つ事になる。というのが防衛大臣の主張。

防衛大臣と共同通信の主張の間には齟齬があるが、今回は共同通信の調査結果に基づいて話を進める。なので、あくまで仮定の話である。そうでしないと話が終わってしまう。

●デジタル影響工作の基本的特徴

*ここで書いたことはオクスフォード大学DemTech、スタンフォード大学Internet Observatory、グラフィカ、GDI、デジタルフォレンジックラボ、MIBORO買収後のマイクロソフト社脅威レポート、ベン・ニモ獲得後のMetaの脅威レポートなどの知見をもとにしている。多くの識者がこれらを参照している日本の識者は稀なので、よく目に入る日本語の資料とそぐわない場合が多々ある。
なお、ここであげた特徴は関連してそうな部分で全体ではない。

・国内優先
デジタル影響工作は国内外に対して用いられるが、国内に用いられることが多い。
・統合管理システム
統合的な社会管理システムの一部に組み込んだ場合、もっとも効果的である。社会管理システムは、監視、影響工作、社会信用の3つのサブシステムからなる。
・統合管理システム経由での影響力拡大
デジタル影響工作を含む統合社会管理システムを他国に導入させ、そのシステムから情報を吸い上げ、自国からの監視やコントロールに使うようになれば海外に対しても国内同様の統合的な管理を行うことができるようになり、大きな影響を持つことができる。
・ネガティブ情報中心
デジタル影響工作においては相手を劣位にするためのネガティブな情報の流布の方が効果がある。自陣営を優位にするための情報発信だけでは効果があがりにくい。これは前の特徴の裏返しとも言える。
・対象別作戦
デジタル影響工作は国際世論を動かす場合と、それ以外では異なる。国際世論は欧米、特にアメリカの大手国際メディアや政治家、著名人などによって形成されるため、アメリカ以外の国がアメリカの協力なしに国際世論を動かすのは難しい。特定国、特定地域、国際世論という3レベルプラス国内別の作戦が必要。
・権威主義国優位への対処
民主主義国に対する非対称の罠により権威主義国はデジタル影響工作において有利な立場に立っている。したがって、中露の活動の研究は必要だが、それを民主主義国で行うことはできない。
とはいえ、最近ではアメリカのTikTok排除のように権威主義国のサイバー主権っぽい動きもある。権威主義国と民主主義国の違いはどんどんなくなってきている。
・非国家アクターへの対処
デジタル影響工作の主戦場となるSNSプラットフォームのほとんどはアメリカの非国家アクター=民間企業であり、独自の判断で活動している。
・代行業者のコントロールの重要性
デジタル影響工作を請け負う民間企業は増加しているが、そのレベルはまちまちであり、総じて高くない。そのために失敗したアメリカ中央軍などのオペレーションもある。

●デジタル影響工作の基本と防衛省プランで異なる点

けっこう違っているのがわかる。

●なにが問題なのか?

現在、防衛省プランでわかっているのは具体的な活動のみであり、全体計画はわからない(ないかもしれない)。他の活動も行っている可能性もある。わかっている範囲だけだとすると、本来さまざまな活動と連携を取った統合的な計画であるべきデジタル影響工作が、表層的なひとつの作戦だけに縮小されていることになる。これだけでも、効果は限定的だし、そもそもこんな小規模の作戦なのに外部に内容が漏れて暴露される時点で失敗の可能性が高い
全体計画があるのかもしれないけど、どうなんだろう? あるとしたらマイナカードとも連動する統合管理システムを作るのかもしれない。防衛省が発信した情報を拡散するマイナポイントがたまるとか、公共交通機関が安くなったり、優先車両に乗れたりするかもしれない。そこまでやるなら意味があるし、海外に輸出できそうな気もしてくる。ついでに中国のシステムとの連動するとさらに便利だ。

また、安易に外資に頼ることも危険だ。他の外資も関係しているという情報もあった。外注の管理は難しく、いくつもの失敗例がある。

アメリカ中央軍の失敗例 暴かれたアメリカのデジタル影響工作UNHEARD VOICE https://note.com/ichi_twnovel/n/n7867331b7cd5
イスラエルの業者の失敗例 パレスチナ、アンゴラ、ナイジェリアで活動していたイスラエルのネット世論操作代行業者Mind Farce https://note.com/ichi_twnovel/n/n7cccf708c246

などといろいろ考えたのでメモした。

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