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『持たざる者の逆襲』を読んだ。時代が変わる兆しを見たかも。

【2023年1月2日】Xで関係者の方からいいねをもらい、プロフィールを拝見して、本書がブックライターが書いたものを捨てて、著者がゼロから書き直したもののようであることがわかった。そのことを踏まえてじゃっかん加筆修正した。いいねしてくださって、ありがとうございます。

『持たざる者の逆襲 まだ何者でもない君へ』(溝口勇児、幻冬舎、2023年12月20日)を読んだ。これは現在、「BreakingDown」(https://breakingdown.jp)のCOOである溝口勇児が書いた本だ。何度かブレイキングダウンの話をしたと思うけど、格闘技の大会から社会的なムーブメントに変わろうとしており、本書はその兆しのひとつだ。
私のnoteやXを見ている人のほとんどはBreakingDownを見たことがないと思うが、映画が公開されてヒットすれば嫌でも知ることになる。

とんでもない人たちと映画を作ることになりました、朝倉未来
https://www.youtube.com/watch?v=l-RNlvl0-b8

映画はマンガの連載になり、主題歌は音楽シーンを席巻する。それぞれのシーンでオーディションが行われ、オーディション自身がコンテンツとなってネットに広がり、大きなうねりとなる。BreakingDownがオーディション参加者や本選参加者などのYouTubeチャンネルなどを巻き込んで広まったように映画、マンガ、音楽の領域で同じことが起きる。

その時のキーワードは『持たざる者の逆襲』になるかもしれない。


●なぜ、BreakingDownが重要なのか?

BreakingDownは単純に今、ネットでもっとも視聴されているコンテンツのひとつであり、組織的に参加者を巻き込んで広がっている。本書のタイトルの「持たざる者」が示しているように、これまで社会の底辺で不可視化されてきた若者が成り上がる希望となっている。
BreakingDownに出場して注目されればYouTubeのアクセスは増加し、スポンサーがつき、道を歩けば声をかけられる(いいことと、悪いこと両方あるが)。ブレイキング・ドリームの実現となる。実際にこの大会に出場して人生を変えた若者たちがいる。

これまで何度も書いたように世界中で「持たざる者」=不可視化された底辺層がきわめて重要となっている。アメリカでは白人至上主義グループActive Clubが全米に拠点を作って活動を広げている。BreakingDownも地域別のトーナメントが始まって、さらに全国的に注目されるようになってきている。Active Clubが世界展開しているように、BreakingDownも韓国戦やヨーロッパ戦を行っている。
違うのはActive Clubが陰謀論に染まり、武装化した過激派であるのに対して、BreakingDownはあくまでも社会の規範にのっとった成功を目指している点だ。だが、巨額の金が動き、多数の人間が関係するようになるとどうなるかはわからない。今後目を離せない。

アメリカ最凶の多角分散型白人至上主義グループActiveClubが示す情報戦の終焉、https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5ab23ab9c9a

●本書の概要

本書は溝口勇児の体験をもとにした成功の手引き書であり、自己啓発本などに近い内容となっている。なのでBreakingDownの話を期待して読むとあてがはずれる。
個人的には本書の本質は、「はじめに」と「おわりに」はすごくよかったと思う。特に「はじめに」は秀逸だった。自らの貧しい底辺の生い立ちとその悔しさ、怒り、ふがいなさが短い中にうまくまとまっていた。これは他の「持たざる者」の共感を呼びそうだな、と思った。

