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『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』 (集英社新書) に分断を感じた

「教育と愛国」という映画が気になっていたので、その映画を作った斉加尚代の『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』 (集英社新書) を読んでみた。
著者は毎日放送(MBS)のジャーナリストであり、本書は著者が作った4つのドキュメンタリーを通して今日のジャーナリストが直面している問題を描き出している。4つのドキュメンタリーとは下記である。

  1. なぜペンをとるのかー沖縄の新聞記者たち

  2. 沖縄 さまよう木霊こだま〜基地反対運動の素顔

  3. 教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか

  4. バッシング〜その発信源の背後に何が

1から3までのドキュメンタリーは「メディア3部作」と呼ばれることもあるもので、1と2は沖縄、3は教育への政治の干渉を扱っている。本書では4番目を科研費問題を大きく扱っている。
残念ながら元になったドキュメンタリーをすべて観たことがなかったが、本書の内容はそれだけで充分になにが起きていて、著者がなにを感じ、考えたかがよくわかった。そして、おそらく著者が感じたことの多くは今の日本を生きる多くの人々が少なからず感じることだろうと思った。現代日本が直面している変化への危機感が本書を通じて伝わってくる。その変化とはさまざまな場面への政治からの圧力の増大であり、言論の抑制であり、顔の見えない多数派からの攻撃である。

その一方で、よく見えてこないこともある。変化はなぜもたらされたのか、その変化を前向きに受け入れ、あまつさえ協力し、変化にあらがう人々を攻撃する動機などはよくわからないままである。
実は本書に登場する匿名の攻撃者は私も存じ上げている。私自身がターゲットになったこともあるし、ツイッターの統計を取ると上位に現れる常連でもある。しかし、いまだに行動原理はよくわからない

本書はドキュメンタリーの現場からの生々しい危機の報告であり、臨場感にあふれている。個人的にはその向こうにいる人々の実像をもっと知りたいと感じた。こちら側の感覚ではなく、あちら側の感覚に基づいた世界を知りたいのである。そうでなければ会話が成立しない。いまは互いの世界が見えていないから対話は成立せず、どちらの正義も互いに理解できないでいる。分断だ。理解不能であれば数の勝負でしかなくなる。本書ではそれを物量作戦と呼んでいる
分断は理解し、歩み寄らないと解決しない。それが難しいことだと本書を読んで痛切に感じた。
などなどいろいろ考えさせられる本だった。


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