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気になった論文や記事2024年3月16日

3月9日から3月15日の間で気になった論文や記事を簡単に紹介。なお、私が先週気づいたということであって、先週公開されたとは限りません。


●来週月曜日にアメリカ政府の偽情報対策への関与が最高裁での弁論が始まる

【修正】すみません。判決はまだで弁論が始まるということでした。慎んでお詫び申しあげます。
いくつかこのことを取り上げていた記事があったが、取り立てて新しいことは書いていない。問題は判決そのものがどうなるかだ。
以前から記事や論考で追いかけてきたアメリカ政府が偽情報対策について、研究者やSNSプラットフォームに協力を求めたり、要請を行うことは違憲であるという訴えについての判決が最高裁で出る。これは大統領選をにらんだ共和党(違憲)と民主党(合憲)との戦いであり、共和党は研究者を召喚したり、資料提出を求めるなど嫌がらせを行っていた。そのためアメリカの偽情報対策は大きく後退している。
最高裁のメンバーはトランプが指名したものが多く、違憲となる可能性は高い。そのなるとアメリカの偽情報対策はさらに後退することになる。官民学の連携は不可能となり、さまざまな報告書が提案しているマルチステークホルダーでの対処は難しくなる。
それにしても日本で私以外にこのことを気にしている人がほとんどいないのは驚きだ。

関連過去記事
アメリカの偽情報対策後退の現状メモ まだ結論出てないけど後退は確実
https://note.com/ichi_twnovel/n/ncbd8d3daf3e5

アメリカの偽情報対策が直面している問題
https://ggr.hias.hit-u.ac.jp/2023/09/01/problems-facing-us-disinformation-measures/

アメリカで起きている偽情報対策へのバックラッシュ
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/07/post-48.php

共和党が偽情報研究者を狙い撃ちで攻撃
https://note.com/ichi_twnovel/n/n4997e7368e9e)

●グローバルサウスのオンライン過激派対策に関する論考

Combating Online Extremism in the Global South: Lessons from COVID-19 Misinformation Flows
Esteban Villa-Tur
2024年3月13日
https://gnet-research.org/2024/03/13/combating-online-extremism-in-the-global-south-lessons-from-covid-19-misinformation-flows/

グローバルノースから発信された情報がグローバルサウスに広がり、過激な反応を引き起こすパターンの事例研究。コロナに関連した情報を2つ取り上げてケーススタディしている。対象にしたのは動画コンテンツのみ。テーマは下記。調査対象プラットフォームはフェイスブックのみ。

・スペインのエセ科学団体が発信したパンデミックを否定し、マスクやワクチンを拒否する情報。ラテンアメリカに広がり、支部が作られて集会なども行われた。
・フランスの微生物学者による抗マラリア薬がコロナの治療に有効という説。トランプによって拡散された。

説明変数の選び方や提言にいささか難があるようだ。ただ、視点としてはおもしろい。

●気鋭の研究者による日本の陰謀論の分析

認知領域の戦いにおける陰謀論の脅威—海外における体制破壊事案から日本における陰謀論情勢を考える
笹川平和財団 研究員 長迫 智子
https://www.spf.org/iina/articles/nagasako_03.html

最近注目の研究者で毎回、とてもていねいに調べたうえでまとめてらっしゃるのでとても参考になる。

●ロシアの選挙における不正のやり方を紹介した論考

2024 RUSSIAN PRESIDENTIAL ELECTIONS – HOW DIGITAL TECHNOLOGIES ARE USED TO WIELD AUTHORITARIAN POWER
Dr Daria Dergacheva, University of Bremen; Alexandra Pavliuc, Oxford Internet Institute;
Michael Collyer, Oxford Internet Institute; Vasilisa Kuznetsova, University of Bremen; Licinia Güttel,
Oxford Internet Institute; Dr Joss Wright, Oxford Internet Institute.
Related/ editor: Dr Keegan McBride, Oxford Internet Institute
2024年3月13日
https://www.oii.ox.ac.uk/news-events/2024-russian-presidential-elections-how-digital-technologies-are-used-to-wield-authoritarian-power/

ロシアの選挙で不正が横行していることは有名だ。近年はデジタルへと移行している。ロシア政府はオンライン選挙を推奨しており、およそ300万人がオンライン選挙に登録している。過去にオンライン選挙で1,400満票が偽造されたという報告もある。
この論考ではオンライン選挙と、国民監視の状況を紹介している。

●3月9日から3月15日の間の必読記事

3月9日から3月15日の間のnoteの中で私が推す必読記事は下記。

マイクロソフト社はアメリカの顔をした中国企業なのか? 中国当局に忖度したBing検閲がアメリカ、カナダにも
https://note.com/ichi_twnovel/n/ncea36b01c404

AIが支援するピンクスライム・ジャーナリズムを支援する保守 アメリカローカル紙の変容
https://note.com/ichi_twnovel/n/n94a8e5f8c3b8

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