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兵器見本市出展企業分析からあぶり出された危険なサイバー軍需企業224社 日本の当局も大規模取引

紹介していなかった資料がたまってきたので時間を見つけて順次ご紹介したい。デジタル・フォレンジック・リサーチ・ラボが2021年11月に公開した資料「Surveillance Technology at the Fair: Proliferation of Cyber Capabilities in International Arms Markets」(https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/surveillance-technology-at-the-fair/)は、盗聴や侵入のためのソフトウェアなどを販売している企業に関する調査をまとめた資料だ。サイバー軍需産業とも呼ばれる市場は実態がつかみにかったが、この調査では武器関連の国際見本市の出展者リストをもとに調査を行った。

●概要

・見本市に集まるサイバー軍需企業

調査の結果、盗聴や侵入のための商品を販売していたの企業は224社、このうちBTT、 Cellebrite、 Micro Systemation AB、 Verint、 Vastechの5社はアメリカあるいはNATOの敵対国に兵器を販売していたことがわかった。

盗聴や侵入関連の出展者が集まるのは、Milipol France、 Security & Policing UKが特に多く、他にはイギリス、ドイツ、シンガポール、イスラエル、カタールで行われる武器見本市が多かった。

Surveillance Technology at the Fair: Proliferation of Cyber Capabilities in International Arms Markets、DFRLab、https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/surveillance-technology-at-the-fair/

くわしい調査内容は報告書をご覧いただくとして、今回の調査では中国企業は多数がピックアップできなかった可能性が高いとされている。理由は国際見本市には英語名で表記されるのだが、この英語名は必ずしも統一されておらず、そのため同じ社名で他の情報と付き合わせることが困難なことが多々あるのだ。224社は中国企業を含めると、はるかに多くなる可能性が高い。

・広がるマーケットと拡大するリスク
この産業はグローバル化が進んでいるが、その一方で2つのリスクがある。
 1.これらの企業の製品やサービスによって、未発達の国でもサイバー能力が容易に拡張できる
 2.顧客による悪用をチェックしていない。権威主義国の多くがイスラエルNSOグループのスパイウェアを国内の弾圧や暗殺に利用しているのは有名だが、それ以外にも多数利用されている。
後者についてはレポートであげられた5社以外にもアメリカあるいはNATOの敵対国に製品やサービスを提供している企業がある可能性は高く、これはリスクとなる。

Surveillance Technology at the Fair: Proliferation of Cyber Capabilities in International Arms Markets、DFRLab、https://www.atlanticcouncil.org/in-depth-research-reports/issue-brief/surveillance-technology-at-the-fair/

●感想

なんといってもこのレポートの見所は224社のリストだろう。巻末にリストがある。これだけまとまったサイバー軍需企業のリストはこれまでなかったと思う。武器見本市の出店者リストは参考になるが、サイバー軍需企業はそのごく一部なのでピクニックするのが意外と手こずる。

おそらく224社と取り引きのある日本の企業や官公庁は少なくない。アメリカやNATOの敵対国(ありていに言えば中国やロシアやイランなど)に販売していた5社のうちCellebrite(イスラエル)は日本のサン電子の子会社であり、Micro Systemation AB(MSAB)は日本の当局の大規模に商品を提供している。日本の当局がMSABと大量に仕入れたということは、日常的に当局に監視されている人がたくさんいるってことだろう。Verintの販売代理店は日本も多数ある。
224社全部を調べると、意外と日本政府や日本企業が関係している企業もありそうだ。ちなみに224社の中に日本企業はなかった

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