好きな人のために、渋々付き合うときの顔

渋谷駅の交通広告が『東京リベンジャーズ』一色になっていた。何メートルにもわたって、壁一面にめちゃくちゃ大きな広告。ひとつひとつの柱にも、マイキーやドラケンや、人気のキャクターたちが描かれている。

そのひとつの柱の前に立ち止まって、嬉しそうにスマホでキャラクターの写真を撮る女性がいた。そのすぐ近くには彼氏さんと思しき男性が寄り添っている。

通りすがりにちらりと見たら、その男性があまりに苦笑いで退屈そうな顔をしていたので、思わず笑いそうになってしまった。

その女性が『東京リベンジャーズ』を好きで、彼は全く興味がないのかもしれない。それか、ふたりともその作品そのものは好きなのだけど、かといって柱に描かれたマイキーの写真を熱心に撮る女性の心理が、彼には理解できなかったのかもしれない。

なににせよ、彼が女性が写真を撮る時間に付き合っているのはたしかで、とても好感が持てた。あまりに苦笑いだったから「そんな顔しなさんな」とは思ったものの、それでも付き合ってあげるやさしさに愛を感じた。

昔、パンケーキのお店で会話の弾まないカップルを見かけたことがあった。向かい合って座る男女の間には、二人前はある大きなパンケーキと、たっぷり高く盛られた生クリーム。それをほぼひとりで黙々と食べ続ける女性に対し、男性はほとんど食べずに無言でスマホを眺めている。そんな様子を見て、失礼ながら「何がたのしくて付き合ってるんだろう……」なんて思ってしまった。

でももしかしたら、それは「どうしてもパンケーキが食べたい」という女性に、「甘いもの苦手だし食べられないけど、それでもいいのね?」と、彼が渋々付き合ってあげた結果だったのかもしれない。わたしから見たら何がたのしいのか全くわからなかったけど、ふたりにはふたりなりの愛があったのかもしれない。今さら、そんな妄想をした。


自分とは全然合わないもの、楽しめないもの、好きじゃないもの。そういうものでも、彼や彼女のためなら付き合ってあげられるものなんだろうか。好きな人のために、渋々付き合う人たちの顔を見て思う。そしてそこに勝手に愛を感じて、勝手にいいなあとか思って、第三者のわたしは世のカップルを眺めている。

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