「はじめに」に比べると、本編の内容は啓発本のような内容なので私にはいまひとつだったけど、本自体そんなに読まない層が読むことを想定していると思うので、ありなのだろう。ブックライター(ちゃんと本書の終わりにブックライターの名前も表記されている)もついているので、そのへんはうまく計算されているのだろう。実際、ベストセラーだしね。
【2023年1月2日加筆】と思ったけど、そうではないようだった。「はじめに」+「おわりに」と本編の統一性がないのは計算や狙いによるものではないようだ。それを踏まえると、本編の内容や「孤独・退屈・不安」を21世紀の課題としてその解消を自身の目標にしていることなど違和感の理由がわかる。世界は再び混沌で暴力的な時代に入った。飢え死や戦争に巻き込まれることは起こりうる近未来だ。BreakingDownは日本を救う新しい力になる可能性を秘めていると私は考えている。もちろん、逆の可能性もあるけど。
本書でBreakingDownに加わった時、朝倉兄弟にみんなが遠慮していたことを指摘していた。朝倉兄弟に著者が意見することで状況が改善されたように、著者の近くにいる人が意見することでよりよい状況を作れるかもしれない、と読んでくれるかもしれない関係者の方向けに書いておく。

私のnoteを読む人には本編の内容を説明しなくてもよいと思うので割愛する。大事なのは「はじめに」で「持たざる者」をつかんでいることだ。
世界に広がっている不可視化されていた「持たざる者」が表の文化シーンに出て来ている。

国家内の分断「ハイブリッドな内戦」が始まる......すでに極右は主流になったのか?、https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/12/post-53.php

●感想

ここまで読んでいただくと、本そのものについてというよりも、本を含めたBreakingDownという現象について紹介していることがわかると思う。

でも、せっかく本を読んだので、本についても書いておこう。「はじめに」と「おわりに」を別とすると啓発的な内容なのだが、いくつか触れていないことがあって、そこが気になった。たとえば「敵」については書いていない。著者の経歴を見ると、明らかに「敵」というか、彼と対立する人々がいたようだ。
自分と仲のよい人々とうまくやるのは簡単だが、感情あるいはビジネスで対立している人とうまくやってくのは難しい。このことについてはなにも書かれていない。

事業と社員育成の成果についても触れていなかった。事業をやることは事業を育てると同時に社員を育てることでもある。事業についてはダウンロード数、増資、引き抜いた経営者、集まった有名人のことには触れているが、利益については触れていない。成功のイメージがより具体的になったと思う。
社員については成長したという話はいくつか書かれていたが、その後起業したとか、他の企業の役員に引き抜かれたという話は書いていない。本書は「君だってこうすればできる」と励まし、導く内容になっているのに、それを実践した結果、巣立っていった社員についても紹介してほしかった。BreakingDownがすごいのは参加者の夢をかなえる力を持っていることだ。企業も社員の夢をかなえる力を持つべきだと思う、たとえその人材が独立して出て行くことになるとしても。

視点が日本国内に留まっているのももったいない気がした(動画を観るとわかるように朝倉未来は世界を見ている)。すでにBreakingDownは世界に広がっている。BreakingDownから夢をつかむ若者が世界に飛び出す可能性も出てくる。本編に「最初の1万日が人生を決める」とおう項がある。どうせなら、ここで世界を見るべきだと言ってもよかったと思う。同様にその次の「脈拍をあげる挑戦が自分を成長させる」でも世界への挑戦……(以下同)

余談だが、映画もアメリカのプロデューサーや投資家に話を持っていてもよかったような気がする。
BreakingDownのトーナメントを世界各国にフランチャイズしてもよいだろうし、できることはたくさんありそう。

ふと思ったけど本来こういう文章は、評論家と呼ばれる人たちが書くべきことなんじゃないだろうか? エヴァやシン・ゴジラなんかみんな書いてるよね。同じようにBreakingDown論も出てもおかしくないと思うけど、まだなさそう。
おそらく、メジャーな文化シーンからはまだ見えていないのだろう。変化は始まると加速する。気づいた時には遅い。映画のオーディションが始まる頃には、もう遅くなっているだろう。
BreakingDownが拡大することは我が国の安全保障上でも重要な課題になるはずと個人的には思っている。おそらく私だけだと思うけど、こちらも気づいた時には遅くなっていそうなので怖い。いや、ほんとに危ない。

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