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『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』を読んでみた

2019年5月に光文社新書から刊行された三井誠の『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』を読んだ。
本書は科学記者だった著者が2013年から2014年にカリフォルニア大学バークレー校に客員研究員、2015年から3年間アメリカに科学記者として赴任していた時のことを綴ったものである。取材の記録が多いので、ガチで地球が平面と信じている人に取材した話など興味深いものが多くおもしろかった。

●本書の内容

「科学はデータに基づき、それぞれの人の考え方の違いや立場の違いを超えた事実を提供できる」という著者の思いの前にアメリカの筋金入りの人々が立ち塞がる様子が描かれていて、とても参考になった。
立ち塞がるといっても、著者に激しく食ってかかるわけではない。乗り越えられない壁を感じさせてしまうのだ。著者は取材を通して下記のようなことを知る。

・人間はもともと理性や論理で判断しない。

・知識が増えることによって考え方が極端になってゆく。人間は自分に都合のよい情報を取り入れるものであり、取り入れる情報が多ければ多いほど、自分の考えが補強されてゆく。

・自分の考えに都合のよい結果を好む傾向は計算にすら現れ、自分の考えに反する計算結果は無意識のうちに歪められる。

・科学不信あるいは反科学は産業界(地球温暖化を否定)や宗教(進化論を否定)と深く結びついており、単純な個人の好みの問題ではない。

・彼らは少数派ではなく、アメリカの政治を動かす。

その他、政治的な党派性の問題(共和党は反科学や陰謀論を支持する傾向がある)などに触れつつ、最後は科学コミュニケーションに可能性を紹介して終わっている。

●感想

科学記者としてキャリアを積んできた著者によるアメリカの科学不信、否定する人々への取材はとても参考になった。知識も教養もある人々が本気で信じている様子というのが具体的にイメージできた。
無教養な人が信じるということもあるが、そうではない人も多数いるのだ。科学とか真実について、いろいろ考えるよい材料になる。

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