誤・偽情報において健康や環境をメタファーに使うは価値感や倫理感を強制する規範的仮定が含まれているという論文
誤・偽情報では健康や環境をメタファーに使うことが多い。インフォデミックが有名だが、他にもウイルス、インフォデミック、情報衛生、情報汚染、情報病理などさまざまなメタファーが使われている。メタファーを使うことによって、メタファーが持っている価値感などの規範的仮定に縛られるようになってしまうことを整理した論文が「Combating contamination and contagion: Embodied and environmental metaphors of misinformation」(Yvonne M Eadon、Stacy E Wood、 https://doi.org/10.1177/13548565241255347 )である。たとえば健康は美徳と仮定しがちで、デジタル山火事(digital wildfires)は差し迫った危機を連想させる。
●概要
近年、誤・偽情報、プラットフォーム・ガバナンス全般について無批判にメタファーを使うことが問題視されている。メタファーの利用は学術、政策、ジャーナリズム広がっており、メタファーの多くは緊急性や脅威を表すものであり、可能な限り迅速かつ断固たる対応が必要な問題としての認識を強化する。また、本来複雑な現象を平板にしてしまう。
過去8年間、学者、ジャーナリスト、政策立案者は、誤情報をあたかも緊急かつ迅速な対策が必要な大きな課題であるかのように扱っており、それには裏付けがないにもかかわらず、アンバランスに過剰な対策が行われている。科学コミュニケーションにおいてもメタファーは重要なツールとして使われている。
この論文ではさまざまなメタファーを用いた誤・偽情報に関連する研究を紹介し、健康や環境のメタファーが対策に影響を与えていると指摘する。気候変動や公衆衛生危機の解決策が個人の行動と規制戦略の間で二極化しているように、誤・偽情報対策はリテラシーまたは規制のふたつが多い。
誤・偽情報は、政治的二極化から生まれており、プラットフォームの役割に焦点を当て、二極化を民主主義への主な脅威として大げさに描くことが多い。これは人種、性別、階層の歴史的不平等を無視することになる。プラットフォームそのものよりも、プラットフォームを生んだ歴史的文脈を考える必要がある。
●感想
本論文にはメタファーを使った研究が紹介され、その問題点が分析されている。日本でも「健康」のメタファーを使って誤・偽情報を分析し、提言を行った研究もあり、最近ではアワードまでできている。
その時は使用したメタファーが不適切であると指摘したが、より一般化すればこの論文のような結論になるのだろう。
メタファーのイメージや価値感から対策に影響を与えることは非常に危険で、論文が指摘しているように危険でないものも緊急対処が必要な脅威のように認識されてしまう。
好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。
本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。