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指先にニコ顔を描く

ゴム手袋か何かのテレビCMで、デフォルメされた顔が描かれた指先を見た。指の腹に描かれているのは、簡単な点と線でできた顔たち。ほんわかした雰囲気で、指先が家族みたいに並んでいる。

それで、子どもの頃にわたしもよく自分の指先に顔を描いていたのを思い出した。自分の場合は指の腹じゃなく爪の上に、油性ペンを使って描いていた。

爪先に顔を描くようになったのには、ちょっとした理由がある。まだ小さな手をしていた子どもの頃、同じようにある人が顔を描いてくれたと聞いたからだった。


わたしは1歳くらいのときに心臓の手術をしていて、その手術や検査のため、ときどき病院に入院していた。母が教えてくれただけで、もちろん当時の記憶はない。無事に手術を終えてすくすく育ち、幼稚園か小学生になった頃、母が当時のことを教えてくれた。

おそらくまだ1〜2歳くらいで、小児病棟では1番といっていいほど小さかったわたしは、病棟の看護師さんに大変お世話になったらしい。入院中、母と離れるときにめちゃくちゃ泣き出すのをあやしたり、そうでないときも目をかけてくれたり。その看護師さんが、わたしの指先に顔を描いてくれていたのだった。

そのエピソードをえらく気に入ったわたしは、自分で自分の爪に顔を描くようになった。

右利きなので、顔を描くのは決まって左手。小指だけ、薬指とだけとひとつの指に描くこともあれば、全部の指に描くこともあった。違った表情を描いて遊んだこともある気がする。それでも、目をテンで、口元をくいっと上がる曲線で描く「ニコニコ顔」は必ず描いていた。

高校生、大学生になっても、このひとり遊びは続いた。ふと思い立ったときに、目立たない程度に顔を描く。点と線で描かれたシンプルかつ柔らかな表情が、寄り添ってくれるみたいで好きだった。


今日、久しぶり指先に顔を描いてみた。薬指と小指、それぞれに顔ができた。指をそろえてじっくり眺めると、親子かきょうだいみたい。いろんなことに忙しない気持ちでいたけど、少しやさしい気持ちになれた。うまく言えないけど、こういうちっぽけなうれしいを大切にできる世界がいい。何かに心を痛めたり、元気がなくなったりした日には、また爪に顔を描く。

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