2024選挙大戦メモ 来年の選挙が描き出す世界の姿

来年は78カ国で83の選挙が行われ、世界人口の半分が投票権を持つ。選挙大戦だ。米大統領選やインドも含まれる。公正な選挙が行われない国も多いうえ、偽情報などの問題への対処は十分ではなく、世界の趨勢として民主主義の世界ではないことが確認され、民主主義国は危機感を募らせ、事態を悪化させる。
そのため、「オレたちはあいつらより多い」状況が選挙結果に出る可能性が高い。


●対症療法でしかないファクトチェックとリテラシー

ファクトチェックとリテラシーに効果がないことは明らかだし、そもそも偽情報やナラティブを広めない/削除することにはほとんど選挙結果に効果はない。
しかし、偽情報やナラティブを見えなくするという効果はあるので成果があったとも言える。2020年のアメリカ大統領選で偽情報対策が功を奏したと主張するのと同じだ。結果として、2021年1月6日に連邦議事堂への暴動が発生した。「手術は成功したが、患者は死んだ」
できることが限られているので対策そのものが目的となって、達成すべきゴールを忘れている。
この話をあるシンポジウムで話したところ、計算社会学で世界的権威のひとりらしい人が、「あの時、1月6日に暴動が’起きると予想できただろうか? どのアクターが関与しているとわかっただろうか?」ということを言った。時間がなかったので説明できなかったが、アメリカのACLEDは事前に暴動が起こる可能性を指摘していたし、どのグループが準備をしているかも把握していた。防ぐことはできたが、情報を生かせなかったし、ハイライトを浴びていた偽情報対策はきわめて限定された範囲しか対象としてなかった。
EUのDSA法が注目を浴びているが、DSA法は大手プラットフォームを対象としており、大手を規制しても連邦議事堂の暴動は防げなかったことからその効果には疑問しかない。

●プラットフォームとメディアがデマを拡散する

2021年以降、現状変更を暴力的手段で行うことが増加するフェーズに入った。2024年も増加することが予想される。
そのような時代にあって、プラットフォームはモデレーションチームを縮小し、AIに期待している。ハマスとイスラエルの戦闘でわかったようにメディアは大手であっても誤情報を発信する。紛争の増加とともにその傾向は強まるだろう。
また、BingのようにAIチャットなどAIを組み込んだサービスが増加するが、AIはデマを撒き散らす危険がある。すでにBingのAIチャットボットは3割という高い確率でデマを回答しており、マイクロソフトはそれを修正できずにいる(あるいはする気がない)。つまり、今でもBingは大量のデマを流し続けている。AIを使った偽情報の生成と拡散が取り沙汰されているが、それ以上に正規のプラットフォームが当たり前のようにデマを生成、拡散している。

●プラットフォームへの根拠のない期待

SNSなどネット上のプラットフォームはネットの情報空間で重要な役割を果たしているが、彼らにやる気がないことは明らかだ。放置して民主主義が後退した方が規制が緩和されて助かる。
余談だが、プラットフォームがそのように考えている以上、プラットフォームが資金を提供しているファクトチェック団体にその影響は及ぶんでいる。

●レピュテーション・マネジメントという罠

最近、台頭しているレピュテーション・マネジメントは一見効果的な対処をしているように見えるものの、基本的には権威主義国が行う作戦に対して、同様の作戦で対処するものになっている。世論操作には世論操作で対抗する発想だ。
結果としてネット上の情報空間を汚染することに変わりはない。海外からの世論操作を排除するために、政府が世論操作を行うのは効果のある方法だが、それはもはや民主主義でもないし、自由な言論空間を守ることにもならない。

●安全保障と民主主義的価値

といった具合で、民主主義陣営にはふたつの課題があって、それはまったく解決されていない。
1.効果的な対処方法は権威主義国と同様の方法しかない。
2.「1.」を実行することはもはや民主主義を放棄することになる。

幸いにして今年はさまざまな会に招いていただいた。見えてきたのは、ほとんどの関係者は意図せず、権威主義的な方法論を採ろうとしていることだ。
安全保障と民主主義的価値は決して排他的ではないが、現在取れるオプションは排他的だ。

・ファクトチェックやリテラシーなど効果のない方法に拘泥する>ただ事態を悪化させる。ただし、見せかけの成果は出るので関係者の満足度は高いし、評価にもつながる。

・レピュテーション・マネジメント企業への対策委託は、安全保障優先の対策だが、つきつめると中露に対抗するには中露と同じことをすればよいという発想なので結果として権威主義体制への移行を加速する。

・現在の世界は、気候変動、資源不足、移民増加、格差拡大などによって、社会が不安定になってゆく時代に入っている。意識的にかなり努力しなければ自動的に権威主義化が進む。権威主義は偽情報やナラティブを撒き散らす。
いまの民主主義の後退は中露など対抗勢力による要因によるものではない。地球規模の変化に民主主義が追いついていないためだ。地球規模の変化への対処ができない限り、なにをやっても効果は限定的で対症療法に終わる。ひとつ問題をつぶしても、すぐに他の問題が生まれる。

もちろん、対策はある。しかし、いま、それを語っても誰も耳を貸さないので、来年の選挙は時代の転換をまざまざと見せつけるものになるだろう。


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